第7話 力があるならパワーで解決。
「そう、野蛮なんです。おそらく古代に結界を作った人は、海から来た魔物を見せしめにギッタンギッタンにして、目も当てられない状態にして、御神木のあたりに晒していたのでしょう」
私がギッタンギッタン、の手ぶりをつけながら解説すると、大臣はキャーと顔を覆う。
「そして御神木が魔物の精力を吸い上げ、半永久的に『ここに近づいたら魔物ブッコロス』と魔物に本能的に感じさせるような仕組みを作り上げたーー」
この話は南方領域だけではない。
実は、神殿がある場所は大抵、元々は別の宗教の祭殿だったことが多い。
南方領域で冬祭りを開催している御神木の麓の神殿は、おそらく元々は魔物避けのための結界構築の場だったんだろう。
結界構築の場というか、こう、死体晒しの場、というか。
「うーん……」
「いかがでしょう?」
「聖女様のお話は失礼ながら……憶測ばかりなので…現状ではなんとも……」
もっと聖女らしい話を期待していたっぽい、大臣や官僚は困惑した顔をしている。
私は肩をすくめた。
おそらく私の武勇や功績を聞いて、そのまま「聖女のパワーでバーンと解決できる!」と思われていたのだろう。
実は聖女はそんなに万能でもない。SSS魔物の森でも、あれこれと古代魔術の残骸を用いたり、魔物の特性を利用して誘導したり、戦術は立てていたのだ。
それに聖女とはいえ魔力も無尽蔵ではない。無尽蔵に見えるくらい、いっぱい持ってるだけで。
更に言うと私の場合発情させてしまうので、まあ……必要最低限の異能しか使いたくないよね。
「おそらくこの件については、土地の歴史や宗教に精通した学者の方にご相談すれば、より詳しい意見が得られると思います。今後うっかり古代結界を壊さないためにも、早急にご対応なさるのが宜しいかと」
「…………」
「聖女の見解はご理解いただけましたでしょうか、大臣」
そこで、タイミングを見計らったリチャードが話に入ってくる。
彼は大臣ににっこりと微笑んだあと、ゆったりと私を振り返った。
「今の話は調べれば必ず、貴女の仮説を裏付ける結果が出ると僕は考えている」
「ありがとうございます」
「で、それはそれとして、問題はこれからだ。結界が壊れた南方領域を、貴女はどうする?」
「ああ、そのことですか」
私は当然のことを聞かれて戸惑いながら答えた。
「それは簡単な話です。私をこれから南方領域に連れていってください。すぐに結界を張ります」
「なるほどね」
ここまではインテリっぽいこと言ったけど、結局のところ力こそパワー。
原因解明、未然予防、そして暴力。
リチャードは当然だと言わんばかりに頷くけれど、他の人たちはざわざわと困惑を見せる。
「結界って……聖女、あなたは前線基地にいた時のように、ずっと戦い続けるつもりなのですか?」
「いえ、この程度の魔物量でしたら15年は対応できる結界を作成できます」
「えっ」
「嘘だろう」
「いやいや」
うめき声のようなものがあちこちから湧き上がる。
どうも私の能力を信じられないらしい。
「この程度、って……簡単に言うが大丈夫なのか?」
「地図上の…海岸を結ぶこの2点と、元々神木があったこの1点で、三角形を作るように。扇状地なので効果的に結界を張れる場所ですから、おそらく到着後、一週間以内に設置完了できるかと」
このやり方なら、異能の代償は私が一週間くらい性欲に身悶える程度でやり過ごせるだろう。
まあその間は……一人牢獄みたいなところに入れてくれれば助かる。
鎮静作用のハーブを焚きしめて、その他、いろいろ。
「しかし……」
「簡単に言うが、我が国の神官や聖騎士がどれだけ対応に苦慮している場所か知っているのかね」
何言ってんだこの小娘。そう言いたげなトゲトゲとしたムードになってきた。
「一旦彼女の発言を専門家に仰いだ上で、対策を決めることにしましょう」
「だめだ。それでは南方領域が壊滅してしまう」
「ではやはり、他に魔導士の討伐隊を……」
リチャードが「まあまあ」と手を叩いて場を取り仕切る。
「皆様僕が見つけてきた聖女様を信じられないとおっしゃるのですか?」
「……いや、そういうわけでは……」
「じゃあ信じてください」
「「「「は、はい」」」」
困惑していた全員が鶴の一声に一気に黙らされる。
私としては楽だけど。このリチャード皇弟殿下、意外と強気なのね?
しかし人助けは私にとって大切な聖女の務めなので、精一杯励ませてもらおう。
「早速私は午後から出発の準備をします。他の問題箇所についての資料は置いていただければ、寝る前とか、移動中に目を通しておきます」
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