お笑いとコメディの狭間のサジェスチョン

月乃兎姫

第1話

 『お笑い』と『コメディ』と一口に言っても、実はその性質から以てして異なっている。特にお笑いはその場その場の瞬発性を求むるものであり、コメディとは小さな積み重ねで見ている側を楽しませるものだと私は思っている。


 ラノベにおいて、この隔たりは無意識下で行われており、ジャンルとしてもコメディと称されていてもお笑いとは提言されているものはほとんどないと言える。これは主たるものが文字という制約があるからだ。


 漫画などを始めとした絵が主たるものであれば、容易にも笑いは生み出すことができる。時に登場人物達に変な顔をさせたり、時にありえないような絵を用いて生み出すのだ。

 しかし、小説やラノベにおいては見ている側に読む速度や解釈を委ねるため、どうしても認識というカテゴライズを経てなお、反応という点でワンテンポ遅れてしまう。だからこそ小さなネタの積み重ねや言葉の間違い、前後の文を用いたノリツッコミなどで笑いへと昇華させる。……が、どれもこれもあらかじめ決められた既定路線というものを拭い去ることはできない。


 言葉は正しく文字は正しくという制約の下、仮に登場人物たちが言葉を噛んでしまったり文字を間違えるというのは、作者の意図を持ったものでしか生み出せない。この過程においていえば、コメディとでしか成り立たないのだ。


 テレビやネット動画で人気の芸人などとは違い、言葉のイントネーションすらも表現に乏しいため、お笑いというものは文字の上では成立しないのだろう。


 もしあるとすれば笑っているのではなく、笑われているのであろう――。

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