満たされない少女
ズン…と腹に響く低い音が、色橋の片隅で鳴り響いていた。
「…ちっ。」
「ムカつくなぁお前、さっさと当たって
「そんな不細工な攻撃、この美しい私に当たる訳ないでしょ?無様な寝言は寝て言いなさいな。」髪の毛を指で
「自分の感情すらコントロールできない愚か者なんて触りたくもないけど…まぁいいわ、そろそろ終わりにしてあげる。」御櫛は着ている上着を脱ぎ、腕の方向に投げつける。するとその服は形を無くし、糸状の物体にまで分解され、物凄い速さで腕に絡みついた。
「!!」腕の驚きの表情はまもなく苦悶の表情へと変わった。「ぐ…がぁ…」気道を塞がれ息を詰まらせる腕、徐々に宙へもち上げられてゆく彼女を見上げ、御櫛は話し始める。
「どう、美しいでしょ?私の情力「
「さて、言い残すことは…どうせないわよね、ってか聞く価値ないし…そういう訳でこのままさっさと…あの世に送ってあげようかしらね!」腕を締め付ける髪の強さが増し、彼女の肺が圧迫される。酸素の欠乏で薄れゆく意識の中、彼女の空腹もまた限界を迎えようとしていた…
「!!」
御櫛は突如その場から跳び退いた、情念の異常な変化を感じたからだ。本体との距離が出来た彼女の上着は髪の毛の状態に戻り、はらはらと腕の足元に落ちた。そしてそれをぐしゃりと踏み
「激情態…!」御櫛が聞いていた情報は、腕が腕力を操作する具情者だということだけ。激情者であるということなど聞いていない…しかしそれもその筈、腕はたった今激情者として覚醒したのだ。
彼女は常人に比べて非常に燃費が悪く、どれだけ食べてもすぐエネルギーとして消費されてしまう。そして空腹の一定線を超えてしまった彼女の目には最早、敵も味方も関係ない、全ての生き物が
「この…!」我に帰った御櫛は再び髪の毛を操作し
その様子を見て青ざめた御櫛、その場からの逃走を図り、迂闊にも一瞬腕に背を向けてしまった……
その時点で御櫛の運命は決した。
彼女は高速で間合いを詰めた腕に力一杯殴られ、
御櫛が激突したビルが音を立てて崩れてゆく中、血のべったり付いた拳を舐め回す腕…彼女にとっては不幸だが、他の人間にとっては幸運なことに、その時周囲に人はいなかった。食料のない彼女は何も喰らうことが出来ずに暴走を始め、腕力に任せて手当たり次第に街を破壊する…周囲の景色が、どんどん原型を失ってゆく…
乱暴がしばらく続いた後、急にその音が止み、ドサッと鈍い音がした。果たしてその音の出所は…重心を失い地面に倒れ込んだ腕だった。
…彼女の情念は、跡形もなく消失していた…
激情態を使い過ぎた代償として、心が焼き切れてしまったのだ。
色味を失った彼女の目…その
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます