情力目白押し

 「♪〜」瓦礫の中を歩く少女、そほ砂羅さら。彼女がつけているヘッドホンからはクラシック音楽が漏れている。ふと立ち止まり、そのヘッドホンを外した彼女。その赤い視線の先には…


 「お、具情者!てことは…キミがワタシの相手かな?」砂羅を指差しウインクを決めてくるその少女、雰囲気はどこか韋駄天に似ている。


 「……」何も言わないが、砂羅のストレスメーターが上がったのは確かだ…彼女のまぶたがピクリと動く。


 「へいへーい、ノリ悪いぞーキミぃ!ほら「此処ここで会ったが百年目!」、say

!」耳を澄ます仕草をとるその子に、とうとう自制心が効かなくなった砂羅…情力を発現させ、彼女の少し手前目掛けて岩石を飛ばす。とはいえ一応は威嚇程度の攻撃、その子に当てるつもりはなかったが…


 「情力発現、「憑虚ひょうきょ御風ぎょふう♪」突如強風が発生し、その岩石は軽々しく吹き飛ばされた。目を見開く砂羅を愉快そうに見つめるその子は高らかに、そして軽やかに名乗りを上げる。


 「エモートゥス戦闘部隊、マイネームは槿花きんからんだよ、シクヨロベイベ〜!」




 場面は変わり、今や廃墟と化したビルの中、グリーン・バルのメンバー次縹つぎはなだ観錯みさきは、瞳に指示された場所を目指しコツコツと足音を立てて歩いていた…


 そんな彼女を見つめる者が一人。その者は腰のホルスターからハンドガンを取り出し、容赦なく引き金を引いた。サイレンサーがついているので発砲音は出ず、普通ならその弾丸をかわすことは出来ない…が、知っての通り観錯は普通ではない。彼女はそこから弾丸が飛んでくることが分かっていたかのように、視線も動かさずに半歩身を引き、造作なくその銃撃を回避した。


 「きゃっ!…だ、誰ですか、今わたしを撃ったのは!!」わざとらしく慌てた様子でわめく観錯だったが、内心は全く動じていない。その証拠に彼女の目は極めて冷静で、弾丸の飛んできた方を注意深く観察している。


 「ちっ、外したか…」悪態をつき、狙撃主は観錯の前に姿を現した。「初めましてだな具情者…私の名は薄花うすはな分目わくめ、お前が人生で最期に聞く名だ、よく頭に刻みつけておけよ…」中性的で整った容姿だが、その表情は「底意地が悪い」という表現がぴったり、悪役そのものの様相を呈していた。「そんな…わたしの最期だなんて…酷い…!」恐れおののく様子の観錯だったが…


 「そうだな…まずはその、無様でくだらない猿芝居をやめてもらおうか、不愉快極まりない…」分目に鋭い視線を送られた観錯…するとそれまでの態度は一変、観錯は本性を現した。「なんだ…あなたわたしとですか…やれやれ、邪悪過ぎて嫌になっちゃいますね…」彼女もまた、性格の悪そうな目つきで分目を一瞥いちべつする…


 瞬間、煙玉を分目の足元に投げつけ、その場の視界が瞬間的にゼロになる。「なんだ、出会ったばかりだというのに、随分ずいぶんご挨拶じゃn…!」皮肉を言うのも束の間、分目は突然目の前に現れた観錯と目を合わせてしまった。


 「情力発現、鵜目うのめ鷹目たかのめ…」彼女の青い目は、見た者の夢現ゆめうつつを曖昧にする…分目は幻術におちいり、視覚は完全に観錯の支配下に置かれた…筈だったが…


 「情力発現「岡目おかめ八目はちもく」」分目は腰からサバイバルナイフを抜き、観錯を切り裂いた。「はは、莫迦ばかな奴!お前の情報は既に入ってるんだ!そうでなければむざむざと姿をさらし、阿呆のようにお前の目を見る訳がないだろう!?」嗜虐的な笑みを浮かべてそう吐き捨てた分目は、観錯に目をやった……


が。


 「果たして莫迦はどちらですかね…?」その予想は裏切られ、彼女には何の動揺もなかった。


 「成程わたしの情報は筒抜けかもしれない…ならその逆もまた然り、こっちにもあなたの情報は来てますよ。」瞳から分目の情力に関する情報を聞いていたこと、そして持ち前の用心深さから、彼女もまた腰からサバイバルナイフを抜き、その斬撃をしっかりと防いでいたのだ。


 「…やっぱり、を幻術にかけたところでダメだったか…あなたの情力は…「視界の分割」ですよね?」彼女の問い掛けに、分目は眉をピクリと動かす。


「…あなたは一応「哀しみ」の具情者に分類されますけれども……「哀しみ」を背負っている風には、とてもじゃないけど見えませんね…」「それは…お互い様だろう…?」売り言葉に買い言葉。「そんな歪んだ目してるくせに、善人ぶったポジショントークなんかするな、図々しい奴め…!」悪意が凝り固まった暴言。鍔迫り合いの中、二人の具情者は悪魔のような笑みを浮かべながら吐き捨てた。


「「哀れんでやるよ……この下衆げすが…!!」」

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