第2話
何もない白い部屋に一人きりだ。いや、巨大ミモザと二人というのが正確か。
私は手にした紙を再度読む。人名と性別と年齢と職業。だから何なのというリスト。
ここから4人を生かし、残りを殺せという。
どうする?
本当にこんな問題を考えるのか? もちろん考えるフリは必要だろう。しかし、今一番考えるべきなのは、ここから脱出する方法だ。頭のおかしい誘拐犯の遊びに付き合う趣味はない。
そうだ、あの黄色いミモザを蹴って破壊することはできないだろうか?
「脳内をモニターしてますからね。違うことを考えているのがバレてますよお」
「ちゃんと考えてるわよ」
「そうですか? 私を蹴ろうなんて思ってません?」
「……思ってないけど」
この頭に張り付いた卵でそこまでわかるものだろうか。今の世界の技術レベルでそこまで正確に思考が読み取れるなんてあり得ないから、きっと当てずっぽうに……、
「当てずっぽうじゃないですよ。あなたの考えていることはすべてこちらで把握してますし、記録していますよ」
あり得ない。そうだ、違うことを考えてみよう。サメ、レストラン、バザー……
「サメ、レストラン、バザー」
「なっ……!」
まさか。
「そのまさかです。本当にあなたが考えていることは全部わかります。さあ、問題について考えて」
私は眉間を撫でながら、しぶしぶ問題について考えることにした。どういうトリックを使っているのかまだ読めない。今は従うほかないようだ。
「全部で12人の人間。
ヤスオ 男 32歳 漁師 ???
ミサコ 女 19歳 無職 ???
ショウ 男 21歳 清掃業 ???
サツキ 女 45歳 医師 ???
タロウ 男 68歳 画家 ???
マイコ 女 70歳 政治家 ???
リョウタ男 5歳 無職 ???
アイリ 女 9歳 無職 ???
ヒサシ 男 49歳 農業 ???
タエ 女 37歳 歌手 ???
レイジ 男 53歳 劇作家 ???
マナミ 女 60歳 探偵 ???」
12人。この中の誰を生かすのか。何を基準に選別したらいい?
いろいろな考えが頭をよぎる。
命の価値。生きる資格。殺してもいい人間。ヘドが出るような問題。やっぱり犯人はまともじゃない。このミモザ、狂っている。
「私のことはどうでもいいので、問題について考えてください」
返事もせず、私は紙を見つめた。本当に吐き気がするような問題だ。しかし、実際に誰かの生き死にを決めるわけではない。ただの犯罪者のお遊びに付き合うだけなのだ、気楽に考えればいいのではないか。そう考えようとした。
だが……。
もし犯人がこのリストにある12人を拉致していたら?
そして、誰を殺すかを私に決めさせようとしているのだとしたら……?
あのミモザは私の考えを読んでいるはずだが、沈黙を守っている。どういうことだ。やはり思考を読めるというのはハッタリか?
「中村さん、いい加減にしてくださいよ。あと5分あげます。5分以内に答えられないようなら、あなたを失格にします」
失格というのが何を意味するのか知りたくもない。私は慌てて生存者を決めることにした。
年齢の若い順に4人選んで鉛筆で囲った。難しく考えることを放棄した末の選択だった。
「なるほど。中村さんは年齢を選別基準にしたんですね。それはなぜ?」
「若い人が、子供が死ぬのは見たくないから」
私は理由をあとからでっち上げる。
「見たくない? それはどういう意味でしょう」
「そのとおりの意味よ。子供の死っていうのは、それだけで罪なものだから」
「老人が死ぬのは構わないと考えているのですか?」
「そういうわけじゃない。ただ……、うまく説明できないけれど、もう二度と見たくないっていうだけ」
「うーん。もっとちゃんと説明してくれませんか。私が納得できるように」
「そんなこと言われても。これは自然な感情だから説明は難しい。理屈じゃないのよ。子を守ろうとする本能みたいなものなのだと思う」
それきりミモザは黙り込んでしまった。何もすることがなくなった私は室内をのんびりと歩き回ってみせながら、密かに外部への脱出手掛かりはないか探して回ったが徒労に終わった。
ふいに、
「集計結果が出ました」
とミモザから声がした。
「集計って……?」
私の質問など無視して、ミモザは続けた。
「0票だった人を発表します。劇作家の栗本
「失格? それに0票って……。一体どういうこと……?」
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