営業報告会議の後で

仁志隆生

営業報告会議

 昼休みも終わり、これから営業報告会議。

 今回はいい報告ができそうだわ。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 席を立ち、隣の席にいる後輩の山崎君に言った。

「吉川課長、僕たちの事もちゃんと言ってくださいよ」

 山崎君がニヤけ顔で言う。

「わかってるって。ああ、何度も言うけど皆ほんとありがとな」

 今回は規模が小さかったのと出費を抑えるため、あとは若手に経験を積んでもらいたくて協力会社を使わずに自社対応したんだよな。

 特に彼は軽口を叩くが、不満は言わずにメインの部分でよく頑張ってくれた。

 客先の担当者さんも理解してくださり「後で難しいと思ったら追加の見積もりくれ」って、ほんと良い縁に恵まれたよ。


「いえいえ。あ、今度なんか奢ってくださいよ」

「ああ、落ち着いたら飲みにでもいくか」




 会議が始まり、俺が予め配布した資料を元に説明していく。

「吉川君、なんで協力会社にお願いしなかったの?」

 一区切り着いた時、俺の直属上司である松任谷部長がそんな事をほざいてくれた。

「なぜって、先程説明した通りですが?」

 俺はちょっと苛つきながら言った。

「いやいや、経験なら協力会社さんにも積んでもらわないとだね」

「いえ、元請のこちらが経験不足では指示もできません」

「いやいや、丸投げすればいいだろ」

「あのですね、それでは支払いが割高になってしまいますよ」

「いやいや、そこは他を削れば」

「だから他も削れるかってくらい削りました。いえもう少し安くできたかもしれませんが、それでは品質が下がります」

「いやいや、だからさ」

「あのですね」

 いやいやうるさい、もう黙れと思った時。


「……吉川君は先方の担当者さんと飲みに行くくらい仲がいいよね。もしかしてそういう関係?」

 その言葉にカチンと来た俺は、拳を握りしめて飛び出そうとしたが……。


「松任谷君、それは失礼だろうが。言っていい事と悪い事の区別もつかんのかね?」

 臨席していた専務がそう言ったので、なんとか踏みとどまれた。

「……はい。吉川君、すまなかった」

 松任谷部長は渋々といった感ではあるが、頭を下げて謝罪してくれた。

「いえ。では続きを」




 そして営業ミーティングが終わった後だった。

「吉川君、ちょっと」

 専務が俺に声をかけてきた。

「気持ちはわかるが、短慮はダメだぞ」

「……はい」

 やっぱお見通しだったんだな。

 俺は本当に申し訳なく思いながら頭を下げた。


「で、本当にそういう関係ではないよね?」

 専務がニヤついて冗談ぽく言ってくれた。

「あのですね、担当者さんは男性ですよ。いやもし女性だったとしてもそんな関係にはなりません」

「そうだよね。ところでさっきの報告でも聞いたが、君はともかく山崎君も大活躍だったそうだね」

「ええ。細かい事にも気がついてくれて、本当に助かりましたよ」

「そうか。うん、松任谷君の代わりに吉川君を部長にするか」

「は?」

 急に何言うんですかあなたは。

「ん、嫌かね?」

「は、はい。私にはまだ荷が重すぎます」

「そう言わずになってよ。でないと松任谷君を左遷できないよ」

「え……?」

 いやさ、松任谷部長は腹が立つこともあるが、なんだかんだで部下の壁になってくれる。そこだけはまだ敵わないと思ってるんだよ。


「あ、あの、それは」

「彼はなんだかんだ言ってねえ、私が山崎君と二人っきりになろうとすると邪魔してくるんだよ」

「はい?」

「彼も私も独身なんだし、邪魔する理由など……そうか、松任谷君も彼を狙ってるんだな」

「……」

「なあ吉川君、やはり部長にな」


 今度は踏みとどまることなく拳を放った。

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営業報告会議の後で 仁志隆生 @ryuseienbu

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