松明に火を灯して

 「うちな…物心ついて少ししたときには、もう血の繋がったもんはまわりに居てへんかったねん…ほんまの父ちゃんと母ちゃんはある事件に巻き込まれて命を奪われたらしくて、ほんでうちの父ちゃんと親しかったらしい人がうちのこと引き取って育ててくれはったんや。その事件の日、両親はうちのことをその人に預けてたらしくてな、全部教えてくれたんや…うちのこと、実の子みたいに扱ってくれてたと思う。」焔は夜の空を眺めながら話を続ける。


 「まぁ一般家庭とは言えんくて、詳しく話すとややこしくなるんやけど…簡単に言うとその人らは、とあると戦ってたんやわ…世の中のとな。そんでうちはその育ての親に戦い方を教えてもらった…その人は「あんたはこっちの世界やのうて、穏やかな光の当たる世界で生きていき。」って言ってくれたんやけど、うちはその人達に恩を返したかった…


 あとその人達には一人娘がいてな、うちと同い年でめちゃめちゃ正義感の強い子やった…うちはその子と何回も任務に参加した…守り守られ、二心同体があれほど相応しいコンビはおらんやろ、って言われるくらい息が合ってたなぁ…でもその子はある任務中、帰らぬ人となってしまった……うちをかばってな。」


 「!」焔の話に耳を傾けていた真白は、思わず目を見開く。


 「結局その子もその子の両親、つまりうちの育ての親も…二人ともその任務でやられてしもうた…うちだけが生き残ったんや…」焔はそっと目を伏せ、話を続ける。


 「うちは絶望したし、そんな世界に腹立ってしゃあなかった…でも一番ムカついたんは他でもない、何も出来んかった無力な自分に対してやった…でも自分の命を自分で終わらせることは出来んかった。そないなことしてもうたら、それこそあの人らが命を賭けてうちを守ってくれた意味がなくなってしまうから…うちはあの人らへの恩に少しでもむくいる為に、悪い奴らを懲らしめるべく活動しとった…そんな時、あんたらと出会ったんや。」焔は真白へと向き直り、静かに告げる。


 「ええか真白。逝ってしまった者を思い慕う、うちら残された者がすべきことはただひとつ…その人らが自分を残してくれた意味を求め、探し続けることや。己を犠牲にしてまでうちらをこの世に留めてくれたその意味、己の生かされている理由は何か…どんな険しい道やろうと、うちらは歩みを止めたらあかん…それがあの人達への救いになるはずやし…きっと生き残った自分の為の救いにもなるんや。」焔の口調は、まるで自分に対して言い聞かせているかのようでもあった。


 真白は焔の目を正面から見据える…松明たいまつの火のように揺らめきながらも、強くまばゆい光を発する目…


 「焔さん……まだ間に合うでしょうか…」不安げな顔で尋ねる真白に、焔がにやりと口角を上げる。「はっ、当然やろ!この焔さんが間に合うまで付き合ったるわ!!」

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