ユリリリ【KAC2022第4回】

はるにひかる

文化祭の舞台にて


「全く、リリったらいっつもそうなんだから!」

「エヘッ」

 私のツッコミに相方のリリがおどけて見せると、私たち2人の一挙手一投足に注目していた皆は、大きな声を出して笑った。──良かった、ウケた。


 私ことユリと相方のリリは、プロの漫才コンビ。……等では無く、普通の高校1年生。

 今居るここも劇場やなんかでは無くて、少し華やかに飾られているだけの、学校の体育館の舞台。

 観客は同じ高校の皆と先生たち、それに招待客の保護者の皆さんだ。

『普段のやり取りが漫才みたいで面白いし、2人なら絶対大丈夫だからお願い!』と文化祭実行委員の友達に頼まれて、こうして漫才コンビ“ユリリリ”を急遽結成して、皆の前に立っていると言う訳だ。


「それでさあ、リリ。私、キャンプに行ってみたいんだよね」

「……」

 ——あれ? 次のネタに進む私の言葉に、リリからの返事が無い。

 若しかして、忘れちゃった?

 ……仕方無い、余り間が開いてもおかしいから、私で続けちゃうか。

「今流行っているからさあ。でも、ちょっとやってみるにはテントとかの道具が高いんだよね」

「ああ、じゃあ働かなきゃね」

 ああ、リリからの返事が来た。……って、あれ?

「そうそう。学校辞めてさ」

「じゃあ、私と毎日会えなくなっちゃうね」

 私とリリのセリフが、逆になっている?

 悪戯っ子の様に笑うリリを見て、自分の顔が一瞬で熱くなったのを感じた。

「……じゃあ、キャンプは良いや」

「ってこれ、何の話よ!」

 リリが元気いっぱいの声で私にツッコんで、会場は笑いの渦に包まれた。

「キャンプより、リリの方が大事……じゃなくてさ、さっきリリがセリフ飛ばしたからおかしな事になったんじゃない! 本当はここ、私が『学校を辞めたらリリと毎日会えなくなっちゃう』って言ったのをリリが『辞めないで!』って止める所でしょ! ……まさかリリ、わざと?!」

「……んー。えへっ」

 私の剣幕に少し考え込んだリリがさっきと同じく可愛くおどけて見せた処で、一際大きな笑いが起こった。……天ドンって奴かな。

「もう良いよ!」

「「どうも、ありがとうございましたー」」

 最後にリリにツッコんでから2人一緒にお客さんに礼をして、舞台袖にけた。

 大きな拍手が聞こえて来る。

 ずっと不安だったけれど、思っていた以上にウケたし、やって良かったな。

 何より、楽しかったし。


「ユリ、リリ、お疲れ! すっごく良かったよっ。期待以上!」

 舞台脇の部屋の小さな階段を降りると、私たちに舞台に立つようにお願いして来たサチが駆け寄って来た。

「へへっ。そう言ってくれてありがとう。やって良かったよ」

「ねっねっ、最後の所の舞台裏話とかも台本だったの? それとも、アドリブ?」

 やっぱり、気になるよね。私も視聴者だったら絶対気にしている。

「……アレは、リリが途中で台詞を飛ばしたからフォローしたら、そのまま入れ替わっちゃっていて……」

「あの時のユリ、すっごく可愛かったよね!」

「うん!」

 手を合わせてキャイキャイ喜び合う、リリとサチ。

 ……リリ、やっぱりわざとだったのね。

「サチごめん、ちょっとユリと2人で休みたいかな。また後でね」

「あ、そうだよね、疲れたよねっ。……何なら、ここで休んでても良いけど?」

「ううん、のんびり展示とか回ってみるよ。また後でね! 行こ、ユリ!」

 いつの間にか話をつけられていて、私はサチに手を振りながら、部屋を出るリリの後を追った。


  ◎◎◎


「それにしてもリリ、最後のやっぱりわざとだったんだ」

「うん。折角だし、皆にもユリの可愛い処をもっと知って貰いたくて。ほら、ユリって私以外と話している時、何だか雰囲気が違うじゃない?」

 校内の飾り付けを見ながら訊いてみたら、リリは全く悪びれもせずに言った。

「そう? んー、そんな心算は無いんだけど……」

「そうなんだよ」

 どんな根拠が有るのかは知らないけれど、リリは当然の様に断言した。

 ……そうなんだとしたら、私がリリに片想いをしているから。

 私とリリが出会ったのはこの前の4月、高校の入学式の事。

 一目惚れだった。こんなに可愛い子が、この世の中に居たなんて、って。

「ユリ! あ、リリちゃんも。さっきの、面白かったわよ!」

「お母さん?!」

 声を掛けて振り返ると、そこにはお母さんが居た。見ていたのか。

「何で?!」

「うん、ギリギリでお休みが取れたから。面白かったわよ、2人ともっ」

「ありがとうございます!」

 お礼を言ったリリの肩に、お母さんは手を置いた。

「リリちゃん、ユリといつまでも仲良くして頂戴ね。この子そそっかしいし、バカだし、リリちゃんみたいな子が居てくれたら安心だわ」

「ちょっと、バカって」

「はい、お任せ下さい。ずっと一緒に居ます!」

 私のカットインを許さず、リリはお母さんに満面の笑みで返した。

 ……何これ、嬉しい。

「じゃあ私はもうちょっと見てから帰るから。じゃあまたね、リリちゃん」

「はい、また!」

 お母さんとリリは、お互いが見えなくなるまで手を振り合っていた。


「ずっと、一緒に?」

 私が訊くと、リリははにかんで答えた。

「……だって、頼まれちゃったんだもん。仕方無いじゃない」

「……そうだね」


 やっぱり、リリはそんな感じなのか。

 勿論、友達としてでも一緒に居て貰えれば満足なんだから。……今は。


 私のこの想いを伝えるのは、この気持ちが溢れてどうしようも無くなった時。

 ずっとそんな目で見ていた事を気持ち悪がってリリは離れてしまうだろうし、仮に優しいリリが受け入れてくれたとしても世間は許してくれないだろうし、全てを失う覚悟が出来た時。

 それでも、──伝えたくなった時。


「ねえユリ、このクラスの展示、見てかない?」

「うん、良いよ、行こう」



 それがいつになるか、そもそもその時が来るのかどうか。


 ──これからどうなるかは分からないけれど、今はただ、リリと一緒に──。

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ユリリリ【KAC2022第4回】 はるにひかる @Hika_Ru

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