5話「また違う一面」

「七森先輩が、この時間帯にこれだけメッセージのやり取りや通話が出来るってことは、部活とかしてないのかな?」


 先ほどはやり取りに夢中になってしまっていて何も思わなかったが、まだどこの部活も活動を行っている時間。

 スマホの持ち込みは一応許可されてはいるが、部活に所属していてここまでずっとスマホに触っているわけにはいかないだろう。


「先輩が部活をしていないのなら、放課後に会う時間を作ればゆっくりと落ち着いて会えるような気がする」


 今日のように、昼休みなどを使うとなると時間的に余裕がないだけでなく、それぞれの交友関係もある。

 特に翔はもう何度も昼休みに離脱していると、尾行とかしてくる者が現れてもおかしくない。

 放課後なら、お互いに時間をそこまで気にしなくても良い上に、学校の外に出て好きな場所で過ごすことも出来る。

 先輩とカフェや公園、色んな所で過ごせるかもしれない。

 既にいろんな妄想が広がってしまっているが、たまたま今日部活が休みだったり休んでいる可能性もあるので、確認を取ってみることにした。


 ―さっき普通にやり取りしましたけど、先輩って部活とかやってますか?

 ―入ってない! 確かに翔もこの時間に反応があるってことは、部活してないってことだな!?

 ―そうなんですよね。ですから、放課後に一緒になる時間を作ることが出来るのではないかと思います。大丈夫とは言ったんですけど、やっぱり七森先輩に呼び出された件でクラスメイトからの視線が厳しいので、そう言う意味もありますが


 翔が予想した通り、七森先輩はどの部活にも所属していなかった。

 早速、翔は放課後に会う時間を作るという提案をしてみることにした。


 ―お、いいね! それだとお互いに細かい打ち合わせとかしなくても、毎日気軽に会えそうじゃん! って、毎日会いたいから、放課後って提案なのか~?


「確かに、放課後に会うなら基本的に毎日会うことが出来るのか」


 そこまでは考えていなかったが、七森先輩に言われてその事実に気が付いた。

 ただ、先輩にそう思われたということは、まるで会うことにがっついているように思われているような気がする。


 ―先輩に言われて、毎日会えるってことに今気が付きました……

 ―本当かぁ?


「ダメだ、完全に疑ってる……」


 先ほどのように電話をしていれば、声色でこちらの心理を読み取ってくれるはずなのに、この状況に限ってメッセージのやり取りになっている。

 何て返せばよいか固まっていると、さらに先輩からのメッセージが届いた。


 ―ごめん、毎日会うのはやっぱりしんどい……?


「あ、あれ?」


 追撃のメッセージが来たかと思ったのに、何やらちょっと心配そうなメッセージが流れてきた。

 また弄んでいるのか、本気でちょっと気になっているのかメッセージを見ただけでは、全く分からない。

 翔は困惑してしまい、どんな返信をすればよいのか更に分からなくなってしまった。

 すると、更に七森先輩からメッセージが届く。


 ―うざくしてごめん。だから既読無視しないで……


「あ、これは本気で心配になっているやつだ」


 ようやくスマホ越しの先輩の姿が分かってきたところで、急いで返信を行うことにした。


 ―いえ、毎日会いたいです。うざいとか思ってませんよ?

 ―じゃあ、何で既読付けてなかなか返信しないの?

 ―また冷やかしているのかなって思っちゃって、どう返すか必死に考えてました

 ―本当に? 毎日会えるって気が付いた時、ちょっとやだなって思ったりしなかった?


「……先輩、意外とこう言うの気にするタイプなのか?」


 今まで強気の先輩だったのに、急にまたイメージが変わりそうだ。


 ―思ってないですよ。逆に、先輩に毎日会おうとしてるのかって言われて、がっつく後輩みたいに見られいるんじゃないかって思ってました

 ―そ、そういうことだったか……

 ―な、何か不安にさせたみたいですみません……

 ―本当だよ! こんな可愛い先輩の心が危うくぽっきり折れて泣きそうなところだったぞ!


『先輩が冷やかすから』と言いたいところだが、先輩がまたすごく凹んでしまうとまずいのでそう返すのは止めておいた。


 ―どうしたら、この後輩の失態を許してくれます?

 ―そうだなぁ……。私は寛大だから、今回は可愛い後輩のミスを見逃してあげようではないか!

 ―ありがとうございます

 ―ただし、これからは出来るだけ早く返信してくれよー? 不安になるから……


 その後は、放課後にどこに集合するかなど今後会うために必要な打ち合わせを行った。

 きちんと話をしたのが今日初めてだったとは思えないくらいに、七森先輩とメッセージのやり取りに電話、実際に会って話までした。


「あんな美人の先輩と、今日だけでどれくらいやり取りしたんだろ……」


 見た目以上に魅力的な一面と、ちょっとだけ面倒な一面もある。

 これも、七森先輩に憧れている自分と同じ一年生の男子は誰も知らない。

 自分だけが、七森先輩に可愛い後輩と言われて、これからも会おうと言ってくれている。

 そして、放課後はこれから七森先輩と二人で居られる時間となる。


 ただし、ちょっと心配性な一面と七森先輩の奥義になりつつある「先輩命令」だけには注意しなくてはならない。

 先輩としての圧と、先ほどの雰囲気で悲しそうにされたらこちらのハートが絶対にもたない。

 嬉しい反面、何をしても可愛い七森先輩の圧には注意して過ごすことになるだろう。























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