眼光、紙背に徹す

 真白あおの身体には青い激情紋様が浮かび上がっていた。彼女の平時の情力名は「夜目よめ遠目とおめ」、その字が表す通り、夜の様に深くくらい「未知」を分析し、遠い未来を先見する力であった。そしてその上位互換、激情、悲哀「神ノ目」は「視たいモノを視る」まさに神の視点だ。


 真白あおはその力を使い、光が今の光となった過去の軌跡を視た。だがこれ程の力故、当然その代償も大きい。激情紋様は消え、真白あおは戦闘はおろか、目下少しも情力を使えない状態となってしまっていた。


 白いきりが晴れてゆき、再び光の目に真白の姿が映る。「やぁ、久しぶりだね。」光は緑色に戻ったその目で真白に笑い掛ける。「青色…五感の強化に関わる情力だね…さて、何を見たのかな?それとも聞いた?」「…あなたの過去を。」


 「!?」


明らかに動揺した様子の光に、真白あおは話を続ける。


 「あなたがどうして今のあなたになったのか、それを今知りました。ですが……今の光景は、本当に座長さんが望んでいたものなのですか?」


 「……………」目を見開いたまま微動だにしなくなった光。「今のこの世界で…本当に座長さんは、心の底から笑顔で…幸せでいられるのですか…?」




 「………うるさい…」光から発せられる情念、その雰囲気が変わった…これは「怒り」だ。「僕達のこと、何も知らないくせに……君が僕にこだわる理由、思い出したよ…憎らしげな表情の君を見て、なんか引っかかってたんだよね、「どこかで会ったような…」って……君、あの夜僕が面白いと思って逃がした子だよね…?」光が真白を指差す。


 「黒髪と白髪の強かった具情者、二人と一緒に逃げてた子だよね!二人が動かなくなってから急に情念が跳ね上がって…そうだそうだ、君と同じ見た目で色だけ違うやつが五人現れたんだっけか!…いやぁ、何でこんな面白いこと今まで忘れてたんだろう?」そして発された彼女の言葉。




 「本当に凄かったよ…たった五人で百人以上いた具情者、にしちゃうんだもん!」




 全ての感情が戻った時、真白もその事実を思い出していた。しかし改めて他者にそのことを言及され、真白の顔が苦しそうに歪む。


 「あの時具情者大群に混じって、僕も君達と遊んでたんだけど…多分楽しすぎて記憶が飛んじゃってたんだな…結局その場で生き残っていたのは君と僕だけ…あっは!そーいや何百人の内、半分は僕が殺っちゃったんだっけ~!?白と黒以外の君はそのままどっかに行っちゃったし、僕も用事があって、倒れてた白い君を置いてその場を離れたんだけど…いやぁ驚いた!」


 ケラケラと笑い声をあげる光だったが、やがて笑うのをやめ、吐き捨てるように呟いた。「でも、あの時息の根を止めておけばよかったよ…こんなにも不愉快な気持ちになるなんてね…!」

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