4話「自爆しました」

 七森先輩の言動に振り回されながら、何とかメッセージを返信していく。


 ―可愛い後輩は、今度はいつ私に会いたいのかな?


 そんな中で、話題は今度いつ会うかという話になった。

 思い返せば、こうしてまだ関わることが出来ているのは、七森先輩が翔にこれからも定期的に会いたいという言い分からだったはず。

 だが、今のメッセージは翔が七森先輩に会いたいという体で話が進められようとしている。

 当然、翔からすれば七森先輩と会いたいということに間違い無いのだが。


 ―なかなか予定が合わないと思いますが、また近いうちに会いたいですよね


 先輩後輩で絡む上で難しいのは、やはり学年が違うことでそれぞれの状況が異なること。

 クラスが異なるくらいで、学年が一緒なら教室はそんなに離れていないだろうし、学年単位での集まりなどもある。

 だが、学年が異なるとそう言った一緒になれる機会はほとんどなく、やはり部活などの機会で仲良くなるぐらいしかない。

 そう考えると、先輩後輩でカップル成立をあまり聞かないのは、そもそもこういう学年が異なることによる接点の少なさが大きな壁になっていると、再認識させられる。


「おわっ!?」


 翔が先輩後輩ともに時間を合わせる難しさを色々と考えていると、いきなり着信音を立ててスマホが震えだした。

 傑を含めて友人ともメッセージでやり取りするだけで、電話がかかってくることなどそれほどあるわけではない。

 久々の着信であることもあって、驚きで飛び上がってしまった。


『こんなことを聞きたくてあんなメッセージを送ったのではないぞ!』

「な、なんでいきなり電話になったんですか?」

『長々とメッセージ打ち続けるの面倒じゃない? すぐに既読付けるし、私とお話しできるの楽しくてスマホ片時も放さず持っていると予想した!』


 図星である。

 こちらは七森先輩の言動に振り回されて混乱しているのに、先輩の方は的確にこちらの心理を読み取ってくる。

 しかも、一番見抜かれて恥ずかしい状況を見抜かれた。

 控えめに言ってこの状況が嬉しすぎるし楽しすぎます、はい。


「で、どんなことを聞きたかったんですか?」

『お、嬉しかったというのは事実だったようだな? 恥ずかしくて慌てて震える声で話題を戻す辺り、可愛いぞ?』

「み、見抜くは良いんですけど、実際に言葉にしないでください。より恥ずかしくなってくるんで……」

『それは無理な話だな! 止めて欲しかったら、先輩と話出来て嬉しいですってしっかりと君の方から言ってくれないとなぁ!?』

「ええ……」


 こうして的確に見抜かれるのも恥ずかしいが、自ら嬉しかったことなど好意的なことをぶつけるのも相当恥ずかしい。

 七森先輩は、そのどちらかを選べと言っている。


『これも先輩命令にしよっかなぁ……?』

「そ、そんな……」


 翔はすでにちょっとだけ予想し始めていたが、やはり七森先輩の奥義である先輩命令を発動させる気でいる。


『あ、でもやっぱりそれは止めよう』

「え?」

『こういうのは、翔が自発的に言ってこそ意味があることだと思うからな。それまでは、私がこうして優しく後輩の素直になれない気持ちを汲み取ってあげることにしよう』

「そ、それならまだ先輩命令の方が……!」


 七森先輩は、ここで先輩命令を使うことをしないと言い始めた。

 その代わり、こちらの心が屈服するまで先ほどのような手順でずっと翔へ攻め込んでくることに決めたらしい。

 冷静に考えると、先輩命令と言われればまだ仕方ないという気持ちを後ろ盾にしておけば、恥ずかしさを多少は誤魔化せるかもしれない。

 そのことに七森先輩が色々と話してから気が付いたが、今更こんな変更が通るはずもない。


『ダメだね! 大丈夫、辛いの最初だけ。すぐに言うのが癖になると思うよ?』

「なんか危ない言い方……まぁ、確かに危ないんですけど」


 言われる通り、もし先輩に対して好意的な言葉を言うことに慣れるようなことがあれば、どこでもポロっと言ってしまうことで後々周りから色々と面倒なことを言われることは確実。

 ある意味、危ない道へと誘われていると意味で間違っていない。


『お、本当に危ないってか~?』

「とても危ないですよ? 先輩は一年生男子から大人気なんですから」


 そんな翔の考えがあるとは知らず、七森先輩はどう言うことか分からなかったようだが。


『大人気って言われてもなぁ。私は翔にしか興味ないからしーらない』

「っ!」


 七森先輩の今の言葉は、反則だと翔は思った。

 先輩に思いを寄せる一年生男子がいる中で、興味があるのは自分に対してだけと言われたのだ。

 こんな憧れてしまうくらい美人な先輩に、こんな言葉を言われて冷静で居られる奴がいるのであれば、それはもう人間ではないと思う。


『……一回だけチャンスをやろう。ここで素直な気持ちを言えば、こちらが電話越しに感じた君の姿と思っているであろうことを明かさずにいてやるぞ?』

「……そう言ってもらえてうれしいです。出来れば、このまま自分だけに興味を持ち続けていただけると最高です」

『よく言えたぞ~! 可愛いところがやっぱりあるじゃないか』


 先輩に促されて、観念するように自分の心の内をすべて明かした。

 こんなことを先輩の口から先手で言われでもしたら、恥ずかしすぎてここで命を落としかねない。


『まぁ、嬉しいって思ってくれてるのはこっちでも分かったんだけどな~? この後もずっとそのポジションを独占したいってところまでは分からなかったなぁ』

「……はい?」

『可愛いなぁ。独り占めしたいっていう欲求まで打ち明けちゃって』

「あああああああ!」


 やってしまった。

 先ほどの分析力が凄すぎて、自分の考えていることなどすべてわかっているものだと思って、全て打ち明けてしまった。

 ところが、一番恥かしかった独占欲の部分はバレていなかった。

 つまりは勝手にしゃべって自爆した形になってしまった。


『あはは! やっちゃったねぇ』

「もう寝ます……」

『待て待て。普通にうれしかったぞ?』

「こんなの、ちゃんと喋って一日目に言うことじゃないですよ……」

『まぁ、せめて付き合って一日目に出るかなって言葉だな』


 独占欲をちらつかせる発言は流石にキモ過ぎる。

 これは終わったと思うしかない。


「すいませんでした……」

『まぁそんなに落ち込むな。それに、その望み通り翔にしか興味は湧かないだろうしなっ!』

「え? それはどうして……」

『そ、それは自分で考えろっ! 後、予定が分かったらまた連絡をすること! これは先輩命令だからな!』


 そう言って、七森先輩は一方的に電話を切ってしまった。

 もう引かれたと思ったが、まだ会ってもいいとは思ってくれているらしい。


 その事実に少し安心しつつ、翔は今後の予定を見直すのだった。












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