第3話
「では、新しい紙を用意しておりますので、手にとってご確認くださいませ」
「ねえ、これって一体何なの!?」
ミモザが宙に浮く。その下には、また紙があった。私はミモザを睨み付けながら、紙を手にとった。
「全部で10人の人間。
ヤスオ 男 32歳 漁師 被虐待者??
ミサコ 女 19歳 無職 拒食??
ショウ 男 21歳 清掃業 逮捕歴??
サツキ 女 45歳 医師 DV??
リョウタ男 5歳 無職 障害??
アイリ 女 9歳 無職 障害??
ヒサシ 男 49歳 農業 逮捕歴??
タエ 女 37歳 歌手 虚言癖??
マナミ 女 60歳 探偵 酒乱??
リョウコ女 45歳 軍人 PTSD??」
「えっ……」
リストの一番下、リョウコというのはきっと私のことだ。どういうこと!?
それにハテナが一つ開示されていた。しかし……。
「さあ、この中から4人の生存者を選んで投票してください」
「ねえ、待って。これって一体何なの」
「何と言われましても」
「このリョウコってのは私のことでしょ」
「ふふ、気づいていただけたようで嬉しいです。そうです、今回からは皆さん御自分に投票できるようになっています。つまり皆さんは全部で13人いたということです。最初に12人と説明したかもしれませんが、それは嘘でした。騙して済みません」
「何それ……」
「では、自由に考えてお決めください。誰を生かすか、選ぶのはあなたです」
「……こんな悪趣味なゲーム、もう付き合い切れない!」
私はミモザに突進しようとして、しかし足をもつれさせて転倒してしまった。
「おやおや~、大丈夫ですかあ~」
馬鹿にしたような声で言われて、悔しさで喉の奥が痛くなった。
「中村涼子さん、今あなたがやるべきことは私相手に格闘技を試すことではなくて、誰が生き残るべきか考えることなんですよ。それが嫌なら失格にしてもいいですけどね?」
失格が何を意味するのかわからない。相手は相当頭がおかしい。今は従うほうが良さそうだ。私は両手で思い切り床を叩いてから、紙を手にとった。
リストにある10人から誰を生存させるべきか。年の順でいくと、リョウタ5歳、アイリ9歳、ミサコ19歳、ショウ21歳ということになる。前回と同じ選択だ。
しかし……。
ショウには逮捕歴があるという。子供3人と犯罪者を生き残らせると、あとが心配だ。いや、犯罪者という言い方は不適切か。逮捕歴ということは、不起訴や無罪になっているなら犯罪者ではないし、有罪になっていればしかるべき施設で罪を償っているわけだから犯罪者扱いするのは違うだろう。だから……何の問題もない……と考えるべきなのだろうか……。しかし……。
もしも。もしも逮捕歴のあるショウではなくて、別の誰かを選んでみたらどうだろうか。例えばリストの一番下のリョウコとか。リョウコは元軍人だし、生存した4人が新惑星でサバイバルするならば役に立ちそうだ。そう考えて、私はぞっとするぐらい自分が身勝手で、綺麗事をいって自分が助かりたがっているのだと自覚して気分が悪くなった。奥歯をかみしめる。腹が立って仕方がない。
私は紙に四つの丸を付けて、ミモザに提出した。
「ではでは拝見。なるほど。リョウタ5歳、アイリ9歳、ミサコ19歳は前回と同じですね。でも、ヤスオ32歳を選んだのは意外です。どうしてヤスオを選んだのですか」
「それは性別のバランスよ」
「性別ですか」
「女2人、男2人が平等ってもんだろうし、今後のことを考えても都合がいいと思ったの」
「ショウも男ですが、ショウではだめでしたか」
「彼には逮捕歴があるから選ばなかった」
「そういうのって差別なんじゃないですか? 前科のある人を差別するのは間違っているのでは」
「そうね。私は差別主義者なのかもしれない。でも、子供たちを守りたいと思った。綺麗事で命は救えない」
「御自分を選ぶこともできたわけですが、それはしなかったのはなぜでしょう」
「さっきも言ったでしょう。性別のバランスよ。私は女だから、私を入れたら女ばかり3人になってしまう」
わからない。ミモザに答えながら、本当は違うのかもしれないと考えた。本当は自分を入れたかった。だが、それはあまりに醜い行為に思えた。だからヤスオを選んだ。ショウではなくヤスオを。自分が本当に子供たちを心配しているとアピールする道具として! 誰にアピールするというのか。もちろん自分の良心に対してだ。私は私に虚勢を張っている。そんな自分のちっぽけなプライドのために、ショウを犠牲にしてしまった。
――本当は誰が生き残ろうと関係ないのだ。大事なのは自分が生き残れるかどうかってこと。
そんな気持ちを認めたくなくて、生存者を心配するフリをしている。
「集計結果が出ました」
「発表します。農業の村上
ショウが脱落しなかった。ほっとした。安堵する自分に吐き気がした。
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