吐露

 「あなたは…今までずっとわたしの影に潜んでいたんですか?一体何故…」そう問い掛ける、困惑した表情の真白。


 「理由があってね、ずっと影に潜っていたんだ…でも影の中で影に溶けることなく存在し続ける為には、が整うまで外の世界には出てはならないという不文律があってね…そういう訳で、この色無し世界を住処すみかとして永らえていたのさ…」黒が歪んだ笑みを浮かべながら返答する。


 「とある条件…?」


 「きみが知る必要はない…さて、こうして対面出来たことだ、改めて自己紹介し合おうか…ぼくのことは…そうだな、黒とでも呼んでくれ…他の分情みたいにね。」


 「!!」


 「何を驚くんだい?言ったろう、って。当然外の世界のことも全部知ってる。他の分情共も、ドッペルゲンガーとかいう連中もね。」黒がせせら笑う。


 「…じゃああなたは…あなたは、わたしと彼女達の関係性を知っててあんなことをしたんですか!」


 「あんなこと?」


 「どうして焔さんを傷付けたんですか!!わたしが感情と記憶を取り戻すのに、彼女がどれほど協力してくれていたか…見ていたのなら分かるでしょう!?」


 「……」


 「どんな理由があれ、あなたはわたしの大切な人を傷つけた…事情を話してもらえるまでは…」


 「黙れ!!!」


 それまでじっと耳を傾けていた黒だったが、突如怒声を上げる。


 「!?」その迫力に思わず身が固まる真白。


 「おまえは……おまえはぼくがどれほどの思いで…」


 「…?」


 「…おまえにはぼくがいればいい…ぼく以上にお前を分かってやれるやつはいない、だからおまえもぼくだけを頼れ…このぼくだけを…」


 「……」


 絞り出したような小さい声でそう呟やいた黒…真白はそんな彼女の態度に戸惑いを隠せないでいる。


 「…ぼくはきみには絶対戻らない…きみに頼られるぼくがいなくなっちゃうんじゃ、本末転倒だからね。」再びその黒い目を真白に向け、いびつに笑って見せる黒。


 「あなたは…一体…」



 (真白さん…)不意に響く声。


 「…!どうしたんですか青さん?」その声の主は、真白の「哀しみ」の分情、青だった。


 (緑さんとの戦いで使った情力、その回復にもう少しだけ時間が掛かります…それまでは向こうの情報が未知のまま戦うことになりますが…大丈夫ですか?)


 「……」真白は言葉に詰まる。最悪、自身の情力「半死半生」を駆使し「肉を切らせて骨を絶つ」という力押しの戦法を展開しようと考えていた。今までだってそうしてきたし、粘り強くこらえることで相手の気持ちが変わるのを待つ…そんなやり方こそ、「慈しみ」を司る自分に相応しい戦い方だと、真白は信じていた。


 だが黒の剥き出しの気持ちに触れ、今回ばかりはそんな受け身の姿勢では到底、分情にくしみに打ち勝つことは出来ない…いな、たとえ勝てたとしても何も解決したことにはならないと、彼女は本能的に理解していたのだ。


 「…ともかく今はわたし達で時間稼ぎをします…無茶をさせますが、なんとかその間に力の回復をお願いします!」真白は続けて色違いの自分に依頼する。「黄さん、赤さん、協力を!」


 (了解っす!)


 (やむを得ねぇか…!)


 モノクロームの世界で、そのしのぎの作戦が開始された。

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