Blaue Trommel(ブラウエ・トロメル)

 開演時刻となり、会場の照明が少し暗くなる…そして…


 「…出て来たね、あれが真白の「哀しみ」の分情か…」「髪と目が青…今までの分情と容姿的特徴は同じやな。」舞台袖から登場した真白の分情を見て、韋駄天と焔はささやき合っていた。


 ”Herzlich willkomen, meine Damen und Herren! Bitte genießt eine schöne Zeit.” (ようこそおいで下さいました皆様。素敵な時間をどうぞお楽しみくださいませ。)


 ドイツ語で簡単な挨拶を済ませたその分情、そしてそのバンドメンバー達は早速演奏を始めた。「あれが、わたしの「哀しみ」の分情…」真白は髪と目以外は自分そのものである分情を、色入りの眼鏡越しに見つめていた。会場に流れる旋律せんりつはリズミカルな曲調のものでありながら、どこかもの悲しさを感じさせる。


 「いい音楽ね、晶ちゃん。」「えぇ。私普段はあまり音楽を聴かないのですが、彼女達の演奏はとても素敵です。今後服をデザインする際、音楽からインスピレーションをもらうのもいいかもしれませんね。」そう言った晶にそっと笑い返した糸は、再び壇上だんじょうの演奏者達に視線を戻した。


 約一時間の演奏が終わり、観客達はぞろぞろと会場を後にしている。そんな中真白達は会場の裏口、関係者用出口の近くにいた。変装を解いた真白一人が道に立ち、残りの者達は少し離れた物陰に潜んでいる。


 「さぁ、そろそろ彼女達が出てくる頃です。問題ないですか真白さん?」Bluetoothでつないだワイヤレスイヤホンを通じ、真白へ瞳が呼び掛ける。真白は瞳のいる方へ頷くと入口に視線を向けた、そして…


 とうとうブラウエ・トロメルの者達が出て来た…そしてその一人がすぐさま真白を見つける。


 ”! D…Das ist…Blau, kennst du ihr…Blau! Was ist los! Bist du in Ordnung!?” (!あ、あれって…青、お前彼女のこと知って…青!おい、どうした、大丈夫か!)


 例の如く、真白の分情は頭を抱えしゃがみ込んだ。


 “Hana, ruf einen Krankenwagen! Beeilen!“ (花、救急車を呼びぃ、急いで!)


 小柄で白く長い髪をした少女が、対照的に黒い長髪の女の子に指示を出す。しかし…


 “g...Ganz ruhig Jawara, Alles OK...“(…落ち着いてやわら、大丈夫だから…)


 回復した様子の分情がその白髪の子をなだめる。


 “Could you speak German?“


 分情が真白に問う。その意味は分かったが、ドイツ語を意思疎通可能なレベルで使えなかった真白は、首を横に振り「いいえ」と言った。


 「日本語…ですね。分かりました、それではその言語で…久しぶりですね、我が本体…」静かに告げる分情、しかし彼女から敵意や警戒心等は感じられなかった。

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