Poêle à frire(プアール・ア・フリール)

 ストラスブールはフランスの北東に位置する都市で、交通の要所として栄えている。活版印刷術を実用化したグーテンベルクが一時期暮らしていたこともあり、広場にはその彫像もある。またこの都市は、ドイツの国境近くに位置しているということもあって料理文化が独自の発展を遂げ、パリのものとはまた違ったフランス料理を味わうことが出来る。


 「着いた着いた~!」


 早朝五時にもかかわらず、韋駄天は異国の地を元気に駆け回っていた。真白達はストラスブールを目指し、飛行機を降りた後電車を乗り継いでいたのだが…


 「いやぁ見逃してたよ…ワゴンの目的地、ストラスブールじゃなくてその少し手前の街だったんだぁ、写真の雰囲気がストラスブールそっくりだからつい間違えちゃった~てへ。」…という訳で真白達はついさっき、ストラスブールの街に到着したのだった。


 「さて、気を取り直してと…SNSの情報だと、例のキッチンワゴンがここに来るのは午後二時頃だし、少し空き時間だね!どうする?」韋駄天は皆を見回す。


 「あ、じ、じゃあ私は、洋服屋さんを見て回りたい、です…」晶が少し遠慮がちに言う。


 「いいですね、では後ほど私と一緒に行きましょうか、通訳係として同行します…しかしその前に…」瞳は皆を見渡す。「前の時と同じく、ある程度は作戦を立てておきましょう…まぁ前回は、全然作戦通りにはいかなかったんですけどね。」苦笑いを浮かべながら彼女は言った。「立ち話もあれですし、一旦宿泊先に荷物を預けて、どこかのカフェで朝食を摂りながら話しましょうか。」




 …ということでとあるカフェにて。


 「前回の反省を踏まえると、真白さんから分かれた感情…韋駄天さんの言葉を借り「分情」と呼びます。「怒り」の分情は私達に対し、十中八九攻撃的な姿勢をとってくるでしょう…そこで私達は「団体戦」で立ち向かうのです。」


 「団体戦?」パンを頬張ほおばりながら尋ねる焔。


 「えぇ。黄さんの時のように具情者の仲間がいた場合、複数の具情者が一緒にいた方が対策を立てやすい。それに今回は、最悪の場合市街地で戦わなければならない…そうなったとき団体だと、戦う人と街を守る人に分かれて対応出来ますからね。」瞳は言い終わると目の前のコーヒーカップに手を伸ばした。


 「悪くないんじゃないかい?あたしなら情力を使えば被害を最小限に留められるしね…焔なら被害を拡大するかもしれないけど。」血染にからかわれた焔だが、自分でもそう思ってる節があるのか、少しむくれただけで何も反論しなかった。


 「さて、作戦はこのくらいにして朝食を楽しみましょうか、なんといってもフランスのカフェですからね。」瞳はコーヒーを一口飲みしみじみと呟く。「…美味しい…」

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