5. 束の間の休息。

 久々に、テレビを見た…。

拓斗たくとくん、だ…」

 キラキラな拓斗くんがいた。

 いや、それを見るためにテレビを付けたんじゃないっ

『拓斗と付き合ってるって、本当?』

 弟・ハルから謎のメールが届いたので、たまにはハルでも見ようかと思い、テレビを付けたのだった…。

『付き合ってない』

 もしかして、もしかしなくても、今日は一緒の生番組に出てるって事か…?

「しかし、キラキラだな…」

 歌い踊るタクトを見ながら、学校での凡人オーラ満載の拓斗くんと同一人物ではない感覚に陥る。

 あ、電話かかってきた…。

「はい…」

『本当に、本当…?』

「本当に、本当だって…」

 呆れながら言う私に、

『よかった…』

 安堵してハルは、

『拓斗だけじゃなくて…』

 遠くからハルを呼ぶ声が聞こえたので、

「じゃあ、切るよ…」

 プチッと切った。

 彼も仕事中だから、くだらないことで長話をしてはいけない…。

 幼い頃から芸能活動をしているハルは事務所の寮に住み、長い間別居しているせいか私が特別な存在になっているようだ…。

 姉、だよ…?

 度を超えたシスコンと思われてしまうのはハルの芸能活動に支障が出ると思うから、それなりに距離を取るようには心がけている…。

『今度、帰る』

 そう一言、メールが届いた。

 帰って来なくて、いいのに…。

 いや、帰って来て欲しくないワケではない…。彼もそれなりに名の知れた芸能人だから帰って来て騒がれて、ゆっくり休めないのはツラいんじゃないかと思い、いつもこちらから赴くのだが…。

『いや、私がそっちに行くよ』

 そう返事をすると、即、返事が…。

『夏休みがないって聞いたから、俺が帰る』

 誰に聞いた…?

『拓斗と二人っきりにさせない』

 うん…?

 毎度お馴染みの謎なメールである。

『担任がいるから、二人っきりにはならないよ』

 そう返事したら、

『でも、行く』

 頑なになったハルは、何が何でも来るんだろうな…。

 長年の家族経験で、何となく悟ってしまった…。

 うーん…。

 思い悩んでいる間に、着信音が鳴った…。

『夏休みの補習日程について』

 あ、中越なかこし先生からだ…。

『毎週水曜に開催。時間は1時間か2時間程度。場所はいつもの教室。

 拓斗とは会わないように時間設定するので前日に時間をお知らせします。以上。   』

 突っ込みどころ満載の文面が…。

「何で…」

 拓斗くんと会わないようにって…。

 私情?

 いや、中越先生に限ってそんなことはない筈…。

『了解です』

 とは返信したものの、

「変なの…」

 まさかとは思うけど…。

 聞き覚えのある声が聞こえたのでテレビに目を向けると、

「明日から夏休みだからって、ハメ外しちゃダメだよ…」

 歌の合間に、ちょっと意味深な台詞が入っていた気がするのだが…。

「おい…」

 思わず、テレビに突っ込んでしまったじゃないかっ

 口パクで『おねえさん』と言った弟よ…。あんたはそうやって世のお姉さん方々を魅了するのか…。

 個人的な事を公共の場で大衆に伝えるすべをいつの頃からか掴んだようである。そんな成長を喜んでいいものかどうなのか…。

「はぁ…」

 とりあえず、深い溜め息が出た。

「よし…」

 ハルに、ちゃんと言わなきゃ。

『明日、暇だから行きます』

 明日から、夏休み。

 仕方ない…。会いに行こう…。

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