Green Bar(グリーン・バール)

 グリーン・バールの強襲に備え、ドッペルゲンガー+αの面々は各自担当の展示室で待ち構えていた。どの部屋も中々の広さで、加えて展示品にも防護が施されている為、多少なら小競り合いがあっても問題なさそうだ。


 「韋駄天ちゃん、それ何?」糸が韋駄天の持っている鉄球を指差し尋ねる。


 「ん、これ?液体金属。」そう言った韋駄天は前と同じくそれを地面に落とし、液体化した金属が韋駄天の脚部を覆う。


 「え、何それどうなってんの?めっちゃすごいじゃん!…あーでも…重くない?」糸が率直な感想を述べた。


 「そっっおなんだよ!重い、ヘビー、何世代前のOSだってハナシ!!それに無骨なデザインだし、改良の余地ありありなんだよなぁ~。」肩をすくめる韋駄天。


 「ところで糸ちゃんの情力ってどんなん?フランスでも凄い早さと正確さで街の修復してたけど。」今度は逆に、韋駄天が糸に尋ねる。


 「あぁ、あれはどちらかというと「修繕」の方が合ってるかも。うんとね…一旦石や木を線維化させるでしょ?そしたら今度は、その線維を束ねたりくっつけたりして元の形状・状態に戻した…って感じかな!それがアタシの情力「織姫」なんだよ~!」糸が近くのショーケースに触れる、するとそのガラスが見る見る内に無数の細い糸になり…再び立方体へと姿を戻した。


 「…と偉そうに言ってはみたものの、結局アタシがやってることは、ただ物質の…残留記録…とでもいうのかな…あ、形状記憶、それだ!それに従って、物質が元の形に戻る手助けをしただけなんだけどね。」


 「……え…そ、それ、ヤバくない…!?」韋駄天は呆然として糸を凝視する。


 「んー、まぁ応用性の高い情力ではあるかもねー…っと、そろそろ来る頃か…?」


 我に帰った韋駄天、二人は入口の方に視線を向ける…するとその時、部屋の照明が落ち、辺りが闇に包まれる。


 「わわっ!韋駄天ちゃん、懐中電灯もってたりする?」慌てた様子の声を聞いた韋駄天、「うん!」と相槌を打つと、スマートフォンのライト機能で明かりをつけ、入り口を照らした…


 ”Ha, security...Seems that our notoriety is known well...”(へぇ、護衛付きか…オレらも随分、有名になったもんだ。)


 コツコツと足音が響き、段々と姿が見えてきた。その者はストレートの暗い茶髪に強気な印象を与える鋭いつり目、人目を惹く端正な容姿をした少女だった。


 非常用の電気が点き、部屋が再び明るくなる。


 ”I tell you only a time. Give it to me, if you don’t want to be injured.”(一回しか言わねぇ、怪我したくなけりゃ、おとなしく後ろのモンよこせ。)


 そう言って彼女は二人の後ろに展示されている美術品を指差した。


 「こっちのセリフ!痛い目に遭いたくないなら大人しくおうちにお帰り!」


 一応英語が分かる韋駄天だが、思わず日本語で挑発し返してしまった。「あ、お家に帰られたら真白ちゃんの件が…」忘れずに糸が苦笑いでツッコんだ。


 「なんだてめぇら日本人か…まぁんなことどうでもいいさ…面白れぇ、ちょうど身体がなまってたところだ、相手してやるよ!」


 日本語でそう言った彼女、身に付けていた腰袋に手を突っ込むと、なんとメリケンサックを取り出して装着し、二人に向かって走り出す。


 「糸ちゃん、メインはワタシ、アナタはそのサポートをお願い!」そう言って韋駄天も彼女に向って走り出し、強力な蹴りをお見舞いする。茶髪の子は拳を突き出し、鈍い金属音と火花が散った。


 「へぇ、蹴り技か…悪くねぇ!」脚技きゃくぎ拳技けんぎ、対極的な武術の使い手が今、戦いを始めた…




 「さてと…敵襲に備えて、どんな対処をするつもりなんだい?」一方その頃、別室で待機していた血染が焔に尋ねる。


 「うん、うちの情力は屋内では不向きやからな…お前メインで頼むわ、うちはそのヘルプ。」焔は準備運動で肩を回しながら応える。


 「あたしの情力もそこまでインドア向けじゃないんだけど…まぁあんたのよかマシか…仕方ない!んじゃ、援護は任せたよ……頃合いか?」


 二人は武器を出し構える、そして…


 「うわ!」


 韋駄天達の時のように施設内の照明が消え、二人の視界が闇にさえぎられた。


 「視界奪ってきよったか、まぁそれが一番合理的やしな……うーん、スプリンクラーとか作動せんといてや…」焔は情力で火を出そうとする。「まぁ待ちな、多分すぐに非常用の電気が点くはずだから。」しかし血染がそれを制し、暗闇の中に視線を巡らせた…に気付いたようだ…だがそれは相手も同じ。


 ”Oh, with guardians…”(何だ、護衛がいたのか。)


 「!?」


 焔と血染は互いに聞き馴染なじみのない声を耳にした、そして血染の言った通り緊急用の電気がき、辺りに明るさが戻る。

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