作戦廃棄

 「怒り」の具情に接触するのはキッチンワゴンが閉店する午後五時頃ということになり、午後四時までは自由行動となった。瞳と晶は言っていた通り服屋を見に行き、血染はまた情報収集といって勝手に一人で行ってしまった…という訳で。


 「なんや、またこの面子めんつかいな!」


 真白、韋駄天、焔ら観光三人組が再び集結した。「うぃ~、流石関西人鮮やかなツッコミ~!…んで、どうする?ワタシはべつにどこ周ってもいいよ~。」焔を茶化しつつも韋駄天が尋ねる。


「うーん、うちも別に行きたい所ない…っていうかそんなにこの街のこと知らんしなぁ…真白は?」聞かれた真白は「…ちょっと待ってくださいね。」と言い目を閉じる…すると髪の色が黄色になり、開かれた目も同様に変色していた。


「んじゃフランス料理食べに行きましょうよ!」加えて真白の雰囲気が急に変わった…どうやら、彼女に一部還った「喜び」の具情であるこう、その気質が強まったようだ。


 「おぉ、その感じって…」「こうじゃん!へぇ~、感情が戻ったらそんな風になるんだ~!」韋駄天と焔は各々目の前の変化に驚きを隠せないようで、そしてその当人はそんな二人にスマホを操作しながら話を続ける。


 「この地域はアルザス料理で有名みたいっすよ!マフラムクーシュ、シュークルット・アルザシアン、フォアグラ、どれも美味しそうだなぁ…さ、ご飯食べましょうご飯!」ということで、一行は早速店を探す為に歩き始めた。




 時は少し流れ、午後四時五十分頃。「皆さんそろってますね?」真白達は例のキッチンワゴン「プアール・ア・フリール」が停車してある建物の近くに隠れていた。


 「例のキッチンワゴン、結構繁盛してたなぁ…お客さんひっきりなしに来てたし。」ひそひそ声でささやく焔に韋駄天が同意する。


 「確かにねぇ、ワタシ達別のお店でランチ食べた後なのに、美味しそうな香りでお腹空いちゃったもん。にしても真白の食への情熱はすごかったなぁ。」「それな。」「あー…何だか急にそんな気持ちになって…どうもわたしの「」は、食べることが好きらしいです…」少し恥ずかしそうにはにかむ真白、目と髪は白に戻っている。


 「皆さん静かに、気付かれますよ!」修学旅行三人娘は担任…ではなく、瞳に注意される。「そろそろ閉店の時間です、タイミングを見計らって彼女達に接触を…」不意に瞳が黙り込む。


 「…何か聞こえるね…悲鳴みたいな…」血染が呟き、音のする方に目を向ける、次の瞬間、何かが破壊される轟音が鳴り響いた。


 「何や、あいつらか!?」焔がワゴンの方を見たが、その彼女達も同様に驚いている様子だった。


 「瞳、見て!」韋駄天が叫んだ、「あいつらだ、路情ろじょうだ!」


 「はぁ!?またあいつらか!」焔が隠れていることも忘れ大声を出した、しかしワゴンの面々は気付かなかったようで、仲間の一人を残して音のする方へ走っていった。


 「あぁ、まただ…あ~もうっ!仕方ありません、皆さん、今朝立てた作戦は一旦忘れてください、そして私達も音の方へ向かいましょう!ワゴンに一人残ってる人は…」瞳が片手で顔を覆いながらもプランを練り直し、皆に声を掛けた、すると手を挙げたのは意外な人物だった。


 「…あの子はあたしが見ておくよ、だからあっちはあんた達に任せる。」そう言ったのは他でもない、あの戦い好き、トラブルが大好物の血染だった。不審がる瞳をみて苦笑しながら、彼女は言った。


 「あの子…あたしの古い知り合いなんだよ。」

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