輝劇、第一幕(後編)

 「何!?」光が放ったその矢は、何と真白あかの水膜を造作もなく貫通してみせる。「くそっ!」その衝撃で水膜が弾け飛び、真白あかは残った周囲の水を縄状に変え、近くの木目掛けて飛ばしくくり付ける。


(黄、あの木まで行ったら代わってくれ、てめぇの速さであいつに奇襲を仕掛けるんだ!)心の中でそう言った彼女は水を操作して移動し、追撃で放たれた矢を間一髪でかわした。


 「お任せっす!」目と髪が黄色になった真白こうは、枝への着地と同時に光の方へ突進し、電光石火の一閃を打ち放った。「効かないよ!赤いキミと同じ理由でね!」しかしその一撃は、光子となった光の身体を虚しくすり抜けてしまう。


 「やっぱダメっすか…うわっ!?」光の身体を中心に小さな光の軌跡が円状に回転し、慌てて後ろに回避する真白こうだったが、服の先をかすめたらしく、ボッ、と音を立てて服が燃え始める。


 「隙がないねぇ…」感情が入れ替わり、髪と目を緑色に染めた真白りょくは、その燃えた部分を瞬時に凍らせながらニヤリとほくそ笑む。


 「さて黒……そろそろいけそうかい?」心の中へ問い掛ける緑の少女。「?何の話かな?」少し微笑みながら首を傾げる光に、黒い髪と目…そして少女が憎々しげに彼女を睨みつけ、低い声で脅迫きょうはくした。


 「…お前をあやめる話だよ…」


 「激情紋様、そして黒色の君…やっと本気を出してきたって感じかな?」余裕を崩さない光を前に、真白くろは手にした武器をホルダーに片づけ、影から黒い日本刀を出現させる。


 「お前は言ったな、闇は光に敗北すると…気付いてないようだから教えておいてやる…」その影がゆらゆらと立ち昇り、真白くろの身体を覆ってゆく。


 「やみは…光から生まれるんだよ…!!」憎悪の情念が大気を侵食する。光はそのあやしい目に一瞬不自然な赤色を宿らせた後、緑色の虹彩を一層輝かせて、向かってきた真白くろの一撃を光剣で防いだ。


 木々が薙ぎ倒され、空気が振動する…黒刀と白剣は何度もぶつかり合い、蛇のように這い寄る影を、鳥のように自由自在な白光びゃっこうが掻いくぐっている…


 「衣香いこう襟影きんえい!」


 「残光ざんこう緞帳どんちょう!」


 影の棘と光の剣が無数に交差し激突する。攻撃の余波によってそこかしこで土煙が上がり、川の水飛沫みずしぶきが跳ね上がった。


 「あははは、楽しいねぇ!「虚光」を演じている状態での僕と渡り合えるやつなんて今までいなかったよ、強い強い!!」情力で宙に浮きながら、光は壊れたおもちゃのように笑い転げる。一方の真白くろはこれでもかというほどに黒い目に殺意を宿らせ、鞭のように影をしならせている。




 光の過去を知り…それでも真白くろは、自らの黒い情念を他の色で塗り潰すことは出来なかった。


 うしなったものはあまりにも大きく、そしてとうとかったのだ。




 「やれやれ…楽しいのはいいけど、これじゃらちが明かないや…ここは一つ、に協力をしてもらおうかな!」立ち止まった光は不意に右手の光剣を地面に突き刺し、そして不敵に笑みと共に呟いた。




 「輝劇きげき次幕じまく虚光きょこう投影とうえい。」

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