4.神々

 みなさん、これからは真面目で真剣な話。

 

 もうおふざけはお終いだ。



 テーマはずばり、おれに会いに来た謎の美女の正体。


 そして転生の謎。



 気になっている人も、もう察しがついている人もいるだろうけど、おれが出会った女神みたいな美女について、その正体を知りたいだろ?



 彼女の動きをちょっと追ってみよう。公式ストーキングだ。



 店から出た彼女はローブを目深に被りコソコソと裏通りを歩き、ネコちゃんに引き寄せられてひとしきり戯れている。気持ちはわかる。


 かわいいよね。

 でも本編とは関係ないから、彼女がネコちゃんと戯れている間にネタ晴らししておくよ。




 彼女、名前はエリアス。



 エリアスと言えばこの世界の最も古い神々十二柱の中で四番目の神。

 その神にあやかって同名を名乗る女神のような美女。



 ではなく。



 正真正銘その慈愛の女神エリアスなのである。


 ちなみに十二柱はこんな感じ。


 始まりの神ファウスト 起源や出発、意志を司る

 知恵の神ダナン 知識と発想、革新と技術を司る

 空間の神アルマンフィ 場所と時、距離を司る



 平和の神エリアス 愛と平和、奇跡と運命を司る←この人!!! 超エライよ!!!



 魔導の神アリア 法則と結果、真実と洞察を司る

 武の神オーブ 進歩と努力、精神と肉体を司る

 戦の神デュナイダル 生存と犠牲、本能と理性を司る

 守護の神ダーマ 正義と忠誠、継続と忍耐を司る

 豊穣の神ピアース 農耕と狩猟、生命と成長を司る

 天災の神ジェシュア 天候と災い、恵みと滅びを司る

 契約の神メディア 誓約と制約、対価と代償を司る


 テストに出るから覚えよう!




 さてそろそろ動いたかな――ってまだ戯れてる! むしろネコちゃん増えてる!!



 これだと尺が足りないからもうちょっと先を見てみよう。



 あの後もしばらく辺りをうろついた女神はナンパされたり、困っている人を助けたり色々してからとある場所にやって来た。 



 半透明な結晶で出来た、天然か人工か判別できない長い通路。


 結晶と結晶が奇跡的にピタリと組み合わさり、真っ直ぐな道を生み出している。


 その中を煌めく七色の光が駆け巡り、オーロラの中にいるかのような幻想的な空間。


 その中をスキップしながら渡るエリアス。

 忍び寄る影。



「……フフ」

「何やり切ったみたいな顔してるんですか、エリアス様?」

「きゃあ! 何ですかシス……気配を消して背後に立たないでください!」



 神界に戻ったエリアスを待ち構えていた女。

 金髪のシスと呼ばれた彼女もまた神様。

 ただ、神格としてはずっと低い若い神だ。



「彼にこっそり会いに行って朝帰りですか。何をやり切ったんです?」

「ち、ちちちがいますよ!! わ、わたしっはそ、その彼に――」

「いや焦りすぎでしょう。やましいことしてきたみたいですよ」



 もう一度言っておこう。

 エリアスは四番目に偉い神。



「からかわないでください。それでシス、何か私に御用ですか?」

「下界の者に影響を与えるのは良くないこと。まして今日彼に行ったことがどう影響するのか、あなたはわかっておいでですか?」



 本題はここからだ。

 彼女はおれに何をしたのか?



「あのまま放っておけば街は消滅していたでしょう……あの環境の中、まさか独学で魔力操作を会得するとは……」

「確かに予想外でしたね。おそらく彼の世界にも同じような力があるのでしょう」



 ここで重要な発言は、『彼の世界』という表現だ。

 神々はこの世界の神であり、喜多村誠一のいた地球にはノータッチ。


 なら地球で死んだ喜多村誠一の魂はなぜこちらに来たのかのか?



 それが問題だ。

 ここからはその決定的発言をノーカットでお届けしよう。



「しかし私の言っているのはそのことではありませんよ。なぜ魔力を抜き取ったところに神気を注ぎ込んだのですか?」



 神気とは呼んで字の如く神の力。



 そう、わざわざおれに会いに来た女神エリアスの真の目的は、おれにこの神気を授けることにあったのだ。



 以降言い訳が続くけど、要するに転生特典の後付けってことだ。



「魔力の代わりに神気を注いだのは魔力の絶対量を神気が占める分だけ抑えられるからです!」

「ええ、それはどのぐらいですか?」

「さぁ? 比較する人がいないので正確には。あえてあなたと比べるなら10分の1くらいでしょうか」

「あのですね……私も一応神なので。その1割の力を三歳児に与えたのですか!?」

「……だって……」



 エリアスはすでに泣きそうである。

 ここからシスの追撃が始まる。



「あなたは彼がこちらの世界で争いに巻き込まれず生きてほしいから、平凡な土地と平凡な家と平凡な器を選んだのでしょう? 力あるものは争いに巻き込まれるからと。これでは元の木阿弥です」

「……で、でも、すでに魔力は有していたのです。ならば力を正しく扱い、生き延びる手段とするしかありません。神気はそんな彼の人生できっと役に立ちます。高位治癒魔法、結界魔法も扱えるようになるでしょう」



 ごめんよ。代わってお詫び申し上げるわ。

 長い言い訳だったよね。


 彼女なりの思いやりがあってのことだけど彼女が授けたのは超チートだ。

 作品の世界観を破壊しかねない。

 気づいている人もいるだろうけど、ここまでのおれの話には神気というワードは出てきてないし、この後もしばらく出てこない。



 具体的に言うと第二章まで出てこない。



 ゲームで例えると、終盤のボス戦の前に揃える全アイテムとサブタンク4つがチュートリアルから使えるみたいな感じだ。


 おいおい……


 エリアスは身振り手振りを交えて必死に正当化するけど、こりゃ擁護できまへんで。

 シスはん、やっておしまい!!



「……魔力をすべて抜き取り、魔法を使えなくすることもできたのでは?」


「――あっ!」



 完全論破。


 エリアスはへたり込み、うなだれた。

 それはまぁ、魔力を抜き取り切るのはやり過ぎだけど加減はできたよね。

 魔力減らして、無茶しないようにアドバイスするとか。



「聖域以外で高位治癒ができたらさぞ有名になりますね。神殿の者たちはまぁ大丈夫でしょうが、帝国の教会関係者は彼を排除するか、取り込むしかありませんね」


「――あっ!!!」


 必要の無い追い打ちがエリアスを襲った。

 取返しの付かないことをしてしまった後悔で身体を震わせている。



「仮に魔導士としての大成を後押しするにしても、ちゃんとアドバイスできたんですか? 彼が基礎魔法だと思って対軍級魔法を発動してしまったら? 話せる時間は限られていると初めからわかっていたのだから手紙にすべて書いて渡せば……」

「――い、いまからか、書きます!」



 泣きながら紙とペンを探すエリアス。



「もうだめですよ。あと10年は下界に下りないでください。悪影響が出ます」

「ならあなたが手紙を渡してください!」

「嫌ですよ。なんで剣神の私が魔導士の手伝いなど――」



 そのままシスはその場を去ろうとした。

 しかしエリアスはその身体にしがみつく。



「見捨てないでー! シスゥ〜お~ね~がぁ~い〜」

「可愛い子ぶらないでください」



 いわゆるお約束の、転生者に女神がチートを授けるという展開だけど、なんでこのタイミングなのか。


 そもそもなんでおれはこの世界に転生したのか。

 おれは知らないし、女神は泣いているので簡単に補足しておくよ。



 人と魔族、その間で繰り広げられた巨大な戦火の中、魔族の王が禁忌に手を染めた。



 ――異界の門を開き、英知を掴む禁断の魔法――



 死して間もない誠一の魂はそうしてこの世界にやってきたのであった。



 下界への干渉を最小限に留めてきた神界の神々は異界の情報の悪用を危惧し、喜多村誠一の魂を戦地から離れた、ごく平凡な家庭の、平凡な器に隠した。




 そうして生まれたおれは平凡な人生を送る運命だった。




 しかし、この日、女神の天然な思いつきのせいでその未来は消えた!!


 ゆっくりと第二の人生、ローカルヒーロー的な活躍で、スローライフできたかもしれないが時すでに遅し!!! 


 おれの人生設計とか行動目的とか、美醜の水準とかいろいろ上書きして、大いなる力には大いなる責任が伴うのです、と説明も無いまま、神々はまたもや無干渉を決め込むこととなった。



 果たしておれは成り上がりチート無双してしまうのか!?

『あれ? おれなんかしちゃいました?』とか言っちゃうのか!!?

 やけに詳細な前世の知識を披露して安易に文化革命を興してしまうのか!!!!?




 こうご期待!!!




■ちょこっとメモ

エリアス、シス、その他目撃者たちのからの証言をもとに再現したロイドの脳内ムービーなので、やや脚色が入っている。エリアスは「ここまで天然じゃないですー」と反論し、シスは「もっとオブラートに包んで言ってやったわ」と異論を呈したが、ロイドは無視した。

この日カサドの一画から猫が消えたという怪現象が確認されている。

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