9. 全てを受け入れる心意気

 教室に入ると、ざわついているので転校生かな?と思いながら、自分の席に近付くと原因がわかった…。

「こなつ、おはよう…」

 誰ですか…?

 隣の席に、冴えない大口おおぐちくんがいない…。

 実際には、メディアで活躍しているアイドル・タクトが席に座っているので、同一人物ですが…。

「おはようございます…」

 ちょっと距離感を保ち、席に座る。

「こなつちゃん、俺、教科書忘れて来たから見せて…」

 近付く拓斗たくとくんに、仰け反る。

「何で、遠退くの…?」

 いつもの凡人オーラは、どちらへ?

「私が知ってる大口くんではないです…」

 あのダルそうにいる大口くんは、どちらへ?

「そっか…」

 と、ダルそうな雰囲気は出てるけど、それとは別の何かが溢れ出てます…。

「何か違う…」

 そう呟いて、今日の時間割りを確認しながら用意していると、

「でも、これも俺、なんだけどな…」

 呟いた声があまりに近かったので、

「近い…」

 顔を見ずに、肩を押すつもりで腕を伸ばしたら手をギュッと握られて、

「照れてるの…?」

 息がかかるくらいの距離で囁かれると、

「照れてませんっ」

 ドキドキするに決まって…、あれ?

「拓斗くん、私、ドキドキしてるよっ」

 思わず、拓斗くんに掴まれた手を胸に押し当てて、

「本当だ…」

「拓斗くんにドキドキできるようになったよっ」

 興奮冷めやらぬ私に、拓斗くんは真顔で、

「それはよかった…」

 何だ。この温度差は…。

「う、うん…」

 そうか。今、学校だった…。

「ごめん…」

「いや、謝らなくていいよ…」

 気まずい雰囲気に耐えられず、筆記用具の確認を始めた。

「こなつ、今日は一緒に帰ろうか…」

「帰りません…」

 これ以上、ドキドキしたくない…。

 きっと拓斗くんを意識しているのだろう…。

 このドキドキは…。

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ニガテなモノ。 @tamaki_1130_2020

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