第3話

今日は仕事の日です。最近、占いの評判が上がってきたせいで貴族のお客様が増えてしまいました。


あまり社交界に波風を立てないように気をつけているので、まともな占いが出来ていません。


たまには本格的な占いがしたいわ……。





あら、今日はなんだか変わった方が来たわね。全身黒いマントで覆われていて、顔がよく見えないわ。男の方かしら?私の今の格好と似ているわ。ふふっ、これではどちらが占い師か分からないわね。


「相性を占ってほしい人達がいるのですが、名前や顔を伏せていても占えますか?」


「占い自体は瞳の色と誕生月が分かれば出来ますが……」


占いのことを全く知らない方みたいね。珍しいお客様だわ。


「瞳の色と誕生月ですか。……申し訳ありません、調べたらまた改めてお願いしに来ます」


なんだか怪しい人ね。名前を知られたくない人は時々来るけれど、顔も隠すとなると、大物の貴族かしら。


本当にまた来るのかしら?






その四日後に、また黒マントさんはやって来ました。


「瞳の色と誕生月を調べてきました。この人物との相性が一番良いのはどなたですか?」


そう言って渡されたのは、一人の男性と四人の女性についての瞳の色と誕生月が書かれた紙でした。


「四人の女性のうち、この男性と一番相性が良い方が誰か、占うということですね?」


そう確認すると、黒マントさんは小さく頷きました。


怪しさはありますが、久しぶりのまともな占いです。張り切って占いましょう!


対象の男性は、リーフグリーンの瞳で7月生まれ。緑系の瞳はこの国では珍しいわ。相性の良い方がいるかしら……。


女性の情報を確認しようとした時、女性Dと書かれた部分が目に入りました。私と同じ誕生月です。よく見ると瞳の色まで同じでした。


パールグレーの瞳で6月生まれ。こんな偶然もあるのね……。まあ、とにかく四人のうち誰が一番相性が良いか占いましょう。





うーん、せっかく本格的な占いをさせてくれたのですから、良いことを言ってあげたいけれど……。


「……あまり、この男性と相性の良い女性はいませんね。強いて言うなら、女性Dでしょうか。お互いの歩み寄り次第では強い結びつきになりそうです」


「歩み寄り、ですか」


「大変困難な道です。お互いの常識を打ち破るような、考え方の改変が必要になります。ですが一度歩み寄れれば、抜群の相性の良さが発揮できるでしょう」


こんなに相性が良くない人ばかりだと、こちらが申し訳なくなるわね。


「……分かりました。女性Dが一番可能性があるということですね。ありがとうございます」


頭を下げた黒マントさんは、お代を払ってすぐに帰っていきました。


一体何だったのかしら。最近顔の分かる貴族の相手ばかりだったから面白かったけれど、もっとピッタリの相手を示してあげたかったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る