2人目のセカイ〜弾丸は左腕を繋ぐ〜
二人目
緩やかに意識が目覚め始めた。
うっすら目を開けると、自分の腹部から足がまで見える。どうやら壁にもたれ掛かっている体勢のようだ。
夢を見ているのか現実なのか曖昧だ。思考もろくに働いていない。
視界に赤や緑の人工的な光がチラついている。薄目でぼやけた目だと光が縦や横に残像が伸びているように見えた。
横を見ると、何かがある。
"何か"?……いや、"誰か"か?
赤毛のショートヘア、三十代半ばくらいの女が見える。
……いや、これはガラスに反射している、自分だ。
意識が少しずつ明確になってくる。
「う……」
私は、どこにいるんだ?なぜこんな所で寝ている?
寝ている…いや違う……そもそも私は……死んだはずだ。
……死んだ?私が?今、なぜそう思った?…駄目だ。頭が混乱している。
仮に死んだとして、それ以前の事が思い出せない……自分の事も全てだ。…名前すらも。ただ、"死んでここで目が覚めた"。それだけはなぜか、当然の事実として認識していた。
意識が明確になるにつれ、自身と、自身の置かれている状況を実感し始める。背を預けていた壁から離れ、立ち上がった。まだ体が重い。
「うぅ……」
改めて周囲を見回す。背を預けていた壁も、自分を映していた横の壁も、全てガラスのようなもので出来ている。私は、巨大な六角形のガラスボックスのようなものに閉じ込められているようだった。
「これは…一体何なの?」
天国だの地獄だの、死後の世界など全く信じていない。夢…と思うにはもはや無いと断言できるほど意識は明瞭だ。やはりこれは現実だ。ガラスのような壁に映る自分を見ると、妙なデザインの、スキューバダイビングのようなボディースーツを着ていた。何故か右腕だけが、電子基板のような幾何学模様のラインが描かれ、青く光っている。触ってみるが、特に変わった事は無い。
「…ダメ。何も思い出せないわ……」
ガラスの壁に手を付け、自分の顔を見つめた。すると、大きな違和感に気付く。
「何よ、これは……!?」
私の左眼の瞳に、妙な模様が描かれていた。菱形を十字に切ったような形で、左下の三角形だけが青く色が付いている。コンタクトはしていない。視界に何か見えていることもなく、感覚的にも異物感などは無かった。"瞳自体がそうなっている"という感じだった。
このアパートメントのワンルーム程度の広さの、六角形のガラスボックスには私しかいない。換気の音と、ブーンと低い周波数の不思議な音が聞こえているのみだ。
ガラスの外側を見る。人の気配は無い。無機質の白い床、大人の身長ほどの高さに空間ディスプレイが複数表示されている。何が表示されているのかはさっぱり分からないが、先程ぼんやりと見えた赤や緑などの光はそこからのものだった。…まるで、ここは何らかの研究室で、自分がいるこのボックスは、さしずめ研究用サンプルケースといった表現が合う。
やや離れた所に、同じようなガラスボックスが見えた。中には男がいる。同じ格好をして、先程の私のように壁に寄り掛かって目を閉じていた。
「……ちょっと!!聞こえる!?ねえ!」
ガラス壁を叩きながら、私は大声で話しかけた。しかし、男はピクリともしない。まるで死んでいるかのようだ。
「……!」
逆方向を見ると、こちらにもガラスボックスがある。その隣にも。改めて見回すと、どうやら、この六角形のガラスボックスは円形に並んでいるのが分かった。それぞれに自分と同じような大人の男女が一人ずつ入っていた。
「ねえ!あなた達!ここはどこなの!?」
誰も反応しない。一体どういう事なの……?
私は、ふと何かの気配を感じた。この低い周波数と同じ方向…頭上だ!バッと私は上を見上げた。
「うぅっ!こ、これは……!?」
ボックスの天井には、顔と右腕だけの少女が、眠るようにこちらを向いていた。
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