第3話


「笑いって、楽しませるだけじゃないの、人を悲しませる笑いもあるのよ」


「どこにそんな笑いがあるってんだよ」


「だからバカって言われるのよ……笑われて傷つく人もいるってこと」



 全てを知り尽くしたように答えている佐竹は、ため息を吐く、その仕草が妙にきになった。



「お笑いは、笑わせる仕事だろ、だから笑われようが、笑わせようが同じことなんだよ」


「中学の頃、突然私は虐めの対象になったの、クラスで一人は皆のストレス発散人物にならなきゃいけないのよ、意味もなく笑われて、虐められてたから」


「笑われて……」


「だからこんなでいいの、地味でいれば誰ともかかわらなくて済む。だから虐められることもないしね」



 それであいつは、こんなになってしまったのか、俺は佐竹になにか出きることはないのか、あんな顔、悲しすぎるだろ。



「駅前のアイス、今日も買えなかったぁ」


「人気だもん、仕方ないよ」


「あー、絶対食べたいー、でも学校休まない限り買えないよねー」


「本当」



 下校中、クラスでも派手なグループに所属する神谷かみや仲本なかもととすれ違った。

 彼女達と話した事は今まで一言二言くらいしかなかったが、耳に入って来た言葉が俺を動かした。



「あの」


「「ん?」」



 二人は同時に振り返った。



「あ、阿妻? 何?」


「駅前のアイスって、そんなに人気なんスか?」


「え? 知らないの? 開店後すぐに、売り切れ、幻のアイスって程だよね」


「じゃあそのアイス、俺が食べた事があるって言ったらどうなる?」


「「マジ!?」」



 二人の目の色が変わった、左右を挟まれる感じになり、質問責めになる。



「ごめん、うそ」


「「……え?」」



 二人の肩が落ちるのがみてとれる。



「「んだよ、嘘かよ!」」



 「ははは」と、苦笑いしてその場をしのいだ、だがいい情報を獲ることができた。

 昔のあだ名は、韋駄天の阿妻。陸上部ではなかったが、足には自信があった。


 翌朝、俺は学校とは逆に向かい、登校した。

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