水の塊
「がはあぁっ!!」
突如現れた《水の塊》が放った攻撃が直撃し、俺は川岸まで吹っ飛んだ。
「なんということだ…!」
リプロザスは為す術もなく眼の前で殺された少年を苦渋の表情で見ていた。
その少年は倒れたまま動かない。《水の塊》はブクブクと音をたてながら、くねくねとその場に留まっていた。リプロザスは右手を上げ、騎士達に号令をかける。
「弓を放て!!」
弓を構えた兵士達から、一斉に矢が放たれ、《水の塊》に命中した。しかし矢は《水の塊》の体内を、ゼリーを突き刺すフォークのようにゆっくりと通り抜け、そのまま川の水面に突き刺さり、波を立てるのみだった。
「だ…ダメです!通用しません!」
「く…!やはりダメか……今はリエンディ様を守らねばならん。撤退するしかないか…!」
「…い…いってぇ…!」
リプロザスが撤退の号令をかけるべく手を上げようとしたその時、俺は打たれた腹部をさすりながら起き上がった。いきなりなんなんだよ…!
「な…!!バカな!?」
「生きているだと!?」
「どういう事だ!?ありえない!」
兵士たちがどよめく。リプロザスも同様に驚愕していた。あの《水の塊》は物理的な攻撃をまさに水を切るかのように通用しないが、逆に"それ"からの攻撃は木をなぎ倒すほどの威力を持っており、生身の人間が受けたらとてもではないが無事ではいられないものだった。
それでもあの少年は生きている。それも多少痛がる程度で無傷だ。当然ながらありえない状況だった。
「…うわ!なんだよあれ、気持ちわる…!!」
俺を攻撃したのはこいつか…?水が生き物みたいにウネウネしてるぞ……こんな異常な物体が存在するわけがない。まるでファンタジーの物語に登場する"モンスター"じゃないか。
「次から次へと……水に落ちたり矢を向けられたり、バケモンに殴られたりと、一体何が起きてるんだよ…ワケわかんねえ。」
俺がまだ生きている事に気がついたのか、その《水の塊》は再びブクブクと、ゆっくりとこっちに向かって動き始めた。
「うわ…!またこっち来るよ!」
俺はまだ起き上がれずにいた。腰で後ずさり、川から距離を取る。水だから川から離れればそれ以上は追ってこないと踏んだが、《水の塊》は川から陸上へ出てもなお移動してきた。どうにも俺を狙ってるようだ。
「くっ!」
リプロザスは剣を手にし、馬で駆け出した。
「リプロザス様!無茶です!」
「放って置くわけにもいくまい!」
しかし、この橋は長く、回り込んで川岸の俺の元へ行くには時間がかかってしまう。おまけに《水の塊》の動きは見た目以上に早いため、俺への次の攻撃には間に合いそうもない。
くそ、早く逃げないとヤバい……!
「この……!こっち来んなって!!」
俺は止まれと促すように右手を前に出した。すると、視界に入った自分の右手の異変に気が付く。
右手の拳(こぶし)の部分に、入れ墨のようなものがあった。ひし形を十字に切ったような模様で、左上の三角形だけが赤で塗りつぶされている。その奇妙な模様が光を放っていた。
な、なんだ…これ……!?
そして、その模様から人差し指に向かって線が描かれ始めた。線は人差し指の爪まで伸び、うっすら赤い光を放っている。
うわ……!なんだ!?
すると、人差し指の第二関節を軸に、指と並行した向きの赤い半透明の《歯車》が現れた。半径3cm程度の大きさで、人差し指を貫いている状態だ。
「なんだこれ…!?は、ハグルマ…?」
この歯車を見た《水の塊》が、たじろぐように動きが鈍るのが見えた。
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