歯車と剣

「あ、あれが……!!」


 ヨルコパは柱の後ろに隠れながら、俺の手に現れた歯車を見て驚きの声を上げた。


 巨大なエレメントは、昨日のものと同様に、ゴボゴボと音を立てながら城を破壊し、兵士達をなぎ倒す。兵士達も応戦するが、やはりまったく通用しなかった。


「うわぁぁ!」

「キャァァッ!」


 訓練場はパニックに包まれている。エレメントは顔と見られる部分から、大木の丸太ような突起物が俺に向かって飛び出してきた。


「危ないっ!!逃げろっ!!」


 リエンディが叫ぶ。


「ふんんぐっ!!」


 だが、俺はそれを全身で受け止めた。水とは思えないドッと重い音を立て、1メートルほど地面に引きずる足跡を作る。その様子をリエンディは信じられない顔で見ていた。


「なっ…!?」

(さっきは私の蹴りで悶絶してたのに、あれを真正面から受け止めた…!?)


「…お、恐らくですが、どうやら彼の力は、"エレメントにのみ"呼び起こされるものでないかと思われます……!」


 ヨルコパがこれまでの過程からそう仮説を立てた。


「なるほど…そういうことか…!」


 多数の兵士に身を守られている王やリプロザスもその仮説に納得した。


「どぉらあああっ!」


 俺は受け止めた突起を上に弾き飛ばした。そして、右手を前に出し、左手を外回りに手刀を斬るように歯車を何回も回す。右手が激しく紅い光を放ち、手を覆うほどの火花がバチバチと放った。


「じょうっ!はつっ!」


 拳を握り、弾いた水の突起が落ちてきた所にフルスイングでパンチを放った。


「しろぉっ!」


 ズパァアン!!と爆音と共に、突起部分は爆散し、蒸発した。


「す…凄い……!」


 リエンディがあ然として呟いた。


 爆散した部分からボタボタと水が垂れ、ゴボゴボと突起を戻す。叫んだり痛がったりしないのは、生物ではないからか。


「ひいいいっ!」


 エレメントが体を動かすと、触れた城の壁が崩れる。瓦礫の中に、俺を邪険にしていた、あの大臣のニーギア婆さんが挟まっていた。そこに向けてエレメントは触手を伸ばし、鞭のように振り下ろす。俺はすぐさまダッシュし、その勢いのまま、婆さんを飛び越えるようにジャンプしながら触手を右手でガードする。右手に触れた部分はパァンと弾けながら湯気と化した。


「き、貴様……!」

「ちょっと、そこの兵士さん!ここを頼むよ!」


 俺はニーギア婆さんを兵士に託し、勢いそのままにカエル型のエレメント、"カエル"の腹に向かって走り出す。そして、再び右手を握り、殴ろうと振りかぶった。その時ー


「うぐあぁっ!!」


 突然、右腕に激痛が走った。見ると、右手の紅い光と火種が、手首から肘に向けて広がってきている。拳までは何ともなかったのだが、手首から体に向けた先は、焼けるような熱さだ。


「なん…だよ!いきなり!」


 俺はいったん"カエル"から離れた。熱い…!腕が燃えるように痛い!


「ぐうううぅ!!」


 俺は歯車を左手で抑え込むように握る。すると、歯車の回転は止まり、紅い光と火種は収まったが、鋭い痛みは残っている。痛みがあった手首から肘の部分は、火傷のような跡があった。


 くそっ!なんだってんだよ!


「え…?ど、どうしたの!?」


 リエンディが予想外の出来事に驚きながら言う。


「…!…も、もしかしたら……!ちょっと失礼しますよ!」


 ヨルコパが何かに気がついたようだ。近くにいる兵士から剣を奪い取り、俺に向かって滑らせた。


「……な、なんだ?」

「あの!"殴る"のではなく、その"手と剣"で攻撃して下さい!」

「剣で?それだとダメなんじゃ…!?」

「いえ!歯車の力で剣を握って下さい!」


 …なんとなく言わんとしていることは察した。


「…分かったよ!やってみる!!」


 俺は剣を握り、再び歯車を回す。すると、俺の手から火種が伝わり、剣が激しく炎をまとった。


「うわぁっ!なんだコレ!?燃えたぞ!?鉄の剣なのに!」

「やはり…!!"砂時計"の記載通りだ!」


 剣は溶けることなく炎を帯びたままだ。歯車の回転は止まっていた。


「あなたの力は、"武器のためのもの"です!」

「……ああ、なるほどね…!」


 俺は再び"カエル"に向かって走り出し、その胴体部分を炎をまとった剣で袈裟斬りにする。すると、その剣の軌跡と共に、さらに広範囲に炎が円を描き、そしてそれは"カエル"を真っ二つにし、そして爆散、蒸発した。


「…す、凄い…!想像以上だ…!」


 ヨルコパは予想を上回る結果を目の当たりにし、好奇心から来る笑みを隠せなかった。


「な…なんという力だ……」


 王も感嘆の声を上げた。


「ふぅ…倒した、のかな?……あ。」


 俺が持っていた剣は、柄から剣先まで炭になり火の粉を撒き散らしながら粉々に崩れた。そして、歯車はいつの間にか消えていた。


「ありゃ、剣が。」


 右手が空手になってしまい、手をわきわきする。剣に炎をまとわせてから、ほんの十秒も経ってないんじゃないか?


「あなたの力に耐えられなかったのでしょう。恐ろしい威力を持ちますが、その力に耐えうる武器を作る必要がありますね。」


 ヨルコパがなぜだか楽しそうに言った。


「ほれほれ!だから私の言った通りであったであろう!父上!」

「わわわかった!分かった!お前の言う通りだったな!スマンかった!」


 リエンディが喜びながら王を肩を激しく揺さぶっていた。


「…しかしこれで、ついに我が国の砂時計が落ちる時が来たのだな。リプロザスよ…」

「はい。」


 王とリプロザスは、この勝利に歓喜する事はなく、むしろ何らかの覚悟を持った面持ちになっていた。

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