第三章 授業風景
第9話 スケッチ・マッチ
「
美術の先生が黒板にわかりやすくまとめた内容を、水野はそのままノートにとった。上夜内高校の芸術科目は選択制だ。入学した生徒は事前に『書道・美術・音楽』のどれか一つをアンケート回答しており、希望の科目を二年間『芸術選択』として履修する。水野が選んだのは『美術』。なんのことはない。字か、絵か、歌か、の三つを天秤にかけて最も興味があり、かつ多少の
「
水野の周りには三クラス分の美術選択生、合わせて二十人程が水野と同様に身を硬くして、初めての美術の授業の話を聞いていた。
「膠と顔料を混ぜる授業は来週やります。今日は、木炭を使ったクロッキーをします。皆まだ入学して日が浅いし、仲良くなる意味も兼ねて、近くにいる人を二人分、十分間を
水野は配られたスケッチブックの新しいページを開き、細長くて
「まずは左側にいる人がモデルをやって、右側にいる人が十分でスケッチしてください」
「私、七組の
隣から急に掛けられた声にビクッとしつつ、水野は横を向いて自己紹介した。
「よろしくお願いします。私は水野舞湖です。八組です」
「可愛い名前だね。まいちゃんって呼んでいい?」
「うん、大丈夫」
「ありがとう!」
柊は水野にニコッと微笑み、モデルさながらにポーズを取った。先生が全体を見渡しつつ、「始め」と号令を掛ける。
「じゃあ、描くから動かないでね」
「うん、分かった」
——二十分後
「そこまで! お疲れ様。三回目は自由に動き回って相手を探してもらおうと思います。私は次の授業の準備をしたいので、ちょっとだけ準備室の方に行きます。その間に移動しておいてください。じゃあお願いします」
先生はそう指示を出して、裏の準備室に姿を消した。生徒たちはわらわらとペアを探して移動を始めた。水野は先ほど書き上げた柊のスケッチをしげしげと眺めた。
(人のスケッチもやってみるもんだな。初めてにしては上々じゃない?)
「まいちゃんありがとうね」
「ううん、こなっちゃんもありがとう」
柊と同じように礼を言って水野が席を立とうとすると、目の前で柊に、同じクラスらしい生徒が後ろから抱きついた。
「こなっちゃん、どうだった? 私全然時間足りなくてさ、上半身だけで終わっちゃったよ」
「わっ、すーちゃんびっくりするじゃん。あ、この子はまいちゃんだよ」
急に振られた水野は、少しワタワタしつつ、『すーちゃん』と呼ばれた女子に挨拶した。
「『舞湖』でまいちゃんね、よろしく。私は
「うん、よろしくすーちゃん。あ、もしよければ次のスケッチ、すーちゃんで描いてもいいかな?」
水野はそのまま柊、河野の二人と、先生が戻ってくるまで雑談を続けた。クラスの木藤に続き、二番目に出来た友達、とでも言おうか。水野は移動教室、別クラス合同という場で、友人を作れたことに安堵しつつ、すーちゃんをスケッチするべく木炭を握った。
~幕間~
——ある二人のチャット履歴
『てことは、将来結婚できたとしても、子どもは欲しくない派なのね?』[21:52]
『そうなりますね。私の遺伝子を残したくないですし、私なんかに育てられる子どもが不憫です。相手によるところもあるかもしれませんが。』[22:28]
『なるほど、そういう考え方もあるのか。俺は逆に自分の遺伝子を残したい、自分の遺伝子が変容していく
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