第39話 メッセージ

 『上田愛斗様』


 お久しぶりです。愛斗君

 私、石神のことは覚えているでしょうか。

 どうやらあなたは、途中で帰られてしまったようなので、その後のことは覚えていないかもしれません。

 途中からあなたは、少し変わってしまったように感じます。いやむしろ、戻ったという方が正しいのでしょう。とにかく私にはあなたが途中から別人のように見えたのです。

 この手紙は、あなたが大人になったときに見ていることを祈っております。そうですね、二十六歳の時に見てもらえると良いのですが。

 元に戻った愛斗君は我慢できず、すぐにこの手紙を開けてしまうと思われますので、少し工夫させていただきました。

 あのあと、何が起こったのか忘れてしまっていると思われます。大雑把にですが私の捉えたままに話したいと思います。

 あの後、矢印は一度鹿島航へ向かいました。いくら正当防衛でも、愛斗君が入院するような事態になったので、生徒達も愛斗君の味方でした。それに一部始終を山田拓哉が見ていたそうです。私に知らせてくれたのも彼です。しかし、意識を取り戻した愛斗君は、そのことすら忘れていました。

 その後は鹿島航と愛斗君は和解することになりました。鹿島航は田中晃にも謝罪をし、結果的に教室の雰囲気も、徐々に良いものへと変わって行きました。

 しかし、残念ながら中島美来への矢印は卒業まで消すことができませんでした。中島は不登校になり、いなくなった人間への悪意や差別といったものがしばらく続きました。

 卒業までのクラスの状況はこのようなものでした。どうか不甲斐ない自分を許していただきたい。

 長々と失礼いたしました。

 愛斗君、あなたは立派な先生を目指してください。私が成れなかった先生に。諦めない先生に。今でも私は、いじめを根絶することはできないと考えています。衝動的な矢印は必ず発生すると思っています。だから私は生徒に矢印を持たせ、自分に向けさせた。生徒と先生という絶対的な立場を利用して。しかし、私は将来失敗するのでしょう。だからこそ、あんなにもあなたは私のやり方に疑問を抱いていた。わかっています。私が将来このやり方で失敗することも。もう一度十年前の悪夢を引き起こしてしまうことも。私が将来、この世に存在していないことも。

 だからこそ、あなた達に託します。あなた達がその方法を探しなさい。

 矢印のなくなる世界を作る方法を。「平和の鐘」がいつまでも、どこまでも鳴り響く世の中を。私は見て見たいのです。

 私の小さな先生が、私の夢を叶えてくれることを切に願っております。



 p/s 妹さんは強い子だった。愛斗君のように

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