Emotus(エモートゥス)

 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 真白達の会話からほんの少し前の時間。


 韋駄天は完全にバテてしまっていた。戦いが長引くにつれ、持久戦が苦手な韋駄天はどんどん追い込まれている。彼女が満身創痍な状態であるのに対し、心は無傷どころか、その息すら乱していない。


 「…予定より早いわね、でも…始まったか…」「え…!なんだあれ!?」


 大きな音を立てながら空へと上昇を始める電波塔、韋駄天はあまりに現実離れした光景に言葉を失っていた。


 「さて、と…私の任務はここまでかな。」心は情力の発現を止める。「あたし、あなたのこと気に入っちゃった!とどめは刺さないわ。」そう言いながらしゃがみ込んでいる韋駄天の方へ歩いてくる。「立て…そうにないわね。」くすりと笑った心も一緒に座り込み、一緒に浮かび上がる鉄の塊を眺める。


 「…はぁぁ〜、なんかすごい悔しい!…自分の弱点、分かってはいたけど…まさかここまで手も足も出ないとは!!」韋駄天はほっぺたをふくらまし、地面に寝っ転がる。


 (いざとなれば「鉄中てっちゅう錚錚そうそう」があると思ってたけど…甘かった…!「楽しみ」の感情を感じる間もない程追い詰められてたから、満足に力を使えなかった…それに分身も、体術の達人相手だと小手先の戦法止まりだし…)珍しく真面目な顔で反省している韋駄天を横目で見る心は、(ふふ…この子、まだまだ伸びるわね…どういう訳か屋上に来た時の鉄の情力は使わなかったし…まだ実践レベルじゃなかったのかしら…格闘スキルも悪くないし…期待値の大きい子と出会えたわ、収穫収穫…♪)腹の中でニヤリとほくそ笑んでいた。



 (…っと…とりあえず反省は後だ!)我に返った韋駄天が心に尋ねる。「っていうかあれ!一体どういうことなの!?」そう聞かれた心は、韋駄天に事のあらましを説明してあげる。


 「な…そんなことしたら色橋が…壊滅しちゃうじゃない!!」「まぁそれが目的だからね、私達は…いや、私はそうでもないけど、八重は特に人間に対して恨みを抱いてる、なんせ最愛の妹を「人類」に奪われてる訳だからね…あんなバカでかい建物を浮かそうってくらいだ、その「憎しみ」は計り知れないし、この先どうなるか私にも分からないね…」言葉とは裏腹に、彼女からはどこか期待の色が感じられる。


 韋駄天は改めて、天高く昇ってゆく電波塔に視線を戻す。


 「ただ、これはより大きな計画…それが果たされる為の要素に過ぎない。」


 「え…どういうこと…?」聞き返す韋駄天、心はそんな彼女の目を見てゆっくりと真実を告げる。


 「私達の属する組織"Emotus"(エモートゥス)…その至上目的は感情の解放…分かりやすく言えば……この世界を具情者であふれさせることよ。」




 「…見つけました…!」電波塔の向かいにある色橋駅、その最上階である展望スペースに瞳はいた、そして彼女の視線の先にいるのは…


 「うわ!すごいねここが分かるなんて!」動画で話していただった。

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