路情、再来

 「良かったね…って言っていいのかしら?」花が少し困惑した様子で青に声を掛ける。「お前…複雑な問題抱えとったんじゃなぁ。」続けてやわらも、腕を組みながらしみじみと呟く。


 「…ねぇ」それまで一言も発さなかった子…青の最後の仲間で、焦げ茶色の長い髪をもつ女の子が急に口を開いた。「なんか五月蝿うるさいよ、向こうの方。」彼女は街外れの辺りを指差す。


 「確かに…何か…!悲鳴だ、悲鳴が今聞こえたよ!!」韋駄天が叫ぶ。「何でしょう…とにかく皆さん、あちらに行ってみましょう!」瞳がその方向へ駆け出し、皆が彼女に続いた。


 「…行きましょうか、えぇと…」戸惑う青に向かって真白は少し笑い、彼女に返す。「真白…今はそう呼んでください。」




 「あぁ、やっぱりか…」街と森の境界辺りまで来た焔は思わず溜息をついた、彼女の目線の先には路情が複数いたのだ。億劫そうに武器を取り出そうとする焔を、柔がさっと制止する。


 「まぁ待て、ここはワシらに任せい。砂羅、花、行くぞ!」柔の呼び掛けと同時に、二人はそれぞれ武器を取り出して構え、路情へと向かっていった。


 柔はその手の鎖鎌くさりがまを振り回して路情を攻撃しているが、驚くべきはその柔軟性だ。おそらく情力によるものだろうが、関節が外れているとしか思えない曲がり様の腕を使い、鎖鎌の特性を十二分に活かしている…得てしてその目は黄色だ。


 砂羅はその目を赤くし、地面の砂や石を操作して路情を攻撃している。「あぁうるさい、耐えられないよ全く!」しかめっ面でそんなことを言いながら、自分の敵を次々と消してゆく。


 残る花は「楽しみ」の具情者のようで、彼女の足元から草やつるが、自然法則ではありえない成長速度で生い茂り、路情達を絡め取ってゆく。


 「すみません、遅くなりまし…おや、もう終わっていましたか。」真白と青が到着した時には、路情は既に全て消滅していた。


 「おぉ青、遅かったのう。」肩をコキっと鳴らしながら、柔が声を掛ける。「前みたいに戦いにならなくて良かったかもよ真白、あの子らかなり強かった。」真白に駆け寄ってきた韋駄天は、横目で柔たちをちらりと見ながらささやく。「さて、青とも決着はついたみたいやし、次行こか!残るは「楽しみ」の感情やな!」ぐーっと背伸びをしながら、焔がドッペルゲンガーの面々に声を掛ける。


 「…ん?」韋駄天は不意に振動を感じ、ポケットから端末を取り出した。「お、グッドタイミング。みんな聞いて、真白の「楽しみ」の分情の居場所がつかめたよ!」韋駄天が皆の注意をうながす。


 「ワタシ達の次の目的地はズバリ、イギリスだ!」そう言って端末を操作し、以前のようにホログラムを拡大して皆で情報を共有できるようにする。地面に浮かび上がった仮想3D映像にはこのような記事が載っていた。


 『窃盗団”Green bar”(グリーン・バール)、犯行予告状を提示、次の目的地はイギリス…!』


 「せっとう…だん……」


 「?何か言いましたか瞳さ…」晶は思わず口をつぐむ。彼女の表情が、普段からは想像がつかないくらいに強張こわばっていたからだ。


 「…瞳さん?」真白が声を掛けて瞳は我に返る。「!?…失礼…大丈夫です…」瞳の顔は今や真っ青になっており、真白は彼女が気になったものの同じくらい声を掛け辛く、やむを得ずに言葉を飲み込む。


 「イギリス…韋駄天さん、でしたか?イギリスのどの辺りに行かれるのですか?」青が韋駄天に聞くと、「んー、予告状には「バーミンガム「アブストラクト・ギャラリー」の警備を強化することをお勧め致す」って書いてあったみたいだから、そこかな。」韋駄天が青に返答した。


 「おや、わたくし達の次の公演場所もちょうどバーミンガムの辺りですね…」青が驚きの声を上げる。「お、イギリス!アタシも付いてこ。」「あ、わ、私も…」側にいた糸と晶も同行を続けるようで、それぞれの仲間に連絡する為その場を離れた。


 「そうだ、よろしければ貴方達に同行しても?道中皆さんの、これまでの話を是非ともお聞きしたいです。それに次の貴方達の旅において、もしかしたら有益な情報を提供出来るかもしれませんしね。」青は真白の方を向いて提案した。


 「あ、もちろんです!あとそんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。」分情とはいえ自分で自分にツッコミを入れる真白、しかしそんな真白を他所よそに、瞳の表情は暗く沈んでいた。

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