第十一章:予言と妄言

【メネルドール視点】


 エステルは何やら早朝からこの森の占い師に会いに行くと言っていた。外の物音で目覚めると、宿屋の窓から昨日のエルフと一緒に森の奥へと入っていくエステルの姿が見えた。エステルは占いなんて確証のない娯楽を本気で信じているのだろうか。


 俺は前世で成功に満ち溢れた明るい未来が待っていると、街中の占い師に突然言われたことがある。結果的にいうと俺の前世はバイカル湖の湖底に勝る深い暗闇の中、幕を閉じた。


 未来なんてどうなるかわからない。人生とはこの森の深い朝霧のように辺りが見えない中、手探りで進んでいくようなものだ。しかし俺は運命が決定づけられているものだとは思わない。選択次第で運命はいくらでも変えられるのだと、この世界に来てようやく理解した。


 前世で幸運の機会に恵まれなかったのではなく、俺自身が成功の道を選択していなかったのだ。友人だって作れたし、やりたいことはやろうと思えば何だってできる。それを教えてくれたのは、エステルだ。


 エステルが友人になってくれて、一緒に旅をするにつれて、俺の世界は大きく広がった。自分の目の前に広がる無数の可能性を、自らの手で掴むように教えてくれた。奴がかの占い師になんて言われようが、俺はエステルと明るい未来を分かち合いたい。


 俺はまだ寝ているサキとメイベルを起こさないように、そっと宿の部屋を出た。集落はまだ出店も出ていなくてとても静かだ。朝日が森に差し込み、立ち込める霧が陽光を含んで、森一面をキラキラと光で包み込む。次第に人々が寝床から這い出して、朝の光と空気を身内に取り込み、一日の準備に取り掛かる。こんななんでもない日常が脅かされているだなんて、俺にはとても想像がつかない。

 

 ぼんやりと集落を歩いていると、光り輝く森とは対照的な、雲行きの怪しい面持ちの女性が、井戸の水を汲みに来ていた。あまり面倒ごとには関わりたくないが、俺もエステルと過ごすうちにお人好しが移ったようだ。気がついたら声をかけていた。


「おい、大丈夫か?何か困りごとでもあるのか?」


「え…あぁ、おはようございます。大丈夫…です。」


「とてもそうには見えないのだかな。問題ないなら…」


「いえ…実はその…妹が病気でいつ治るのか心配で…」


「術師には診せたのか?」


「この森の術師は、王都に召集されてしまって不在なのです。薬草も良質なものは献上品として捧げているので、廃棄になるものを与えてはいるのですが、一向に回復の傾向が見られないので心配で…」


「俺の連れに薬草に詳しい奴がいる。あとでそいつに診てもらうといい。」


「メネル様…でしたよね?ありがとうございます。」


「む…俺を知っているのか?」


「この集落に訪れる旅人は少ないですし、エステル様の友人ともなれば、到着される前から皆が知っています。」


「あぁ、例の占い師か…」


「はい。エラノール様は偉大な占い師ですので、この集落のまとめ役のような方なのです。」


「そいつは回復魔法は使えないのか?」


「えぇ、残念ながらこの集落には回復魔法を扱えるものがいないので、病に倒れたときには王都の術師のところまで出向く必要があるのですが、私では妹を術師に診せてあげられるだけのお金を賄うことができなくて…」


「なるほどな…」


 エステルが以前言っていたことの片鱗を、ようやく垣間見たようだ。


「エステルは今その占い師のところに行っている。あとで貴様のところに行くように伝えておく。名前は?」


「ありがとうございます。アイウェンディルと申します。ウェンディルとお呼びください。」


「わかった。」


 ウェンディルの放つ重苦しい空気が、少しだけ軽くなったような気がした。少し前の俺なら、他人を気遣う余裕なんてこれっぽっちもなかった。他人がどうなろうと関係性を見出せなかったのだ。

 

 しかし、この旅で気が付いたことがある。出会う人のほとんど全てが、エステルの友人なのだ。友達の友達はそれまた友達。困っている人を見て放って置けなくなったのは、完全にエステルのせいだろう。だが、暗い顔から明るい笑顔が咲くのを見ると、偽善者を演じるのも悪くないと思えるようになってきた。胸のあたりがムズムズするあの面映い感覚は、その笑みを目にした時しか味わえない。エステルの真似事のようで少し感に触るが、目の前の一人の女性の力になりたい。それは俺の心から湧き上がる感情だった。


 俺はウェンディルと一旦別れて、宿に戻ることにした。エステルはいつ戻るかわからないので、宿で待つ方が合流が早いだろう。部屋に戻ると、サキとメイベルはまだ寝ていた。俺は身支度を整えながら、エステルの帰りを待つことにした。


ーーーーーーーーーー


【エステル視点】


「それで…王都の民は無事なんですか?」

 

 まずいことになった。よもや占いとはいえこんな結果を提示されるとは思わなかった。


「王都に存在する全ての生命体は絶滅する。これは避け難い運命だ。」


「エラノール様、エステルは何も王都の民まで殲滅しようとは考えていないと思うのですが…」


 同行しているエルフィンは僕の代わりに言いたいことを言ってくれた。


「混乱、迷い、怒り、悲しみ…多くの感情が巻き起こり近い未来はどうなるかわからない。しかし、もう少し先を見ると一切の感情がなくなっている。こんな状態は以前、魔境を見た時以来の反応だ。感情がひとつも見えないなど、生命体が存在しない以外ありえない。もうすぐ王都は草木一本も残らない荒地と化すだろう。」


 茶色のボロいローブに身を包んだ占い師は、ひどく動揺した様子で水晶に手を翳しながら答えた。若いなりをしているけれど、エラノール様はエルフの中でもかなりの長寿のようで、最近のマイブームは終活だそうだ。中性的で見た目が幼いので、性別がどちらかわからない。


 それにしてもエラノール様の占いの方法には興味がある。次元は同時に点在するという理論から仮説を立てると、高次元に存在する感情体を通して、起こりうる感情を先取りして占っているのだろう。未来に起こる感情を現在で感じるなんて相当な高等技術だ。エラノール様がこの集落で一目置かれているのも頷ける。だけど…


「なんとかそれを避ける手立てはありませんか?」


 藁にもすがる思いで僕は尋ねた。エラノール様は再び水晶をじっと眺めて重い口を開いた。


「残念ながら今探した選択肢の中には、民衆が生存する可能性は極めて低い。」


 メネルもたかが占いだと言っていたから、気軽に後押しを求めに来ただけだった。今はむしろ攻めあぐねる内容を提示されて、二の足を踏んでいる自分がいる。


「僕が王政を正そうと、傍観しようと結果は変わらないということか。」


 エラノール様は俯いたあと、何かを思い出すように呟いた。


「運命なんて分からないもの、君が初めてここに来たときは驚いたよ。まさか別の世界からの訪問者なんて、私も予見できなかった。何が起こるかわからないのだから、気を落とすことはない。悪いことが起こりそうなら、避けるような選択肢を模索し続ければいい。最大の幸運はまだそれが現実に起きていないということだ。エステルという名はエルフ語で希望を意味する。輝かしい未来に向かいまっすぐ突き進む君が、民衆の希望となるようにつけた名だ。君なら大丈夫さ。きっとね…」


 エラノール様にいただいたこの名を名乗ると決めた時、大いなる責任も背負うと覚悟した。そしてその時踏み出した一歩が、あと少しで終焉に到達するところまで来ている。どう転ぼうとも自分の心に従って最後を迎えた方が後悔がない。


「僕は行きます。」


「そう言うと思っていました。幸運を。」


 集落から少し離れたエラノール様の屋敷から出て森の中の小道を歩く途中、エルフィンは口には出さないがずっと不安そうだった。


「エルフィン、きっと大丈夫だよ。エラノール様だって占いを外したことがあるんだろう?」


「あの人が外したのは自分の婚期だけ。それ以外は3000年余りの間、全部的中してるのよ。」


「それは…なるほど、わざと外したと言う可能性も考えられると言うことだね…」


「鋭いのね。」


 それ以上は追求しないが、やはりエルフにはエルフなりの事情があるように思えた。集落に戻る頃には、人々が森の恵みを享受し新たな一日が訪れていた。会う人会う人に挨拶を受けては笑顔で返す。この森の、いやこの世界に住まう友人たちみんなの、なんでもない日常や他愛もない幸福を守りたい。彼らの笑顔を見る度に僕の心の奥底に、執念とも言える決意が根付いていく。宿に戻りメネルたちを朝食に誘おうと、メネルの部屋をノックするとメス豚が静かに扉を開けた。


ーーーーーーーーーーー


【メネルドール視点】


 二度寝から目を覚ますと、エステルとメイベルが部屋の入り口に立っていた。起きあがろうとすると全身に重みを感じて起き上がれない。目をやるとサキが俺の上で眠っている。エステルはいつものように笑いを堪えて見ているだろうと、ため息混じりに入口を見てみると、この日ばかりは天使に笑顔はなかった。何やら思い詰めているようだ。


「すまん、少し寝過ぎたな。どうしたのだ浮かない顔をして?」


 一呼吸間を置いた後に、エステルは答えた。


「いや、大丈夫。とりあえず朝食を済ませようと誘いに来たんだ。」


「そうか。例の占いとやらは気にする必要はないからな。誰がなんと言おうと俺たちは目標を達成する。いいな?」


「うん…そうだね…」


 エステルの様子からして、俺たちが失敗するという予言をされたのとは違った、もう少し複雑な結果を示唆された様子だった。


「なんだ?気になることがあるのなら、事前に言っておいてもらわないと戦術にも響くと思うのだが?」


「確かにそうだね。メネル、朝食を食べながらでもエラノール様に言われたことを全部伝えておくよ。」


「そうだな、それと後でウェンディルのところへ行ってやってくれ。」


「ウェンディルがどうかしたの?」


「お前の力が必要なのだ。」


「…よくわからないけど、ここを出る前にみんなに挨拶に回ろうと思っていたから構わないよ。」


 俺たちは少し早足で宿を出て、集落の中心にあるショボい食事処の席に着いた。ここでもグワイの森と大して変わらない、お決まりの野菜だらけのコースが振る舞われるのだ。食事が出てくるまで退屈だったので、エステルに占いの件について催促すると、エステルは言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。


「そうか、俺は最初にお前に王都陥落の話を聞いた時は、民衆も含めて殲滅するのかと思っていたが、どうあっても滅びるとなると若干話は変わってくるな。」


「そう、僕たちが何もしなくても滅びてしまう可能性があるということは、王の謀略なのかもしくは第三勢力の存在も否定できない。」


「よほどの緊急事態だったとしても、民衆全員を巻き込むような戦い方は俺としても寝覚がわるい。俺たちが滅ぼすという線はないんじゃないか?」


「その可能性は確かに低いけど、僕たちが王に関わることが原因になることもあるかもしれない。いずれにせよ民衆の命を守りつつ、被害を最小限に抑える手を考えている。」


「相手は容赦なくこちらの命を狙ってくる状況でそれは難しいだろうな。」


「なんとか相手を傷つけないように無力化できないものかな…」


「エステル、お前も最初から戦争になりかねない計画だと覚悟の上で、俺を誘ったのだろう?」


「あぁ、だけどできる限りのことはしたいんだ。王都軍や聖騎士たちだって、王の命令で動かされているだけなのだから。」


「全く、ヒーローにでもなった気分だな。人助けなんて柄じゃないんだが。」


「何を言ってるんだい、ウェンディルのところに僕を行かせるのは彼女のためなんだろう?君はいつも誰かの助けになっているんだよ。」


「メネル様優しい〜。」


 唐突にサキが会話に横槍を入れる。


「か…勘違いしないでよねっ!別に助けようと思ってやってるんじゃないんだからねっ!」


「見ず知らずの僕をお城でもてなして、その上こんなところまでついて来てくれているじゃないか。君は相当なお人好しだと思うけど。」


 確かに今思うとこんなところまで出向く義理はなかった。ただ楽しそうだからついてきたのだ。まぁ、それがエステルの…友の助けになっているのであれば、それでいいか。俺はドレッシングだけは一丁前に美味いサラダを、黙って平らげた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


【エステル視点】


 食事を済ませた後、僕たちはウェンディルの家に向かった。サキにはメス豚と一緒に宿で待っているように伝えると、おやつの献上を条件に引き上げてくれた。メネルから詳しい話を聞くところによると、ウェンディルの妹であるリエルの体調が優れないらしい。リエルはとても活発な少女で、以前ここにきた時も毎日のように朝から晩まで外を駆け回っていた。それがここにきてから2日も姿を見せないのは、確かに奇妙だ。


 静かな森の集落に流れる川沿いを上流に向かった、大木の下の小さな家がウェンディルとリエルの住む家。両親は商人で長いこと各地を旅しながら商売を営んでいるそうで、僕も会ったことはない。ウェンディルはまだ年端も行かないリエルのお母さん役で、家の家事は全てウェンディルがこなしている。以前会ったときには、僕も洗濯の手伝いをした。家につきドアをノックすると、少しやつれたようにも見えるウェンディルが姿を表した。


「本当に来てくれたのね、入って。」


 ウェンディルの声は疲れ切っていた。


「久しぶりだねウェンディル、挨拶に来れなくてごめんね。」


「いいのよ、私こそ会いに行ってあげられなくてごめん。」


「メネルから聞いたよ。リエル、元気ないみたいだね。」


「えぇ、ここ数週間ずっとお腹が痛いって。薬草を与えているんだけど一向に回復の傾向が見られなくて困っていたの。今は2階で寝ているわ。」


「そうだったのか。君もリエルのためによく頑張ったね。よかったらこれ使って。」


 僕はフーリンから分けてもらった強壮剤をウェンディルに手渡した。


「おい、エステルそれって…」


「適正に薄めてあるから、君の期待するような効果はないよ。」


 なんでメネルは少し残念そうな顔をしているのだろう。


「ありがとう、頂くわ。待っててね、今お茶を淹れるから。」


「あぁ、お構いなく。僕はリエルを診てくるよ。」


「エステルはいつから回復術師になったのだ?」


「非公式だけどね、僕もそれなりに勉強してきたつもりだよ。」


 僕は2階に上がってリエルの部屋の扉を静かに叩いた。


「リエル、入るよ。」


 リエルはまだ寝ているようだった。顔色が悪く、冷や汗をかいている。長いこと床に臥していたからか、以前見た時よりも少し痩せていた。ベッドの隣の椅子に腰掛けると、すぐ近くには萎びた薬草とボロボロの布切れが置いてあった。ウェンディルがつきっきりで看病している姿が目に浮かぶようだ。


「リエルは大丈夫なの…?」


 ウェンディルの声は消え入るようで、少し掠れている。レベルメーターでリエルを見てみると、どうやらお腹の中心点のエネルギーが極端に弱っているようだ。


「ウェンディル、リエルの最近の症状を教えてくれるかい?」


「最近は食欲がなくなるほどの腹痛を訴えていて、ほとんど食事を口にしないの。いつも苦しそうで睡眠もあまり取れていないみたい。」


 ウェンディルは今にも泣き出しそうだ。


「ここにある薬草を与えていたんだね?」


「えぇ、その薬草を煎じて飲ませているのだけれど、全然効果がないみたいで。」


「なるほど。生成されていない回復薬の効果には偏りがあるから、それがうまく適合していないみたいだね。煎じただけのこの薬草は、基本的には木属性のエネルギーを帯びているんだよ。臓器はそれぞれ5大魔法に対応するエネルギーを帯びていて、リエルの症状の原因はおそらく胃の辺りからきている。胃のエネルギーは地属性にあたるんだけど、地属性は基本的に木属性と相性が悪いんだ。」


「なんだまた難しい話をしているのか?」


 メネルがお茶を片手に部屋に入ってきた。


「うん、リエルはおそらく胃がかなり弱っているから、直接的に地属性のエネルギーの補充が必要なのと、それを補助する火属性のエネルギーを帯びた回復薬を調合する必要がある。メネル、悪いんだけど煉獄草を仕入れてきてくれないか?アラニオンの1番大きな薬草屋には置いてあるはずだから。」


「仕方がないな。あと必要なものはあるか?」


 メネルは思いの外、素直に従ってくれる。


「そうだね、南の砂漠にある光白砂があると回復が早いかもしれない。」


「おい、南の砂漠なんて行ったことがないぞ。」


「砂漠の手前にある海沿いの街では、特産品として店に置いているらしいんだ。フーリンからもらった調合素材リストに書いてある。メネルは以前、サキと一緒に南の海に行ったことがあるんだろう?」


「確かに南の海に転移の術式を敷いてあるが、そっちは少し時間がかかるぞ。」


「うん、とりあえずできることを進めておくから、煉獄草が手に入ったら一回戻ってきてくれるかい?」


「承知した。」


 メネルはすぐに転移の魔法で煉獄草を仕入れに行ってくれた。


「親切なのね。」


 ウェンディルはお茶を淹れてくれた。


「うん、大切な友人なんだ。」


 僕はお茶を一口いただいて、作業に取り掛かった。亜空間から調合キットを取り出し、乾燥荒野草をすり潰してハイポーションと混ぜる。魔道具にセットして回復の噴霧を浴びられるようにする。その間に綺麗な布を取り出し、ハイポーションに浸して粘着草の枝で混ぜる。


「待たせたな。」


 メネルは煉獄草を持って帰ってきた。


「ずいぶん早かったね!税関は大丈夫だったの?」


「逃げてきた。」


 後で面倒なことになるだろうに、メネルは妙にやる気だ。しかし早いに越したことはない。


「ありがとう、引き続き頼むよ。」


 メネルは頷くとすぐに転移の魔法で飛んでいった。煉獄草をすり潰した粉末を布にかけて絞り、リエルの腹部にあてた。


「それは…なに?見たことがないわ。」


「簡易的な湿布だよ。経皮からの吸収は遅いから劇的な回復は見込めないけど、薬を調合している間にも、この2つで回復が見込めるはずだよ。ウェンディル、蜂蜜はあるかい?」


「あるわよ。ちょっと待っててね。」


 ウェンディルは下の階の台所にはちみつを取りにいった。その時、リエルが目を覚ました。


「エス…テル…?」


 リエルは意識が朦朧としているようだ。


「リエル、もう少しの辛抱だからね。」


「本当にエステル…?なんでここに…?」


「君を助けにきたんだよ。今はゆっくりしていてね。」


 僕がリエルの手を握ると、リエルは笑顔を見せて、再び眠りについた。眠気というよりも、疲れて起きていられないと言った様子だ。僕が回復薬をできるところまで調合してしばらく待っていると、メネルが帰ってきた。


「驚いた。もう帰ってきたのかい?」


「本当にこんなもので効くのだろうな?水よりも安かったぞ?」


「うん、助かったよメネル。ありがとう。」


 僕はメネルから光白砂を受け取り調合を続ける。少ししてウェンディルが蜂蜜を持ってきてくれた。


「ありがとうウェンディル、これでリエルでも飲みやすい回復薬ができるよ。」


 僕は調合を終えて、フーリンから教わった回復の効果を高める魔法をかけた。


「これでよし。ウェンディル、リエルが起きたらこれを飲ませてくれるかい?」


「えぇ、わかったわ。」


「メネル、出発は明日の夜でもいいかな?リエルの経過を見てからにしたいんだけど。」


「好きにするがいい。」


 今日のメネルは大活躍だった。僕たちはひとまず宿に引き上げて準備を進めた。翌日の深夜にここを出発して明け方に王都に入り込む。足りないものを調達するために、集落の出店まで出向いて各々買い出しをする。


 買い出しを終え食事処の席に着く頃には、コースが出てくる前からメネルの前にたくさんの料理が置かれていた。メネルはここの食事に飽き飽きしているようで、ちゃっかりアラニオンで食料も仕入れてきたようだ。


 サキがメネルの食料を横からちょくちょくくすねているのを眺めながら、僕たちは談笑を重ねた。唐突にエラノール様の言葉を思い出す。王都に住まう民衆たちに想いを馳せながら、僕らは宿へと戻った。

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