白髪の美少女

 時刻は既に午後九時半を過ぎている。音のした方へ向かってきた真白達一行は、ショッピングモールの一角が燃えているのを見てとった、辺りには野次馬も集まっている。


 「何かあったんですか?」韋駄天がその一人に尋ねると「なんか誰かが暴れてるらしいよ。訳分かんないことわめき散らしながらあちこちを破壊してるとかなんとか…ほんと最近、物騒な奴が多くなってきたよねー…」そう教えてくれた。その人にお礼を言い、野次馬から少し離れたところで真白が韋駄天を見る、すると彼女は顎に手を当て、神妙そうな表情を浮かべていた。


 「何や、何か引っ掛かることでもあんのかいな?」焔が尋ねると、


 「うん、さっきから音が止まないじゃん?でもちょっと続き過ぎだなーと思って。あれだけ破壊活動を継続させられるんだ、よっぽど事前準備が充実してるか、或いはタフなヤツが暴れてるんだろうけど…」


 「けど、何やねん?」


 韋駄天は焔の方を見た。


 「いや、流石に休憩なしすぎやしない?何か道具を使ってるにしても一定のタイムラグはあって然るべきだと思うのねわたしは?……ということは…」


 「ということは?」


 「…犯人は具情者である可能性が高いってこと!」韋駄天が言った。


 「とにかくもう少し近づいてみよう、百聞は一見に如かずってね。」真白達は爆発音のする場所へと近づいていった。




 「ハハハハァ!全部壊れちまえェ!!」


 真白達が到着すると、二十代くらいの男が笑いながら吠えているのが目に入った。


 「あれが犯人か…悪い予想が当たったね。」焦点の定まらないその男の目は…緑色に光っていた。


 「さてどうする?こうも人がいると、下手に情力は使えないよ。」


 「そやなぁ…うちの力をここで使うと余計被害出そうやし、あんたの速足でどないかするにしてもあいつの力が何か分らん以上、不用意に近づくのは避けた方がええよなぁ…」


 突破口が見い出せずにいる彼女達、そしてその間も男は破壊活動を続けている。


 「アイツの情力…この音に加え火の手が立ってるってことは、直接触れずにモノを爆破させるとかのものなのかな…そんでもってその原動力たる感情はあの感じだとおそらく「楽しみ」…どうやら「喜び」や「怒り」とは異なる系統の情力が発現するみたいだね…あ~、もっと近くで観察したい!」ここで韋駄天の悪癖あくへきが出てしまう。


 「…いや言うてる場合か!はよ止めんと被害どんどん拡大してまうやん、どないすんねんな!」わたわたする焔…その時だった。




 「失礼、通して頂けますか?彼を止めなければいけませんので。」聞き馴染みのない声が三人に聞こえる。




 真白達が振り向くと、そこには雪のように白い長髪をなびかせた絶世の美少女が立っていた。


 「これ以上被害を広げる訳にはいきません、早急に彼を沈静化し、負傷者の確認と治療を行う必要があります。」彼女はその美貌に見とれている韋駄天と焔にそう告げる。


 「え…ちょ、止める言うても、あいつはただの暴れもんとちゃうで!けったいな力でモノを爆発させとるんや!」慌てて止めようとする焔をちらりと見ると、その少女は少し微笑み「大丈夫ですよ…私もそのな力をもつ者なので。」そう言って男の方へ向かっていった。


 「私も、って…じゃあ、あの別嬪べっぴんさんも!?」


 「具情者、なのかな?見て、彼女動くよ。」


 目を向けると、その女性の手にはなんと…刀が握られていた。


 「あァ!なんだテメェ、オレの邪魔しようってのかぁ?」


 「あなたが破壊活動をやめないのであれば、そうなってしまうかと。」静かな、それでいてよく通る声で男に告げる。


 「へへっ、ちょうどいいやぁ…建物ばっかぶっ壊すのにも飽きてきた頃だし…ちょっと相手してくれよ!!」男は彼女目掛けて走り出そうとした…しかしその瞬間だった。


 白い少女が、皆の視界から消えたのだ。


「な…彼女、どこに行ったの!?」目を凝らす韋駄天。「…韋駄天、見てみ…!」焔が指さす方を見た韋駄天。「え…いつの間に…!?」彼女はなんと、男の背後を取っていたのだ。


 「……」既に男の意識は飛ばされ、前のめりに倒れそうになるその服のすそを、大柄とは言えない白い少女の細腕が掴む。


 (あの体格差やのに腕一本で…あの別嬪さん、何者なにもんや…!?)


 焔はその美しさからは想像もつかぬ底知れなさに、人知れず戦慄を覚える。


 「さて、負傷者がいないかどうか確認しに行く前に…貴女あなた達、怪我はありませんか?」怪我しない程度の距離まで男の顔を地面に近づけ手を離した彼女…凛とした声を発するその瞳は……青く輝いていた。




 真白達を遠くから見つめる者が一人。「ククク…どうやら、次の暇潰しに丁度良い子達が見つかったみたいだね…」を細めながら、彼女はその場を立ち去った。

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