第三十一話~第三十五話

第三十一話 絶望への距離 


エーリル「確かに、呪いがこの子を蝕んでしまっている…治せないくらいに…」

リリス「どうしたらいいか分からない…」

エーリル「とにかく、今すぐ死ぬ様な呪いじゃないことはわかる、だからこの子が呪いを解ける様に強く育ててあげるべきだよ」

リリスはまだ呪いから来る熱に魘されているノアの顔を覗き込む…

リリス(何故か分からないけれど、この子を守ってあげたい…)

エーリル「仕方ないねぇ、ここで暫く治癒と訓練していきな」

リリス「ありがとう…」

エーリル(初めてさ、リリスの人間らしい顔なんて)

エーリルの空間での3日後、ノアは初めて目を覚ました…

ノア(視界が歪む…眩しい…暖かい…ここはドコ?)

ノアは頭の中で情報を急速に処理し始める…

その時、リリスは扉を開けてノアが寝ている部屋に入ってくる

リリス「あれ?起きてたの?」

ノア(誰だ、俺が見たことの無い顔…)

ノア(…敵?) ノア(分からない…)

…ノア(有るのは、コップ…)

ノア(ガラス…)ノア(切れ味…)

ノア(近づく前に…)

…ノア(殺す!)

ノアはベッドの脇にあるコップをベッドの金属の枠組みに叩きつけ割る…

割れた中で一番、殺りやすい形を直感で選び掴む…

ノア(人の反応速度は3刹那ほど、殺れる!!)

ノアは吸い込ませる様にガラスの破片をリリスの首、頸動脈に差し込む…

4cmほど動脈を刺したなら人は一秒程で死に至る…

が…

リリス「随分、元気みたいで良かったよ」

リリスは指でガラスの破片を摘んでいた…

一瞥もせずにだ…

ノア(何!?)

リリス「さっきまで死にそうな顔してたのに、起き上がれる様になった側から殺そうとするなんて…」

ノア(まずい…殺される…)

リリス「流石、私の弟子!!」

ノア「弟子ィィ!?」

その声は別の部屋にいるエーリルまで聞こえていた

リリス「そう、君は今日から悪魔祓いだ」

ノア「…悪魔?」

リリス「居ただろう?地下に角が生えてたり口が裂けてたりする二足歩行の化け物」

ノア「…悪魔、だったのか…いや…違う…アレは…」

ノアは頭を抱えて膝をつく…

リリス「どうした?」

ノア「なんでもない、ただ少しグラついただけだ…」

リリス「それじゃ今日から立派な悪魔祓いになる為に訓練しよう!」

リリスはノアを脇に抱えると訓練場に出た…

リリスは武器がズラリと並ぶテーブルの前にノアを立たせた…

リリス「選びな、命を預ける武器だ」

ノアはテーブルを眺める…

右端から長くルーンが刻まれている剣、短剣、双剣、弓や斧、様々な武器がある中、ノアは黒く古びた包帯で閉じられた箱の前に止まった…

ノア「これにする」

リリス「他と何が違う?」

ノア「俺を呼んでる…手に取れと、そして他より俺に馴染みそうな気がする」

リリス「開けてみな」

ノアは包帯を外し箱を開ける

そこには全体的に漆黒で柄の部分に少し金があしらわれた双剣があった…

リリス(数ある武器からレリックを選ぶとは…流石私の弟子)


第三十二話 復讐と日常 


リリス「そいつを大切にしな、アンタが命を預ける武器だ」

ノア「ババアはどんな武器を使ってるんだ?」

リリス「…ババア?私はまだ29だ!ババアじゃなくお姉さんとお呼び!」

ノア「分かったよババア」

リリスは直後コートの内側から歪な形をしたリボルバーを取り出す

銃口はノアの方を向いていた…

リリス「お姉さんだ、良いね?」

ノア「姉さんな、ババア」

リリス「姉さんで許してやろう、クソガキ」

それからは毎日リリスと吐くほどのトレーニングをしていた…

随分時間が過ぎたある日、エーリルは皆が寝静まった後、訓練場の掃除に来ていた…

エーリル(なんだか物音がするねぇ)

エーリルが扉から覗き込むとそこには双剣を使い、如何に早く如何に多く殺せるか研究をしているノアが居た…

良く見れば既に双剣を両の手に保持する力もなく双剣は包帯で両手に結ばれていた…

エーリル(へぇ、人間にしては…)

ノア「これも違う…もっと早く…もっと静かに…もっと…もっと……」

エーリル(朝5時に起きてトレーニングを開始するのに今はもう朝3時、そろそろ止めるかね…)

エーリルが止めに行こうとした瞬間肩に手が置かれる…

そこに居たのはリリスだった…

リリスは歪なリボルバーで双剣の先を狙い撃つ…

直後弾を受けた反動でノアは倒れる…

リリス「今のが悪魔なら死んでいた、良いか?私の弟子である以上ルールに従ってもらう、一つ死なない事、二つ逃げない事、三つ仕事は必ずこなす事」

ノア「…」

リリス「今日は夜に仕事がある、お前の初仕事だ、だから寝な…初仕事で死なれたんじゃ困る」

ノア「分かった…」

リリス(今日の仕事はあの黒魔術師の殺しとその研究の抹消、私もついていくが…果たして上手くやれるだろうか…)

その日の夜…

雨が降っていた…

この地域では珍しくもない雨…

しかし普段なら地下の熱により出る湯気や霧などが音や雨から少し守ってくれる…

だがこの日、霧や湯気は一切立っていなかった…

ただ、ノアは見ていた…

地面に広がる紅と自分を蝕む黒を...

一時間前…

ノアとリリスは黒魔術師が拠点にしている建物に来ていた…

リリス「ここから先は何が居るか分からない、良いかい?悪魔を見たら殺すだけだ」

リリスはドアを蹴破りノアと中に入る

リリス(なんだいここは…空間湾曲魔法?外と大きさが違うじゃないか)

ノア「姉さん、右!!」

リリスが右を見た時には既に遅かった…

リリスの右から壁がリリスを包む様に伸びリリスの立つ地面はリリスをそちら側に引っ張った…

リリスはノアの方を見ると壁に包まれる直前に言い放った

リリス「悪魔を殺せ」

直後壁はリリスを包み込む

ノア(リリスはこれも読んでいた…合流の方法も分かる…だが)

ノア「どうやら俺の方は質より数らしいな」

直後、暗いホテルのエントランスの様な空間に赤い点がいくつも浮かび上がる

ノアは包みから棒のついた飴を取り出し咥える…

ノア「無くなる前に終わらせよう」


第三十三話 最狂の黒魔術師


リリスは壁に包まれた後、広い空間に来ていた…

リリス「へぇ…黒魔術師だけあるね、珍しい魔法が使える…」

リリスの目線の先には黒いフード付きのマントを肩からかけた赤髪の女性が居た…

リヴェル「貴方が連れてきた子は死ぬ…そして貴方も死ぬ…」

リリスはタバコを咥え火をつける…

リリス「死ぬのはアンタと悪魔だけさ」

リリスは歪な形をしたリボルバーの銃口

をリヴェルに向ける

リヴェル「ここに悪魔は居ないわ…あぁ、貴方はこの前の時の子達を悪魔と思っているのかしら?」

リリスは顔を顰める…

リリス「どう言う事だい?」

リヴェル「あの子達は皆んな人間の子供なのよ…私が少し弄っただけ」

リヴェルの口角は上がり不気味に笑っている…

リリス「…まさか、此処にも…」

リヴェル「えぇ」

リヴェル「いま頃貴方が連れてきた子と戦っているでしょうねぇ…」

リリス「貴様…」

リヴェル「あぁ、そうだった確か一体だけ上級悪魔クラスの強さの子が生まれたのよ…貴方の子、死なないと良いわねぇ」

リリスは引き金を引く…

直後暗闇に閃光が走り弾は出る…

リリスの放つ弾はリヴェルに着弾する寸前で弾き落とされる…

リリス(なんてこったい…さっきまで目が慣れずに見えなかったが…)

そう暗闇に紛れそれはあった…

リヴェル「邪神の写身」(クトゥルフ・コピー)

リヴェルの背後には黒水晶の触腕が蠢いていた

リリス「アンタ、まさか神域に干渉する魔術を…」

リヴェル「えぇ、邪神様こそがこの世を統べるのです」

リリス「なるほど、想像以上にイカれてるって訳だ!」

直後リリスは右に駆け出し弾を二発撃つ…

しかし弾は二発とも触腕によって弾かれる…

リリス(此処から確認できる触腕は6…8か11でないとおかしい…流石に黒魔術師とはいえ11本は顕現できないとすれば…)

リリス「8…」

直後リリスの背後から2本の触腕がうねりを上げ迫り来る…

リリスは振り返り様に触腕一本に一発ずつ弾を放ち軌道をズラす…

ギリギリで回避するとリリスはリヴェルに向けて最後の一発を撃ちリロードする…

リリス「困ったなぁ、こっちは六発なのに8本か…」

リヴェル「諦めて私の傀儡になる?」

リリスは咥えていたタバコを地面に落とし新しいタバコを咥え火をつける…

リリス「いや、今日の晩飯はたこ焼きにしようと思っただけよ」

リヴェル「いつまでそんな事を言っていられるのかしらね…」

リリス「許容上限…」

リヴェル「…?」

リリス「お前はその触腕を動かしている間は他の魔法を発動出来ないんだろう?だから空間湾曲も物体干渉もしない…いや出来ない、簡単じゃないか…腕が10本以上ある奴と戦った事もあるからね」

リヴェル「果たしてそうかしら?」

リリス「試してやるよ!」


第三十四話 兄弟


ノアには弟と呼べる存在が居た…

勿論本当の兄弟ではない…

しかし弟と呼ぶには十分過ぎるほど慕われ慕っていた…

名はニベルと言う、ノアが黒魔術師に囚われてから少しして連れてこられた少年であった…

歳も2つ程下でノアはニベルの前では明るく振る舞った…

ある晩…

ニベル「ノアにぃは外に出たら何をしたいの?」

ノア「そうだなぁ…もし出られたらお前と出るからお前と一緒に考えるよニベル」

ニベル「へへ…ノアにぃらしいね」

ノア「ニベル、もう寝よう」

ニベル「でも最近すごく怖い夢を見るんだ…」

ノア「大丈夫さ、夢の中でも俺がニベルを守ってやるよ!」

ニベル「うん!」

次の朝が来た時、ニベルは連れて行かれた、重厚な鉄の扉の向こうに黒魔術師に連れて行かれた…

ノアは止めようと抵抗したが魔法で壁に吹き飛ばされ意識が朦朧とした…

重厚な鉄の扉の錆びて欠けた隙間から緑色の光とニベルの絶叫が響いてくる…

何度も何度もノアの名前を呼びそれと同じくらい助けてと叫び暫くして声はプツリと聞こえなくなった…

次に扉が開いた時、黒魔術師は「コイツもダメか」と言っておそらくニベルだった肉塊を投げ入れた

ノアは絶望を知った…

絶望を"した"…?

そんな生易しいものではない、絶望を叩きつけられたのだ…

現実と絶望の濁流が幼いノアの心を黒く染めていく…

黒色が反射せず光を飲み込む様にノアはひたすら絶望を飲み込んだ…

気がついたら涙と声は枯れていた…


第三十五話 そして…


そして時は現在にもどる…

ノア「やはり質より数か…」

ノアは悪魔達の死体の上で半分程残った飴を噛み砕く…

口の中にストロベリーの甘くも酸っぱい味が広がる中、ノアは感じ取っていた…

ノア「お前が本命か…」

ノアの背後から迫り来る悪魔を…

ノア(さっきとは比べ物にならない魔力を感じる…)

ノアは振り返り見る、その悪魔を…

それはブレーキの壊れた機関車、安全装置のないジェットコースター、羽の折れた飛行機の様な物を感じる…まさにバーサーカーだった…

直後、その悪魔は視界から消える…

ノアは双剣でガードをする…

直後ガードの上から人ならざる力でノアは殴り飛ばされる…

ノア「グッ!!」

ノア(コイツは、リリスが言っていた上級悪魔って奴だよな…まだ戦うなと言われていたが…)

ノア「ルールで逃げるなと言われているしな」

ノアは双剣を構える

ノアは右から迫る悪魔の拳を躱し悪魔の左脇腹を切り裂く…

しかし、傷が再生していく…

ノア(回復持ちかよ!!)

ノアが右の剣で悪魔の左膝の靭帯を切り、悪魔が倒れながら振り向きざまに放つ左の拳を左の剣で下から肘先を落とす…

刹那、ノアは悪魔の目を右の剣で切る

ノア「流石に重要な機関は再生が遅いだ…」

ノアはその瞬間聞く…

悪魔「オ…オマ…エハ、ダレ?」

ノア「悪魔祓い見習いのノアだ」

悪魔「ノ…ア…?」

ノア「あぁ、そうさノアだ」

悪魔「…ノア…ニィ…?」

ノア「…は?お前…名は?」

悪魔「ニ…ベル…」


続く

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