ウンディーネ王国

 「おぉー!!ホントに城だ!街も人もファンタジーだ!」


 リプロザスの隊列に連れられ、俺はウンディーネと呼ばれる大国に辿り着いた。


 巨大な城門を抜けると、大勢の人間が生活の営みをしている城下町が姿を現す。そして、街の中心である大通りを抜けた先に立派な城が見えていた。


「服装がみんな面白いなあ。お、あんな食べ物見たこと無い!おっちゃん、あれ美味いのかな!?」

「追々街を見て廻るがいいだろう。」


 俺は興味津々でキョロキョロと周りを見る。どれもこれも珍しく新鮮だ。…しかし、何か変な違和感を感じる。…そう、人々の顔を見ていると、どこか活気はなく、街の雰囲気が陰鬱としているのだ。


「でも、なんか…雰囲気が暗いような…?気のせいかな…」

「……」


 リプロザスからの返答は無かった。


 城門を抜け、一行は馬を降り城の中へと入った。


「ただ今帰還致しました。」

「うむ。見回り御苦労だったな、リプロザス。」


 城内エントランスで俺達を迎えたのは、立派な官服を着た、やけに偉そうな年老いた女性だった。


「姫様には何も無かったな?」

「はっ。」

「もう!毎回うるさいぞニーギア!私も一介の騎士なのだ!問題ないっ!」

「イッカイでもニカイでも構いません。それそも貴方はですね…」

「説教はいい!私は着替えてくる!」


 リエンディは起こって城の奥へ出ていってしまった。


「やれやれ……ん?」

「う!?」


 そこで俺の存在に気付いたようだ。俺を睨みつける。

 圧が怖いよ、この婆さん!!


「…その小僧はなんだ?」

「は。道中、エレメントと遭遇する事態がありましたが、彼はそれを独りで撃退しました。」

「な、なんだと!?」

「その時に発した力は、かの伝説に書かれていたものと一致しました。……彼は《先導者》である可能性があるかと。」

「センドーシャ?」


 聞き慣れない単語が出てきた。


「それが本当であれば、国として非常に重要な事態であるが……にわかには信じられんな…どうなのだ?貴様は《先導者》なのか?」

(え!?…ええと、おっちゃん。センドーシャって何?)


 ぼそっとリプロザスに助けを求める。


「…彼こはひはおそらく、こことは異なる世界からやってきたのではないかと思われます。その際、経緯や名前といった記憶を失ったようです。」

「なんだって!?そのような者を信用しろと言うのか?」


 またこの流れかよっ……!


「……ふん。だがリプロザス、貴様が言うのだからデタラメではないのであろう。明日、詳細を聞く。今宵は休め。」

「は、ありがとうございます。」


 そう言ってニーギアと呼ばれた老婆は立ち去った。


「はぁ〜〜ビビった!あの婆さん何者!?」

「ニーギア大臣だ。非常に慎重で厳しい方だが、力のある御仁だ。」

「な、なるほどね……納得。」

「ニーギア大臣が仰ったように、今日はもう休め。明日、お前の事と改めて現在我が国が置かれている状況を説明しよう。オブ、彼を来客用の部屋に案内してくれ。」

「はっ!」


 そして、俺はオブと呼ばれた兵士に来客用の個室に案内された。


「この部屋です。」

「お〜!立派な部屋だ!ベッドがある!」


 装飾は少なく豪華さは無いが、立派な家具で、よく手入れされた清潔感のある部屋だ。


「あれ、これは?」


 ベッドを見ると、服が置いてあった。


「その服に着替えろとの事です。さすがにその恰好では王に謁見できないということで。」

「そりゃそうか。でもボロボロでびしょ濡れになったこの服は嫌だったから嬉しいよ!」

「ちなみに、明日までこの部屋から出ることは出来ません。」

「え?」

「素性が分からず、まだ信用たる人物かどうか確信のないまま夜を自由にはさせられん、とのニーギア大臣からの命令です。」

「ああ…あの人ね…」

「部屋の外には私を含め監視がついておりますので、用を足したい時は申してください。」

「…は〜い……」


 彼はそう言って部屋を出た。


「………!んあ〜〜〜!!」


 俺は溜まったストレスを吐き出すように声を上げながらベッドに飛ぴこんだ。わけも分からず、記憶もなく目が覚めて、状況を理解できないまま次から次へといろいろあったので、疲れがどっと出た。


 脇を見ると、窓から月が見える。外はすっかり夜になっていた。

 横たわったまま、右手を上にかざす。拳には、やはりあのひし形の模様があった。


(…なんで何も思い出せないんだろ……ただ……)


 ても、ある点についてはなぜか確信があった。


(俺はたぶん…死んでいたんじゃないか?原因もそれまでの記憶も無いけど、死んで、ここにいる。それだけは何故か確信があるんだよな……)


 いろいろと思考を巡らせてはみたものの、やはり思い出す気配は無かった。


「もういいや!なるようになるしか!」


 ガバッと布団を被る。それから眠りにつくのはあっという間だったー

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