コカちゃんの、靴下。
シーラ
第1話
愛する妻が出張に行って3日経つ。毎夜通話はするが、ベットが広い。冷たい。
寂しさに耐えきれず毎日枕を濡らしている。だが、妻が居ないからこそ出来る事もある。
「これはレースが一部劣化し始めているな。こちらは、毛玉ができている。新しく作り直そう」
コカの衣服の入っている箪笥。絶対に触るなと強く念を押されている。だが、今は本人がいない。隅々まで触り匂いを嗅ぐ事が出来る。至福の時だ。色々と楽しんでも、洗えば証拠隠滅になる。
コカは冷え性なので、冬場はルームソックスを愛用している。愛する妻の為に俺は製法を一から勉強し、現在では彼女の足に完璧に合った物を作れるようになった。
「今回は、水色と薄紫色にしてみるか」
俺専用の裁縫部屋に向かい、フリース生地を手に取り、伸縮性のある飾りレースを選ぶ。前回は星柄にしたので、今回はマーガレット模様にしよう。………黒も作っておくか。白い肌によく映える。
生地を裁断し、用意する。ミシンの前に座り、針の確認。まだ交換の必要は無いな。
つけ心地が良く不快感がないよう、肌当たりに注意しながら一つ一つを丁寧に縫い上げる。
「こんなものかな」
そうだ、前に動画で見た手作りショーツを作ってみよう。
動画を探して再生しつつ、黒くツヤツヤとしたサテン生地を選ぶ。カットしながら、聞こえてくる作り方を頭に入れていく。本を読むより人の声を聞いた方が覚えやすいんだ。
このショーツは俺と楽しむ用だから、着心地と使い心地は二の次だ。ビーズが縫われたリボンやレースをふんだんに使おう。可愛さの中に甘さを取り入れよう。
妻の尻の形を想像しながら大きさの微調整をし、裁断した布とレースを用意する。
ミシンをスイスイと動かして、飾りを縫い付ける。縫う面積が少ないから、あっという間に完成だ。
「完璧だ……早く付けて欲しい」
これをコカが着た姿を想像し、自然と笑顔が溢れる。俺をここまで興奮させる事が出来るのは、ただ一人。ああ、俺の愛する妻。会いたい。着させて脱がせたい。
恋しくて、コカの履き古した靴下を手にとる。空洞を見ると、彼女の痕跡を感じる。この中なら、彼女を感じられるかもしれない。
少し楽しもうとしたタイミングで、コカから着信が来た。
「もしもし……ああ、コカちゃんもお仕事お疲れ様」
妻の声が聞こえただけで、俺の枯渇した欲求が満たされてくる。心が温かく満ちてくる。幸せだ。
「今は、新しいルームソックスを作っていたんだ。楽しみにしていてくれ……いや、箪笥は開けたが、余計な事はしていない………で、でも、悪気は無くて……わかったよ。この靴下は、処分しておくよ」
許可無く箪笥を開けた事について激怒された。コカの洗濯した衣服を仕舞おうとした時に、靴下が痛んでいたから作ったと言えば良かった。今更だが。
「愛しているよコカちゃん。明日会えるのが楽しみだ。一人は寂しい」
何度も俺の愛を伝え、コカからも愛をもらい、電話を切る。満足した。
目の前に置いてあるコカの履き古した靴下を手に取り、匂いを嗅ぐ。洗剤の香りの遠くにコカを感じ、嬉しくなる。少し口に含んで味わい、興奮を抑える。約束したから。
「さて、洗うか」
コカの為に作った衣服の水通しも終わり、陰干しして形を整えてから箪笥に仕舞った。彼女の着けた時の反応が楽しみだ。
使い古されたのはジップロックに仕舞い、コカが絶対に見ない生地入れの奥に仕舞う。少しくらい、俺にも秘密を持たせてくれ。
「愛しているよ、コカちゃん。永遠に」
コカちゃんの、靴下。 シーラ @theira
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