第12話

翌日、新しい教育案を持ってロベルト様のもとを訪れると、ロベルト様はご不在でした。


「もうしばらくしたら戻りますので、こちらでお待ちください」


執事に案内されてロベルト様の執務室でしばらく待っていると、バタバタと音がして、ロベルト様がやってきました。


「待たせてすまない。ちょっと王立図書館に行ってきたんだ」


そう言いながら大量の本を机の上に置きました。


「図書館ですか?何か領地のことで調べ物でも?」


「いや、そうではなく……昨日の夜、久しぶりに鉱物の本を読んだんだ。そうしたら居ても立っても居られなくて、早速図書館で最近の論文を借りてきたんだ」


「まあ!そうだったのですか。これから研究をなさるのですか?」


「今はまだ情報収集をしているだけだ。……いずれしたいと思っているが。近くの鉱山が良い採集場になりそうなんだ。……ところで、今日は学校の新しい案を持ってきてくれたのでは?見せてくれ」


なんだか昨日までとは違って、ロベルト様が生き生きして見えます。いつにも増して饒舌ですし、目が輝いています。


本当に良かったわ。


「その通りですわ、こちらをご覧ください。この案ならロベルト様の懸念も払拭できるかと。細かいところは、ロベルト様のご助言がいただければと思います」


資料をお渡しすると、ロベルト様は熱心に読み始めました。


「……なるほど、花の教育だけでなく、希望した専門的な分野を学べるようにするのか。領内で学べない内容は、他領へ学習に行かせる……。これの資金は……成績上位順に奨学金を設けるのだな。確かにこれなら努力次第で、好きなことを学べるな」


「そうです。また、専門分野の指導者を学校に配置することで、新たな雇用も生まれるかと。他領との交流のきっかけにもなりますし、他領から花育成の技術を学びに来てもらうのも面白そうです」


「内容は大方問題ないだろう。専門分野の選定と奨学金の条件はもう少し……」





それから、ロベルト様のご助言もあって学校制度の改定は順調に進みました。


ロベルト様はご自身の鉱物研究の時間を確保しながらも、今まで以上の効率で領地の改善に取り組んでくれています。


出会った頃とは別人のようです。無気力無関心だった彼が精力的に公務を行う姿に、国王や王妃様も驚かれるほどでした。


「セリーヌ、私に研究の時間を確保させるために、無理しているのではないだろうな。君も自由な時間が必要だろう?占いが好きだと言っていたではないか。その時間は確保できているのか?」


「大丈夫ですよ。好きなことをする時間は設けてますから。ロベルト様こそ、あまり無理をなさらないでくださいね」


「心配はいらない。順調すぎて怖いくらいだ」


笑って答えるロベルト様を見ていると、幸せな気持ちになります。


「ロベルト様、せっかくですから運勢を占ってさしあげます。そうですね……ロベルト様は最近運気が上がってきているようです。今は、やりたいことにじっくり取り組むのか吉です。途中つまづくことがあるかもしれませんが、周囲に協力を仰ぐと乗り越えられそうですよ」


「上々な内容だが、それは当たるのか?」


「ふふっ、占いを楽しむコツは、良いことだけ信じることですよ」


「そういうものか。そういえば、セリーヌとの婚約も占いがきっかけだったな。そう思うと、占いも悪くないな」


「でしょう?」





二人が統治するリリンティアン領は、教育や産業が盛んとなり、他領の見本となっていった。


また、ロベルトとセリーヌが正式な夫婦となった時、社交界では仲の良さと相性の良さで評判となった。

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占い好きな令嬢は、占いのせいで無気力王子と婚約する羽目になりました。 香木あかり @moso_ko

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