形影相同

 「「喜び」か…ぼくからは天と地ほどかけ離れた感情だね。」真白の髪と目は黄色に染まっていた。つまり今、真白の身体は黄の支配下にある。


 「そっすね、あたしもあんたとは気が合わなさそうです。」皮肉めいた笑みと共に、彼女は腰のベルトから警棒を引き抜く。対する黒はおもむろに掌を地面にかざした…すると彼女から延びていた影の濃さが増し、まるで黒い水溜まりのように波打ち始める…そしてその影から、が黒の手まで伸びてきて…


 「…へぇ、かっこいいじゃないすか…漆黒の刀だなんて…」真白こうに茶化された黒はそのきっさきを彼女に向け…姿


 「なっ!?」突然の消失に戸惑う真白こうだったが、すぐに気を取り直して周囲を警戒した…するとその足元の影から、夜のように真っ黒な刀身が真白こう目掛けて飛び出して来た。


 「うわっ!?」真白こうはなんとか横に飛び退いてわしたつもりだったが、刃が脚をかすめてしまい、鮮血がパッと飛び散る。


 「あの人…を移動出来るんすか!?」仰天した真白こうは同じわだちを踏まぬよう、その強化された脚力を使って宙高く跳び上がる。


 (黄、代われ!おれが出る!)赤が心の中から呼び掛け、真白の髪と目が赤に変わる。


 「水鉄砲!」空気中の水分が真白あかの差し向けた鉄棒の前に集約され、その水弾が黒目掛けて放たれる。


 「…形影けいえい相同そうどう…」


 水弾が黒のいる場所に着弾し、激しい水飛沫みずしぶきが立ち昇る。パシャン、と音を立てて地上に降り立った真白あかは、荒立った水が細かい粒子となり霧のように立ち込めている様子をじっと見て、黒の様子を伺っていた。


 「今度は「怒り」の分情…赤、と呼ばれていたっけ?ぼくに近い感情なだけあって中々強そうだ……が、ぼくには効かない。」その白い空気から、真白あかを小馬鹿にするような声が聞こえる。


 「…あの体格でこれをまともに喰らえば少なくとも数m吹っ飛ぶ…そうならねぇってことは…」いぶかしげに細められた真白あかの目…その先には己の影をまとい、まるで黒い外套コートに身を包んだような姿の黒が立っていた。「あぁ。君らの情力はぼくには当たらない…、ね…」黒は口元を歪めて真白あかを嘲笑した。


 「…んの野郎…!」真白あかのもつ警棒、そのふちを水が、まるでチェーンソーのように循環し始める…そのまま黒に向かって走り出し、その凶器を全力で振り抜いた…だがその攻撃もむなしく、警棒は黒の胴体をすり抜け空を切る。


 「効かないと言ったよ!」黒は刀の背を使い、真白に強烈な峰打ちを喰らわした。


 「かはっ…!」肺の中の空気を一気に吐き出し、苦しみに身体を折る真白…そんな彼女に黒は追撃で蹴りを入れ、真白あかは大きく後ろに吹っ飛ばされてしまう。


 「ぐっ、ごほっ…ちくしょう…あいつ、攻撃の瞬間だけ影を引っ込めて部分的に実体化させてやがる…これじゃあこっちの攻撃だけが効かねぇじゃねぇか、くそったれが!!」痛む身体にむち打って立ち上がらせ、体勢を立て直しつつもきちんと悪態をつく真白あか


 (実体がないんじゃ、どんな攻撃も効かないじゃん!?どうするんすか真白さん!)黄が慌てふためく。その様子を見て、もどかしい様子で青が皆に懇願する。(すみません、情力が使えるようになるまであと少しです…それまで皆さん、なんとか耐えてください!)戦況は依然として黒の有利な状態だ。

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