8. この想いはナニモノ?

庄野しょうの、よく頑張りましたっ」

 中越なかこし先生に頭を撫でられて、

「ありがとうございました…」

 少し感極まってウルウルしてしまった目を見て、

辰己たつきお兄ちゃん、泣かせちゃダメでしょう…」

 拓斗たくとくんは、私の頬に触れる。

「辰己お兄ちゃんって学校では言うな…って、言ってるじゃないか」

 中越先生が割って入る。

 それがきっかけで、拓斗くんとずっと見つめ合っていた事実に気付く。

「この夏休みの間に、何かあったんだな…?」

 交互に顔を見る中越先生に、

「何もないですよ…」

 先に言ったのは拓斗くんで、

「はい…」

 でも、中越先生は腑に落ちない顔をしながらも、

「そうか…」

 じゃあ。と教卓に手を置き、

「お疲れ様でした。少しの間、夏休みを堪能してください」

 一礼して、

「お疲れ様でしたっ」

「お疲れ様でした…」

 顔を上げたら、中越先生はもう廊下を歩いていた…。

「こなつ…」

 帰り支度をする拓斗くんが、私に話しかけるので、

「はい…」

 同じく帰り支度をしながら、返事をする。

「俺、来月からは極力戻って来るようにするよ…」

 先に帰ろうとする拓斗くんを止めた。

「ん…?」

 腕をギュッと掴んで、

「向こうに、転入しないの…?」

「しないよ…」

 その答えを聞いて、掴んだ手を離した…。

「それに出席日数が足りなくて留年したって、こなつがいないなら意味がない…」

 拓斗くんの顔って、こんなに穏やかだっただろうか…。

「前のこなつちゃんだったら、一緒に留年しようかなって思ってた…」

 夏の日差しとともに見える笑顔なのに、ふんわり柔らかい笑顔で、目が離せない…。

「私は留年というか退学になりかねなかったね…」

「数学が破滅的だったからねぇ…」

 拓斗くんの手が私の頭を捉える。

「本当、よく頑張ったよ…」

 頭を撫でて、そんな優しい顔を向けられたらタクトに興味ないヒトだとしてもこれは心が揺らぐ行為だと思う…。

 相変わらず、私はドキドキしない…。

「うん。私、頑張ったよ…」

 でも、ドキドキしたいのかな…。

 そんなこと考えるなんて…。何だろう…。

 欲求不満、か…?

「そんな頑張ったこなつにはこれをプレゼントします」

 拓斗くんは私に包装紙に包まれた小さなボックスを渡そうとして、

「中身は留め金、だよ…」

 私の警戒心を解いた。

 確かに、指輪かなと思った自分がいた…。

「ありがとう…」

 大切にするよ。これ。と言って、鞄に入れる。

「このお礼は、いつかするからっ」

 帰ろうとした私の腕を優しく掴んで、

「うん。じゃあ…」

 私の左手を掴み、薬指にキスをした…。

「唇に、しようか…?」

 急接近するイケメンの顔は、

「無理…」

 避けるしかない…。

「無理…?」

「拓斗くんは、あのタクトであって…」

 私とは住む世界が違い過ぎて、

「皆のタクト、だから…?」

 うん。と頷くと、

「こなつの気持ちは…?」

 そう言うと、私を抱きしめて、

「俺、本気だよ…」

 首筋に息がかかる…。

「こなつが俺のこと夢中になってくれるなら…」

「ならないよ…」

「何で、言い切れるの…?」

「だって、拓斗くんは大切な…」

 何だろう…。

 幼馴染みではあるけれども、それとはまた別の、何か…。

 上手く当てはまる言葉が見つからない…。

「大切な…?」

 聞き返してくる拓斗くんに、

「大切な…何だろうね…」

 素直に答えたら、

「こなつ、焦ることないよ」

 拓斗くんは離れて、

「答えが見つかったら、教えてよ…」

 じゃあな。と言って、去って行った…。

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