第4話
「幻のアイス一つ」
「ありがとうございました」
開店三時間前だと誰もいなかった、ポップな衣装を身に纏った店員さんは、持ち帰り用のケースに入れてくれた。
アイスをリュックに入れ、後は韋駄天と言われた自分の足を信じるだけだ。俺は足を踏み出した。
「待ってろよ佐竹、お前のトラウマ、吹き飛ばせてみせるからな」
遅刻の理由は後から考えればいい、とにかく今は溶ける前に彼女の元に届けることだけを考える。
息が切れる、汗が身体中を流れ出る。静まりかえった学校へ着いたのは、予想より五分早かった。校門を抜け、靴箱で履き替えると、タイミングよくチャイムが鳴った。
息を整えながら、遅刻した教室で佐竹の前に立った。
「佐竹……これ」
リュックを下ろし、中からアイスを取り出す。袋のロゴを見るや否や、佐竹の全てを諦めている目が、少し大きく見開く。
「それ……」
「おうっ、駅前の幻アイスだ!」
「「えー!?」」
神谷と仲本の二人が駆け寄ってくる、これで佐竹も友達ができる。自慢気に俺はその袋を佐竹の前に置いた。
「開けてみてよ、佐竹さん」
神谷が待ちきれずに言う。
「え? あ、うん」
ゆっくりと閉じられた紙袋を開くと、佐竹の表情が一瞬、曇った。
「どんなの? どんなの?」
神谷が後ろから覗き込むと、苦笑いを浮かべる。何かがおかしい、俺の筋書きならもうとうに喜びの言葉で埋め尽くされていてもおかしくはないのだが……覗き込むと、衝撃を受けた――――
「わ、悪い……佐竹」
「コーンだけじゃん、ハハハ」
アイスは完全に溶けてなくなっていた。仲本と神谷が笑う。
「阿妻、あなた本当にバカなのね」
佐竹はクスリと口角をあげる。
「え?」笑った?
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