とあるTRPGプレイヤーの卓その4

国見 紀行

歌い踊るだけじゃ足りない! アイドルも楽じゃないんです

 とりあえず俺は用意しておいたテキストを読み上げる。

「えっと、ログアウトできないあなた達に聞きなれないサウンドとメッセージウインドウが表示される。


『運営からのお知らせ:

只今一部ユーザの方でログアウトできないという報告をいただいております。現在調査中でありますので、コード交換カードを受け取られた方は破棄などせず、ログアウトできるようになってから退出していただきますようお願いします。なお、ログアウトせずに公式ホームページから交換コードを入力されても有効化できない仕様となっておりますのでご注意くださいませ』


と来た連絡を読むことになります」

「ははーん、脳接続型ブレインダイブVR-MMORPG小説のテンプレみたいな『クリアしないとログアウトできない!』って感じかしら? 理由もうまいじゃない」

「目的はアイドルのカードを手に入れることだからな。強制シャットダウンできたら意味がない。ということで、君たちはログアウトできるよう調整されるまで五人で時間をつぶしてくれ」

「そういや、そんなイベントだったよな。ところでこのアイドルグループはフレーバー設定あるのか?」

「あ、フレーバー伝えてなかったっけ。『神輿坂みこしざか64』は四人を一組にした十六組のアイドルユニットグループだ。それぞれが歌やダンスを得意としていて個性を大事にしたグループ活動をメインとしている。そうだな、ちょうどお前たちが手に入れたアイドルは同じユニットに所属していることにしてもいいぞ。そのユニットごとで、このゲーム世界の舞台をそれぞれ今行ってるところだな」

「このユニットさんは、何が得意なユニットさんなんでしょう?」

「あ、それは決めてなかったな(カラコロン) ……喜劇、が得意なユニットということにしていい」

「キゲキ? コメディってことか? 関西人で組んだユニットなのかよ」

「その辺はダイスの女神に聞いてくれ。で、ここでミニクエストがある。挑戦するか?」

「何でしょう。面白そうですわ」

「今からパーティメンバーの中からダイスで配役を決めて、このアイドルグループのロールプレイをしてもらう。それによって達成値に修正をした値を目標値としてダイスロールして、成功したらログアウトの修正が終わる。達成しない場合はそれを繰り返す」

 お笑いは正直想定外だが、歌やダンスをしてもらうよりは面白そうだ。

「これ、実際にするのか? 技能判定じゃダメなのか?」

「ダメじゃないけど、絶望的に達成値は低いぞ」

 普段リアル言いくるめされてばかりだから、リアル言いくるめで達成値を稼がせるシナリオにしたかったからな。それに、技能判定はさっきゴリゴリやったばっかりだし。

「これは、四人人分の配役を五人で分けるんなら、一人余りません?」

「五人? 四人だろ?」

 俺は他のみんなを見る。一瞬セイイチ黒田の言ってることが分からなかった全員は、俺を除いて何かに気が付き、一斉に俺の方を見た。

「だって、『パーティは今五人』だろ」

 ……あ!

「確かにそうよね。『パーティメンバーで』ってあんた言ったもんね」

「そう言えば、サンディさん加入しましたものね」

「一緒にやりたいなら、そう言っていただければ」

 しまったぁ! ここで予防線のNPCが枷になるなんて!

「まあ、五面ダイスは無いしめんどくさいから2D6全員で振って、一番合計の大きい奴が抜け、な」

 こうなっては、下手に文句を言うと怪しまれる。さっさと終わらせておくか……

「せーの! 俺は9」

「私は5…… 微妙ね」

 マック田中は良い滑り出しだな。それに比べてフレイア飯田はもうアウトだ。

「私は7です。ダメっぽいですね」

「園崎くんはどうです?」

 まて、アレックス佐藤さんが宣言したら次はお前だろう? まあ、これを聞けば残念がるだろうけどさ。

「11だよ」

 ここにきて強運だぜ! 負ける要素は無い!

 ……だろ? 何で笑ってるのセイイチ黒田!

「僕は監督にまわらせていただきましょう。なんせ、貴方に交換カードを差し上げたのですから」

 そこでセイイチ黒田はダイスを見せる。

「! 12ぃ!?」

 うっそだろおい!

「お、イカサマか?」

 そうだマック田中も言ってやれ!

「いえいえ。ダイスの女神さまが微笑んだだけですよ」

「やるじゃん黒田!」

 フレイア飯田も疑えって! 俺はイベントに参加するタイプのGMゲームマスタじゃないっての!

「この流れが既にコメディですわ」

 アレックス佐藤さんなんか、もう笑ってる。

「はい、では寸劇『ももたろう』をお願いします。楽しみにしてますよ」

 こうなったら、やってろうじゃないか!


 むかしむかしあるところに、とある研究施設からサンプルを持ち逃げしたおじいさん研究員とおばあさん研究員が住んでいました。

 おじいさん研究員は山へサンプルを採りに、おばあさん研究員は川へ命の洗濯に行きました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きなカプセルがどんぶらこ、どんぶらこと流れてくるではありませんか。

 おばあさん研究員は優れた身のこなしでカプセルを回収し、帰ってきたおじいさん研究員とカプセルを開けると、中から人間の肺が入っているではありませんか。

「おい」

 おじいさん研究員はそれを「ももたろう」と名付け、山で採ってきた光る竹のサンプルを用いて立派な男の子に成長させました。

「成長させるな! かぐや姫混ぜるな! ていうか研究員ってなんだ!」

「静かにしてください。四人だと配役が足らないでしょう?」

 ももたろうは育ててくれたお礼をしたいと、おじいさん研究員たちが逃げてきた施設へカチコミに行きたいと言い出しました。おばあさん研究員は一人ではつらかろうと、洗脳きび団子を持たせ、旅立ちを見送りました。

「というわけで田中くんがももたろう、園崎くんが犬、飯田さんが猿、佐藤さんがきじで続きをお願いします」

「くっそ、設定盛られ過ぎてもう渋滞してるっての…… あー、ももたろうさん、そのお団子をくれたら退治の旅にお供します!」

「ほう…… 欲しいのか、これが。だが、タダではやれんなぁ……」

「役に立ちます! お願いします! あ、靴舐めますよペロペロ」

「いいだろう、くれてやる! とっておきだ!」

「やったぁ!」

「ももたろうさん、ももたろうさん、わたしにも下さい、そのいい匂いのする食べ物を」

「猿か。そんなにこのホットドッグが欲しいか」

「俺じゃん!」

「はい…… 欲しいですぅ」

「しなをつくるな! 意味が変わる!」

「いいとも。好きにするがいいさ」

「ありがとうございます。では早速……」

「ぴー、ぴー! 私も連れていってください」

「よし、美しい雉には餌をやろう。ほら、おいしい団子だ」

「わーい、ぱくぱく…… う~ん、ももたろうさん、好き」

 こうしてももたろうは三匹の家来を連れて見事施設を破壊し、大量の研究サンプルと資金を横領し、おじいさん研究員とおばあさん研究員とともに末永く暮らしましたとさ。


「……本当にこれでいいのか?」

「なかなかの演技でしたよ」

 もうめんどくさいから自動成功ということでこのミニクエストはとっとと終わらせよう……

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とあるTRPGプレイヤーの卓その4 国見 紀行 @nori_kunimi

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