英語が大事だと本気で思った〜俺たちのぐだぐだ英会話〜

宮瀬優希

第1話【俺とメアリーと第三者鈴木】

ガラガラッ。扉が開く音と共に、担任の斎藤先生が入ってきた。相変わらずの薄い頭を光らせつつ、俺たちの前に立つ。

「えー、皆おはよう。今日は重大なニュースを持ってきましたー」

割と重大じゃないニュースの時のテンションで、斎藤先生が言う。俺たちは当然、えー何ですかー?学級閉鎖とかー?などとふざけ半分で応答する。いつもなら先生もそのノリで返事を返してくれるのだが、今日は違っていた。

「はい、静かに静かに。今日のは本当に大事なんだから」

パンパンと手を叩き、俺たちを静かにさせた。なんだ?そんなに大事なことって一体……。先生が、頭に負けない眩しい笑顔を俺たちに向け……

「なんと、転校生が来まーーーーーーす!!!」

衝撃の一言を放った。刹那の沈黙。

「……ええええええええ!!!?」

不協和音が教室に響いた。

「えー、うん、驚くのもわかる、わかるよ!じゃあ、新入生を紹介しよう。入ってー」

少女漫画あるあるなセリフを放ち、先生が扉の方を向いた。当然、俺たちも扉に注目する。少しの間を開けて、カラカラと控えめな音と共にその転校生は入ってきた。第一印象、超絶美少女。教室が静まり返った。動物園のような騒がしさの教室に訪れた、圧倒的沈黙。斎藤先生が、その沈黙を打ち消すように言った。

「えー、じゃあ自己紹介をして貰います。あっ、…………」

最後は転校生に何やら耳打ちをしているようで、聞き取ることは出来なかった。が、教室の前に立った美少女はそれに頷き、俺たちを見て、ふんわりと笑った。

「Hi ! I'm Mary. Nice to meet you.」(私はメアリーです。よろしくお願いします)

……はにゃ?もしかして、この子……


(((日本語が話せないんじゃ……!!?)))


クラス全員の思考が一致した。

「えー、わかったと思うが、メアリーさんは日本語が話せない。大変なこともあると思うが、仲良くしてやってくれ。じゃあ、席は……」

斎藤先生はそう言い、ゆっくりとクラスを見渡した。空いている席は、俺と親友の鈴木と木村の横。3分の1……、日本語が話せなくても良い、俺はメアリーちゃんと仲良くなりたい!!頼む!!神よおおおおおおおお!!

「鈴木、お前の横で良いか?」

「え、はい」

結果、敗北。

(何でだあああああああああああ!!!?)

俺の横は、空いたままになってしまった。

「えー、じゃあ、そういうことで。今日のHRは終わります」

残酷にも、俺の絶望を他所に、HRは終わってしまった……。


まさか、俺の横になるとは……。俺は正直、困惑していた。なぜかって?それは……。


(親友の樋口が、めっちゃ隣になりたがっていたからだ!!!)


めっっちゃ悔しそうに、俺の方……否、メアリーさんの方に近づいてきた。ここからは、樋口とメアリーさんの会話だ。


「は……Hi ! Mary !!?」(や、やあ、メアリー!!?)

「h……Hi」(や……やあ)

「I'm Ken ! Nice to meet you !」(俺、健!よろしくね!)

「Nice to meet you too Ken」(こちらこそよろしく)

「えーっと……」

まずいな、健のコミュ力が尽きた。親友として、フォローしてやるとするか……。

「Sorry, Mary. Next class is science. Let's go to the science room」(ごめんね、メアリー。次は理科の授業だから、移動しよう)

ここで、チラッと健を見る──!!この後の会話はお前に任せっ──

「……は?」


(だめだったあああああああああああ!!)

そうだった、こいつ……、

(英語出来ないんだったあああああああああ!!!)


俺の嘆きを他所に、メアリーさんは、会話を続ける。


「Ok. Where is the science room?」(わかった。どこにあるの?)

メアリーさんありがとう……。よし、健。お前が答えるんだ……!

「Ah──……、It's white !!」(あー……っと、白だよ!!)

何言ってんだお前ええええええ!!!?今すぐハッ倒してしまいたい。もしかしてこいつ、『What is the rice color?』(お米の色は何色ですか?)だと思ってたりして……。普通に考えて、聞く要素皆無だろ。メアリーさんは、黄色い米派かもしれないとか考えてたら、ある意味天才だわ。メアリーさんは、案の定キョトンとした顔で、

「White?」(白?)

と聞き返していた。そこに、痺れを切らしたクラスの女子が登場。

「Hi, Mary ! We'll guide you to the science room!」(やっほー、メアリー!私たちが理科室に案内するよ!)

メアリーは連れて行かれてしまった……。ドンマイ、樋口。


「鈴木……」

「ん?」

「俺、英語頑張るわ」

「そうか……」

「というわけで、よろしくな」

「………は!!?」


これは、恋から始まる英語教室の物語──


じゃないです。ただのぐだぐだ英会話です。

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