宙に浮かぶ塔

 ある高層ビルの屋上。


 「…うん……あぁ……そうか、分かった…また連絡する…」


 彼女はスマホを切った。「どうやら例の現象、色橋市だけで起きているものらしいな…国内外の知り合いに電話を掛けてみたが、今現在、他の場所では何も起きていないらしい。」


 「一体誰がこんなことを…あぁ嘆かわしい…」そう言って目を拭う仕草をする大人しそうな少女。


 「はっ!んなこたぁどうだっていいさ、こんなに面白ぇ事件そうはねぇ…こいつを依頼主に届けたら、とっととオレ達も参加しようぜ!」その荒々しい口調に反して、とても可憐な容姿をした少女。


 「あんた達、先に行っといでよ…こいつはあたいが、ちゃんと依頼主に届けとくからさ。」そう言って手に持った茶封筒をひらひらとはためかせたのは…真白の「楽しみ」の分情、りょくだ。



 彼女達は具情者による窃盗集団「グリーン・バール」、たった今まで依頼主の案件により、機密文書をとある施設から盗み出していたのだ…そしてその施設のある場所は、偶然にも色橋市だった。


 「あたいの分情どうるい、それから本体殿によると、結構大変な状況みたいだよ…でもあたい達にとって大変な状況は…」


 「創作意欲が湧き立つ」「由々しき事態です」「お祭り騒ぎだぜ!」


 「…ま、そういうことだ…とりあえず命を奪うのはなし、あとで本体殿に小言を言われるのはごめんだからね…守るのはそれくらいでいいだろう、ここまで壊れてちゃ、あたいらがやったか暴れてるやつがやったか、分かったもんじゃないからねぇ…」


 その言葉を皮切りに、緑以外の三人はビルの屋上から色橋市へと飛び去っていった。


 「…さぁて、とっととこいつを依頼主に届けるとするか…」緑はポケットからスマートフォンを取り出し、その依頼主に電話を掛けた。




 「…もしもし…さん?」




 場面は代わり、色橋市のとある場所にて。糸は赤から電波塔へ向かうようにとの要請を受け、先を急いでいた。


 (酷い有様…前は街の一部だったけど、今回はかなり広域に渡って破壊されてる…というか、あっちこっちで暴動が起こってるって言った方が正しいか…には骨が折れそうね…)糸は情力「織姫」を用いて身に付けている大きな羽織を、その名の通り「羽」に、目的地まで羽ばたいていた。


 (この変に計画的な行動…それなりに統率が取れている大きな組織の犯行とみて間違い無いでしょうけど……記憶にないわね……情力関連の組織で、アタシが知ってるモノは筈なんだけど…一体何者かしら…?)過去を少し思い出し、彼女はほんのちょっぴり嫌な気持ちになった。「まったく…壊すしか能のない莫迦ばかは、十分だっての……」




 「まずいな、どんどん空へと近づいている…!」


 屋上に膝をつき、上空を見上げる真白くろ…そうしている間にも電波塔は、八重の力によりどんどん地上を離れていく。


 (情力が回復しました。黒さん、一瞬だけわたくしと代わっていただけますか?)心の中から青が呼び掛ける。真白の髪と目が青く染まり、その開いた目で八重を凝視する…洞察力を高める、真白の「哀しみ」の情力、「夜目遠目」だ。


 「……皆さん…どうやら本当にまずい状況のようです…」一瞬で情力を解いた真白あおは、目を指でみながらそう伝える。「彼女の情念が弱まってきてる…このままでは電波塔は上昇をやめて一気に降下へと変わり、恐ろしい速度で地上に墜落してしまう…!」真白の心の中、皆がどよめいた。


 「それに…彼女はここで……」


 「…この電波塔と…運命を共にするつもりみたい。」

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