第五章:輝劇開幕編

理想の為に

 (間違いない、塔で感じた異様な情念…この人達だ…!)瞳は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。


 「動画、見させてもらいましたよ…悪いけどこれ以上、貴方達の思惑通りにさせる訳にはいきません!」コートの下から二振りのうち一本、短めの日本刀を抜き、瞳は臨戦体制をとる。


 (相手は三人、内一人は動画にはいなかったわね…大したことなさそうだけど、あと二人が尋常じゃない情念だわ…さて、どう立ち回る…?)瞳の情力「青瞳せいどう過視かし」は、その名の通り過去を視ることが出来る情力だが、相手の目を見ないと発動しない。よって瞳は、実質その情力を封じられてしまっていた。


 (そう時間も掛けていられないし…仕方ない、こういうやり方は好みませんが…)浮上する電波塔を横目で見ながら、瞳が声を発する。


 「…大仰な理想を掲げてらっしゃるのに、素顔を見せてくれないのは悲しいですね…その仮面、取ってくださりません?」少し挑発的な態度を取り、武装解除を試みる瞳…だがその瞬間、


 「仮面を取ってはいけません、彼女と目が合えばその瞬間、自分の過去を覗かれてしまう。」


 瞳が「大したことない」と判断した仮面の一人が、残りの二人に忠告する。


 「!!」自身の力を見抜かれた瞳は驚愕に目を見開いた。「何故、私の情力を…!?」


 「えぇ~!?うわあ危なぁ!口車に乗って仮面外すとこだったよ〜ありがとね椎奈しいな!」椎奈と呼ばれた者はとくに反応することもなく、瞳の方をじっと向いている。


 「残念だったな「哀しみ」の具情者…こちらには対具情者の分析において一家言持ちのスペシャリストがいるんだ…だからそんなちゃちな小細工は一切通用しないのさ…」強い情念に長身と相まって大きな威圧感を放つ、昼に塔の頂上で水面みなもと呼ばれていた長身の仮面が瞳をせせら笑う。


 「……」沈黙していた瞳だったが、やがてもう一本の刀を抜き、二刀流の構えを取った。


 「ほう、悪くない目をするじゃないか…それに構えも中々堂に入っている…貴様、強いな?」長身の仮面は余裕の態度を崩さない…


 だが…


 「……!」


 その瞳はいつの間にか椎奈の背後を取り、その首筋に刃を押し当てていた…それまで機械のように反応のとぼしかった彼女から「ひっ…」と小さな悲鳴が漏れる。


 「すみませんが戯言ざれごとを聞く耳は持ち合わせていませんので…ですが単刀直入に言いましょうか…」ぞっとするような冷たい目で他の二人を射抜く瞳。


 「今すぐに自らの行いを悔い改め、そしてお縄につきなさい…ただよ…?」普段よりも低い声音こわね、更には無機質な話し方が、その恐ろしさに拍車をかけていた。

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