リエンディ
翌日の朝ー
「起きてください!」
「…んん〜」
「そろそろ時間です!起きてください!」
「んん〜…」
「おい!ほら起きろっての!こら!」
「んあ?」
見張りをしていた兵士オブの何度の呼びかけで、俺はようやく目を覚ました。
「あ〜まだ眠い〜〜」
「はぁ……朝食を置いてきますから、食べ終わったら国王に謁見します。」
「え〜〜と……何の話だっけ。」
「まだ寝ぼけてんのか……昨日の件で王とお話になられるのでしょう。」
「昨日?王?…あぁ〜〜」
そこで俺は思い出す。ああそうか。そういえばそうだった。昨日の出来事が本当に起きた事だっていう実感がまだイマイチないや…
食事を終え、俺は謁見の間へと連れられた。
「連れて参りました!」
「御苦労だった。よく眠れたか?」
リプロザスが声をかける。
「おっちゃん!ああ、もうガッツリとね!それにしても……ほぁ〜……!」
思わず感嘆の声を出した。そこは舞踏会でも行われるような広い空間で、壁には旗や美しい装飾がなされた灯りや柱などが列を成している。中央には長く赤い絨毯がしかれ、それを挟むように騎士達が並んでおり、その絨毯の先には、三つの玉座があった。なんとも絵に描いたような、王道ファンタジーな空間だ。
中央の玉座には、まさしく国王という風格の男が座っており、その右隣に后と思われる品と風格のある女性が、そして左隣りには………
「え゛!?」
あのリエンディが長い金髪を美しくまとめ上げ、美しいドレスを着て座っていた。
(あ〜〜、やっぱりそういう感じの子だったのね……)
昨日の様子を見たらそりゃ普通じゃない奴だなとは思ってたけどさ……実はお姫様だったなんて、おとぎ話なくらいベタな展開だ。
俺は玉座からある程度離れた位置に立たされた。隣にはリプロザスもいる。
リプロザスは膝をつき、王に語りかけた。
「王、彼がその人物です」
「ふむ…見た感じは普通の少年だがなあ。」
「まだ信用するのは早計と思われますぞ。」
横槍を入れてきたのは、玉座が並ぶ脇に立っている、昨日の怖い婆さんだ。
「何を言う!私もこの目で見たんだぞ!?」
リエンディが反発する。
「仮にそのような力があるとしてもだ。王に取り入ろうという心根の人間ではならんという事だ。」
(え〜〜〜……)
慎重にしても、この人は俺を悪者にしたいのか?
王がまじまじと少年を見定めるように眺める。
「この者の手が突然紅く燃え出してな!エレメントを一撃で消し飛ばしたのだ!それもパンチでだ!普通ではあるまい!?」
「おぉ…そう聞くと俺って凄いように聞こえる……!」
「ちょっとバカっぽいのもそれっぽいであろう?」
「うんうん。…て、ああ!?あいたっ!」
リプロザスが俺の頭をグッと抑える。俺も膝をつける体制にさせられた。
「ふぅむ…それが本当ならば、ついに"砂時計が落ちる"事となるが…ヨルコパをここへ。」
「はっ!」
(砂時計…?)
やがて学者風の男が現れた。三十代ほどの年齢でやや細身の風体、知性は感じるがややオドオドとして、なんとも頼りない雰囲気の男だった。
「ヨルコパです。お、お呼びでしょうか?」
「昨日伝えた件であるが…」
「あ、あ〜!!彼がそうなんですね!ええと、話によると手から《歯車》が出たとか?」
ぐいっと俺の手を握り、急に活き活きと話し始める。なんだなんだこの人は!?
「え?あ、ああ、ほら、ここんところに変な模様があってさ。そこから透明な歯車が出てきたんだ。」
「それ、今出せます?」
「え!?今!?え〜〜と…こうして……ふんっ!」
拳を前に突き出して力んでみた。
「………?」
だが右手はうんともすんとも言わず何も起きなかった。
「ふんヌっ……!!」
静寂。あ…この流れは空気が変わる……
「……あ、あれ?」
俺は目をつむり、心を静める。
いや、こんな手を出しただけで簡単に出るものではないのかもしれない。集中だ…思い出せ。あの時のように危機迫る状況下、あの怪物を討ち滅ぼさんと身を内側から湧き上がる炎のようや闘争心を…!!
(……そんなのあったっけ?)
やはり何も起こらなかった。
「う〜ん?おっかしいな〜…あの時は勝手に出たんだけどなあ…」
「おいっ!!お前ふざけてるのか!?」
リエンディが怒り出す。
「ふざけてなんかねえよ!俺にも分かんないんだって!」
「ふ〜〜む……もしかしたら、何か条件があるのかもしれませんねえ。」
ヨルコパは頬を人差し指で叩きながら思案していた。
「そうだ!きっと闘いの中でなら集中して出るのではないか!?」
リエンディが立ち上がり息巻いて提案した。
「な…!?リエンディ!?お前まさか…」
「あなたはまた…!ダメですよ!」
王と王妃は焦って止めようとしている。どうやら日常的な嫌な予感がするようだ。
「お前!私と勝負しろ!」
「え…!?」
王と王妃はやはりかと再びため息をつく。
「リエンディよ、勇ましいのは結構だが、こやつはあのエレメントを倒した者だぞ。」
「…やるなら私が相手を致しましょう。」
リプロザスもそんな事を言う。
「え!?え!?ちょっとちょっと!」
「いやっ!勝負すればこいつのボケた力を目を覚ますかもしれん!私が直々に叩き起こしてやる!」
当事者を無視して酷い言われようで勝手に話が進んでいる。
「私がやると言っているのだ!これでも騎士のはしくれ、私が試す!!」
リエンディの目は燃えている。
「はあ…こうなったらもう止められん。昨日の見回りでも勝手に参加しおったからな…リプロザス、面倒を頼む。」
「は…わかりました。」
リエンディは意気揚々と城内にあるという訓練場へと向かう。どうやら俺に選択肢はなさそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます