第40話

 十五年越しにも、先生は僕を揶揄っている。そう思ってしまった。


 先生は自分が死ぬことも、失敗することも最初からわかっていたんだ。

 過去に戻った時、僕が未来から来たことは話してしまったが、将来先生が死んでしまうことを話したことは一度もない。だが、先生は未来に何が起こるかを知っていた。その答えは一つしかない。


 あの日、あの最後の日に先生は、『未来から来た人間を知っている』と言っていた。その時は、僕をおとしいれるために嘘をついたのかと思っていたが、本当に先生は未来から来た人間の事例を知っていたんだ。だから自分が将来死ぬことも、生徒を失ってしまうこともわかっていたんだ。


 つまり、石神先生も僕と同じだったんだ。


 僕は、先生に出会ってからずっと揶揄われている。一度目の大嫌いだった石神先生にも、二度目の大好きになった石神先生にも、ずっと弄ばれていた。

 それでも嫌な気持ちにはならなかった。それどころか、今では尊敬すらしている。


「お兄ちゃん…」

 手紙に集中していたが、気づけば妹が僕の部屋にいた。

「何もできなかった。全て先生に守られて、手を焼かせてしまった」

 優香の前で涙を止めることができなかった。

「そんなことない。お兄ちゃんがいたから守られていたし、友達もできた。先生だって私を見ていてくれた」

 優香のそれは、僕を慰めるだけのものだった。


「あの一年半があったから、私は今の道を進もうと思ったし、向き合おうと思ったの…」


 今の道。優香はどんな道に進む決意をしたんだ。


「大学院でどんなことをしているんだ?」

 そういうと優香は「知らなかったの」と驚き、今の現状を詳しく説明してくれた。


「お母さん言ってなかったの。教育心理学っていう学問。子供達の人間関係を中心に研究しているの。お兄ちゃんも大好きな人とね…」


 運命はどこから変化していったのか。それとも最初から何も変わっていないのか。僕は後悔もあったけど、未来に向かって進まなくてはならない。


 一つだけ疑問があるとすれば、全てを理解していた先生が、どうしてあんな遺書を残して自殺してしまったのかということだった。きっとあの先生なら先生の考えがあるのだろう。間違っても生徒を自殺に追い込み、自分も命を絶つということはないとわかっている。


 見ていてください。あなたの足元にも及ばない小さな「教師」が足掻く姿を。

 あなたに言われた通り、僕達で、で、矢印のない教室を、学校を少しずつ変えるために尽力します。

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