20.問題

 

 皆は最近困ったことある?



 こう聞かれて素直に困っていることを言う人は少ない。



「大丈夫です。領主様と若様のおかげで平穏無事に暮らせております」



 これがアンサーだ。



 問題は解決できないから問題なのであって、基本厄介事だ。




 相談には信頼関係が必要だ。


 相談されないのは厄介事を本当に解決してくれると思われてないってことだ。



 信頼されてないぞ、ロイド君!



 だからおれはその問題ってやつをこの目で直視するまで知らなかった。




「誰のおかげで安全に暮らせてると思ってる?」

「おれたちから金取ろうってのか? ああ?」




 そう言って男たちが店の物をめちゃくちゃに壊し始めた。



「捕らえて下さい」

「はい、若様」



 駐屯騎士たちが彼らを拘束し、連行した。

 でも、彼らは悪びれた様子も、捕まって後悔した様子も無い。



「こんなことしてただで済むと思うなよ!!」

「貴族だからって思い上がってんじゃねぇ!!」



 彼らはなぜこうも太々しいのか。

 冒険者だからだ。



 この世界で冒険者ほど特殊な身分は無いだろう。



 荒くれ者でも力があればなれるし、民族や種族に関係なくなれる。



 そしてどこの国にも行ける。


 これが厄介だ。



 彼らの扱いは非常にデリケートにならざるを得ない。



 例えば法を犯した冒険者の出身がその国では無かったらの場合だ。


 逮捕して処罰を下すと相手国と揉める可能性がある。

 従属国や小国が大国の出身者を裁くとなおさらだ。


 問題が大きくなる。



 加えて、各国の法はバラバラだ。

 あらゆる国で活動することを前提にした冒険者が一々その国の法を律儀に守るかと言えば、無理な話しだ。

 国によっては理不尽な法もあるし、罪の重さや処罰の手段も様々(神殿の法院が審判を下すが、罰則はその国の法に依存する)。



 だから彼らが現地の法で裁かれることは無い。



 国々とギルドの間で不平等条約のような慣習法がまかり通っているわけだ。



 それを不服として冒険者ギルドに圧力をかけた場合、その国はギルドの力を失う。



 要するに他国からきた冒険者というのはやりたい放題して性質が悪い。




 話は戻るが困ったことがあったとしてもそれは解決できないから問題なのだ。


 街の人々は冒険者が多少店を荒らしても一々領主に陳情を求めはしない。



 言っても無駄だと思っているし、彼らも冒険者ギルドは必要だからだ。



 彼らが冒険者ギルド内のペナルティで大人しくなってくれるのを待つしかなかったのである。




「そんなのおかしいですよねって話です」




 おれはそれを直訴した。


 冒険者ギルドで。



「不服だろうが~、そういうものだ~」



 ギルド長は真面目に取り合う気が無いらしい。



 みんなはそろそろおれの性格が分かって来たと思う。


 ぼくねぇ、こういうの大嫌いなんだ。




「ギルド長、ぼくは依頼人ですよ?」

「ん~? どういうことだ~?」




 おれは指名依頼を出した。



「お、おい、これ~!」

「問題ないですよね? 正当な手続きで依頼を出しただけですし」

「坊ちゃん~、何をしてるか分かってるか~?」

「もちろん。冒険者は冒険者のルールにしか従わない。なら、ぼくがルールを作りましょう」



 おれが計画を詳しく話すとギルド長は顔を青くした。



「あ、そうだ。ところで、今度姫の誕生日に招かれたんですけど」

「今関係あるか~!?」



 それ以来、街で冒険者が乱暴狼藉を働くことは無くなった。



 ゼロだ。




「ったく、恐ろしい奴だな」



 おれが子爵になった祝いに来てくれたタンクたちにもそれを伝えた。


 ベルグリッドでは冒険者もお行儀良くしなければならなくなったと。



「タンクも気を付けて下さいね」

「うるせぇ」

「ああ、そういう態度だと怖い冒険者がやって来ますよ」



 単純なことだ。



 冒険者に冒険者を取り締まらせたのだ。

 目には目を!

 歯には歯を!



 冒険者には冒険者を!



「まさか、街全体を護衛対象にして依頼を出すとはな」

「あ、リトナリアさんも指名の候補だったんですけど、あんまり街にいないから」

「私は受けなかったよ」



 まぁそうだろうね。



 おれがやったのは、冒険者から街を守るという依頼だ。



 契約した彼らは領内において他の冒険者への制裁権と捜査権を持つ。



 彼らに街で騒いだり街の人に迷惑をかけているのが見つかると、冒険者流の落とし前を付けさせられるという寸法だ。



「受けているのは一匹オオカミの連中ばかりっすね。疎まれても困らない実力者ばかり」

「だがよ、こんな無茶が続くか? またしわ寄せがお前に行ってるぞ」



 確かに、やられた冒険者はおれを恨むだろうし、お金も掛かる。



「まぁ大丈夫ですよ」

「なんで?」




 困っているのはここだけじゃない。


 このやり方を他の街でもやれば冒険者たちはみんなお行儀良くなるだろう。


 しかし、それだとギルドの面目は立たない。

 自分たちの組織の問題を、客に解決させているからね。



「いずれ出資はさせつつ、取り締まりの命令はギルドが握るでしょう。依頼という形だと手心も加えられず、冒険者内の抗争に発展しますからね」

「こえーんだよ、お前!!」

「わかってやってるのが怖いな」

「ぼくは依頼を出しただけです」



 タンクたちはそれからしばらく屋敷に居座った。

 もしかしたら冒険者の報復を警戒してくれていたのかもしれない。



「話は変わるんですけど、今度姫の誕生日パーティーに招待されまして」

「ああ? 自慢か? いいねぇ、おれも連れてけ」

「いいないいなぁ、おれも行きたいっす!」

「おい、無作法なお前たちが行っても恥をかくだけだぞ。私が行く」

「いや、プレゼントを‥‥‥」



 聞いちゃいなかった。





 ベルグリッドの冒険者の情報はすぐに拡散し、他の領地でもマネされだした。



 思惑通り、ギルドは自分たちから申し出て、冒険者の素行を取り締まるようになった。




 街に行くと、みんなどこかホッとした様子をしていた。



「何か困ってることありますか?」



 そう聞くと、今度はみんな相談してくれるようになった。



 でもね。


 相談を聞くのは相手に相談を聞いて欲しいからかもしれないよね?



「どうしたんですかい、若様。浮かない顔ですね」



 定期的に市中を見回りに行くようにしていたら街の人たちの方から話しかけられるようになった。



「王女様の誕生日プレゼントが決まらない。何を贈ればいいんですかね?」

「はは、おめでたいですねぇ」

「ああ、おめでたいおめでたい」

「若様、すごい!」

「姫様のパーティーに招待されるなんて!」

「いや、プレゼントを‥‥‥」



「みんな、我らが若様が姫君の誕生パーティーに招待されたぞ!!」

「「「「おおおおお!!」」」」




 問題は解決できないから問題なのであって、解決出来たら苦労しない。



 何が言いたいかと言うと、プレゼント選びで苦労したってこと。




「ヴィオラ~」

「なんですか~坊ちゃま~?」

「今度友達の誕生日会があるんだけど、何を贈ればいいと思う?」

「わぁ、お誕生日の方は男の子ですか?」

「ううん、女の子だよ~」

「じゃあ、きっと、あれがいいですよ~」

「そっか~」




 こうしておれは王女システィーナへのプレゼントを決めた。




■ちょこっとメモ

冒険者には外国人も多い。

というか外国人のほとんどが冒険者。

パラノーツは広大な大地に大量の魔獣がいるため冒険者の入国は規制していない。

帝国人、魔族、南部ローア人、獣人、ドワーフなど多種多様な民族が入り乱れるため問題も起こす。

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