夜のお出掛け

 「…にしてもあなた達、アタシ達とやり合う時もこんな感じでおしゃべりしてたの?楽しいことしてたのねー!」スクランブルエッグを頬張りながら糸が言う。「え…楽しいですかこれ?」すると瞳が、やや困惑した様子で糸に尋ねた。


 「え、楽しくない?だってこうして皆でご飯囲んであーだこーだ話してさ、すごい楽しいなー!…ってアタシは思ったんだけど…ほら、なんかこう「ザ・女子高生!!」みたいな感じ?雰囲気?が漂っててさ……アタシがずっと求めていた世界だなぁ…って…あれ、なんかおかしなこと言ってるかなアタシ?」困ったように笑う糸。「あ、いえ…そう言われてみればそんな気もしなくはない…ですかね?…まあ作戦はいっつも意味ないんですが。」「意味ないのかよ!」笑いながらツッコミを入れる彼女。朝日が差し込む食堂の一角、少女達は穏やかな一時ひとときを過ごしていた。




 夜。


 「例の帽子屋さん良かったわねー晶ちゃん!アタシの行きたかったウインナー屋さんもめっちゃ美味しかったし!」「えぇ、本当に素晴らしかった!帽子はどれも素敵だったし、とても勉強になりました!それにあのホットドッグ、クセになりそうです!」ドイツ観光を満喫していたらしい晶と糸が、心から楽しそうに話している。ジャズコンサートということで、二人とも黒を基調としたフォーマルなドレスに身を包んでいた。


 「そういえばワタシ、コンサート見に行くって初めてかも、楽しみー!」同じくフォーマルな出で立ちの韋駄天は、チケットを片手に会場までの道のりを歩いている。


 「うちも初めて…やないか、フェスには何回か連れてってもらったことあるし。」実はロックミュージックを聴くことが趣味の焔、彼女もまたシンプルなワンピースに黒い薄手のカーディガンを羽織り、韋駄天、瞳と並んで歩いていた。


 「私は昔よく行ってましたよ。といっても、日本でしか行ったことないので海外での演奏は初めてですが。」「へぇ〜意外やなぁ〜!そういえば瞳ってオフの日とか何してるん?そういうのあんまり話さへんタイプやんかー!」焔が瞳を見ながらふと尋ねる。瞳も皆と同じく、落ち着いていてシックなよそおいだ。


 話している内容は年頃の娘、という感じだが、その誰もが人目を惹く容姿であったので、道行く人々は思わず振り返り、"hübsch"(可愛い)schön(美しい)といった賞賛の言葉を口にしていた。


 「私ですか?私はそうですね…医学に関する書物を読んだり、それこそクラシックを聴きながらコーヒーを飲んだり……あ、私も一つ聞いてもいいですか?」そんなおり、瞳が焔に問い掛ける。


 「貴女の右手…いつも包帯をされていますが…」そう言った後、彼女は慌てて発言を取り消そうとする。「あぁいえ、もし話したくないのでしたら大丈夫です、私としたことがとんだ失礼を…」「はは、そんな大層なもんやないって~真面目やなぁ!」焔は微笑むと、チラリとその痛々しい右手を見る。


 「これはな…昔々に力の加減をし損ねた、うら若き乙女がつくってしもうた古傷やねん…自分の力量も分からずに、思い上がって欲を出した…その代償ってとこかな…?」そう言って、少し懐かしそうに遠い目をする焔はまた前を向く…その様子を見て、瞳もそれ以上深く詮索はせず、再び他愛のない会話へと戻った。




 「…おや、着いたみたいですね。」そうこうしている内に、一行はコンサートの会場に到着した。


 チケットをスタッフに提示し、自由席であったため彼女達はステージからは遠い後ろの席に座った。またコンサートのそのものを荒らすつもりはないため、前回のように分情が異変を起こさぬよう真白は、機能するかどうかはさておき念の為、色付き眼鏡とマスクを使って素顔が見えないよう変装を己に施していた。

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