輝劇、第二幕(中編)

 「その二人は、僕が戦ってきた中でも一、二を争うほどの強者、油断してると一瞬でやられちゃうよ。」不規則に輪郭が揺らぐはく黒奈くろなの残光…二人を前に、真白くろは憎しみのあまり震える身体をなんとか抑えていた。


 「ほら、君が会いたがってた両親だよ?もっと嬉しそうにしたらいいのに!」皮肉などではなく、本心からそう思い口にしている光…完全に共感性が欠落してしまっている彼女に、こんな形で最愛の人と再びこの世で相見あいまみえることとなった真白の心情など微塵みじんも理解出来なかった。真白くろは地面を強く蹴り、影をはためかせて光へと切り掛かるが…


 「!」


 そんな彼女の一撃を白が防ぐ。


 「…!?」自身の攻撃を受け止められた真白くろ、残光とはいえ自身の父を攻撃してしまったことに一瞬動揺するが、それよりも気になったのは…


 (なんだ…攻撃が…された!?)


 真白くろが全力を込めて放ったはずの一閃は、少しも力を入れているようには見えない白の残光がその手にしている、棒をかたどった光によって呆気なく防がれてしまった。そしてその後ろから黒奈の残光が、手にした光り輝く刀で真白くろに斬り掛かる。


 (黒、避けな!!)珍しく慌てた様子でそう声を掛ける緑。心の中の警告に従い、真白くろは影を使って大きく後ろに退いた。「どうしたんだ緑?黒は全身に影をまとってるんだから、直接攻撃は効かないはずだろ?」心の中、怪訝な顔をする赤。


 「…なんだろうね、上手く説明できないんだけど…母さんの方の残光、あの攻撃は絶対に受けたらダメだ。防御ではなく、回避しなきゃいけない、ってことだね。」引き続き、似つかわしくない真面目な顔でそう告げる「楽しみ」の分情。


 「…きみに同意するのはしゃくだけど、その方がよさそうだね。流石はぼくらの母親、今まで戦ってきた情力者と比べて明らかにに異質だ…」眉間に皺を寄せた黒は続ける。


 「それに父さんの方もかなり特殊な力みたいだよ。さっき父さんを攻撃してしまった時、かなり力を込めて放った一撃がいとも容易たやすく受け止められてしまった…まるで「攻撃」という概念が無効化されたかのように。」


 (攻撃を…無効化!?もし…もしそれが本当なら、そんな相手にどう立ち向かえばいいんすか…!)黄は、そのあまりに信じ難い分析に唖然とする。(…確かに、もし父さんの情力が本当に「攻撃を無効化する」モノだとしたら、正直勝ちの目が見えない。でも…でもそれよりもぼくにとって辛いのは……くっ!)真白くろは悔しさのあまり、血がにじむ程に手を握り締めていた。……二律背反の状況に苦悩しつつも、彼女は改めて目の前の残光かぞくと向かい合った。


 突然、黒奈が刀を真白くろ目掛けて投擲とうてきする。「!!」その刀を、身体をひねってかわそうとする彼女だったが…


 「なっ!?」


 その投げられた刀を、目にも止まらぬ速さで彼女の眼前まで接近した黒奈が掴み、そして斬り掛かってきたのだ。「くっ…「衣香襟影」!」寸前、影が真白くろの身体を覆い、黒奈の攻撃はその陰をすり抜ける……筈だった。


 (馬鹿な!?今の黒は影を纏っている…刃がその身体を通る筈はないのに…!)刃がかすめた部分から真っ赤な鮮血が飛び散る様を見て、心の中で赤が目を見開く。「やはり、彼女にも特殊な力が…!」足元にポタポタと滴る血を一瞥し、真白くろは冷や汗を流す。


 「…さっき言ったけど、その二人の強さは色んな意味でんだよ。」離れた所で戦いを見ていた光が、片手を腰に当てる。「その人達の情力名、そして僕ら裏社会の間で、彼らがなんて呼ばれてたか教えてあげるよ。」彼女はニヤリと笑みを浮かべ、白と黒奈を見た。


 「「矛不知ほこしらず」と「盾不知たてしらず」さ。」

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