第十章:森の守護者
【メネルドール視点】
静かな森の朝、柔らかに射す木漏れ日、小鳥たちの鳴き声、そして断末魔のようなフーリンの叫び声で目が覚めた。木の上から下を見下ろすと、フーリンがウネウネした物体にまとわりつかれている。
「蟲っ!ムシぃぃぃいいぃぃい!」
フーリンは半狂乱だ。
「昨日虫除け焚いてたではないか。どうしてあんなに…あ…」
よく見るとフーリンに引っ付いている黒い生物は、海からやってきたモノのようだ。森の中とはいえ海が近いから這い上がってきたのだろう。道理で虫除けが効かないわけだ。
「フーリン、それは両性ナマコだよ。蟲じゃないから大丈夫っ!」
煌びやかな朝日に照らされて映える天使は、爽快な笑顔を見せているが、その瞳には奇特な見せ物を娯しむ下衆の本性が見て取れる。フーリンは言葉にならない奇声を発しながら、両性ナマコを引き剥がそうとするが、無理に取ろうとすると白濁色の内臓が飛び出てくる。あれは見ていてとても気色が悪い。おえ…。
「フーリン!海に飛び込めっ!」
俺が見かねてヌルヌルになったフーリンに、海で洗ってくるように促すと、エステルは物足りなそうな顔をした。どうやらこれが簡単に引き剥がす答えだったようだ。フーリンは脱兎の如く海へと駆け出した。ボチャンと勢いのある水の音が森に響いたちょうどその時、森からエステルの笑い声が反響した。エステルがこんなに笑っているのは聞いたことがない。ふと目をやると、両性ナマコの内臓で全身真っ白になったメイベルとサキが森で立ち尽くしていた。メイベルに至ってはいつもの恍惚とした表情が見えないくらい、頭からどっぷりと内臓をかぶっている。一体何匹のナマコが引っ付いていたのだろう。
二人が海で体液を洗いに行っている間、フーリンがこの世の不幸を寄せ集められたような顔をして戻ってきた。
「フーリン、もうすぐ朝食の準備ができ…るよ…w」エステルは笑いを抑えられていない。
「私…食欲ない…。」
でしょうね。エステルはフーリンが戻る前に、先程のナマコをフライにして提供しようとしていたが、それが食卓に並ぼうものなら、一生口を聞いてもらえなかっただろう。俺がアラニオンで調達してきたベーコンと卵をエステルに渡すと、エステルは青い炎を出して調理し始めた。
「なんだその魔法…そんな魔法使えたのか?」
「あぁ、これはビビアラからもらった装備の能力で、詠唱なしで龍人族の炎が使えるんだよ。当然魔力消費もない。」
なんとも便利な装備だが、ビビアラもまさかこの装備が料理に使われてるとは思うまい。メイベルとサキが戻ってくる頃には朝食が出来上がっていた。パンも添えた軽めの朝食を済ませて、ようやく俺たちは森の奥へと進軍した。メイベルは先程のヌルヌルプレイを気に入ったのか、1匹両性ナマコを持ち歩いている。当然フーリンはかなり離れて歩いている。
「それにしてもサキ、なんでお前はそんな格好をしているのだ?」
アラニオンを出る時からサキの装備がいつの間にか変わっている。
「エステルが好きな人を落としたければ、小細工よりも本能に訴えかけたほうが早いってアドバイスしてくれたの。」
悪魔の囁きに耳を傾けてしまったというわけか。見たところ防御力は申し分ないが、昨日海で着ていた水着よりも際どい装備で、破廉恥な攻撃力だけは増している。サキュバスらしいといえばそうなのだが、目のやりどころに困る。それにサキの好きな人は俺という設定をしたのが、こんな形で黒歴史を晒し続けることになるとは。これほどおいしいネタを握ったエステルは、来世まで俺を弄り続けるだろうな。ジーザス。
俺たちは目的地としていた東の森ではなく、南に向かっていた。昨晩エステルと話し合って、北の森から一度グワイの森までフーリンを送り届けることにったのだ。海上で襲ってきたゾーイのように、いつ残忍な輩が現れてもおかしくはない。面倒臭がりな俺にこんな遠回りをさせるなんて甚だ遺憾だが、この鬱憤は帰ってからゾーイに八つ当たりすることにしよう。
森は奥に進むにつれてだんだん空気が濃くなっていく。適度に光がさしていて、お散歩にはちょうど良い森林浴だ。ただ歩いているのは退屈だが、フーリンが飛んでくる虫にいちいち驚く姿を見ているのは、なんだかコミカルで楽しい。昼ごろになってようやく目的のグワイの森まで近づいた。フーリンは故郷に近づくにつれて次第に元気を取り戻していくようにも見えた。
グワイの森には初めてくる。どうやら森の精霊やドリアード、エルフが形成する集落があるらしい。どんな森かと想像を膨らませて歩いていると、突然エステルが止まるようにハンドサインを出した。
「どうした?」
「肉眼では見えないけど、レベルメーターに映る影が複数ある。」
「あぁ、精霊さんたちのことじゃない?私たちドリアードには見えるけど、普通の人には見えないのよ。」
確かによくよく目を凝らすと、薄いオーブのようなものがぼんやり見えなくはないような気もするが…やっぱり見えない。エステルにははっきり見えているようで、しっかり目で追っている。
「警戒しなくても大丈夫よ。危害を加えたりしないから。彼らは見守るだけ。」
フーリンは懐かしい旧友との再会を楽しむように、俺には何も見えない空間を眺めていた。グワイの森の集落について、ようやく宿に落ち着いた時、どっと疲れが襲ってきた。
フーリンとエステルは買い出しに向かった。俺はゆっくり寝かせてもらうことにしよう。ベッドにメイベルがいないことを確認して、俺はしばしの眠りについた。
ーーーーーーーーー
【エステル視点】
グワイの森の出店には、面白い植物がたくさん置いてある。文献でもお目にかかったことのないような珍しい品種の植物を、フーリンが丁寧に教えてくれた。僕は薬草の品種改良のために、いくつかサンプルを買っていくことにした。
「フーリン、僕は宿に戻るけど、君は家に帰るのかい?」
「うん、あとちょっと寄るところがあるんだけど、エステルも一緒に行く?」
フーリンは森の守護者に会いに行くというので、興味が湧いた僕はついていくことにした。集落の外れから細い道が一本通っていて、その道を精霊たちが点々と照らしている。肉眼では足元に僅かにクリスタルが散らばっているが、松明なしには歩けないだろう。
精霊の明かりを頼りに森を奥まで進んでいくと、とても大きな大樹が聳えていた。大樹は青白く光り輝き、その周りを数え切れないほどの精霊たちが飛び回っている。まるで奇を衒ったクリスマスツリーのようだ。
「綺麗だね。」
「えぇ、これがこの森の守護者。何千年も昔からこの森を見守っているの。私たちドリアードはこの森に生かされている。ここに住むものは皆この大樹に敬意を払うの。」
「だから挨拶に来たんだね。」
フーリンは大樹に手をかざして祈りを捧げ始めた。僕はそれを静かに見届けることにした。それからフーリンは来た道とは反対方向の、道無き道を進み始めた。歩みを止めたその先には、雷にでも打たれたのだろうか、真っ二つに折れている樹があった。
「これが私のお母さん。ドリアードは木に宿る精霊の化身、お母さんが亡くなったときにこの樹も砕けたの。」
何があったのかは詳しく聞かないが、目の前の樹の惨状を見るに、壮絶な死を遂げたのだろう。フーリンは涙を滲ませ、首飾りを握りしめていた。
しばらく一人になりたいというので、僕は森の守護者たる大樹のところに戻ってきた。レベルメーターには驚くほど多くのエネルギーの層が映し出されている。年輪のように何色ものエネルギーが重なり合い、森に放散されている。手をかざすと、どっしりとした静かなエネルギーが身内に流れ込むのを感じられる。この大樹はこの森だけでなく、世界ひいては宇宙と繋がっているような、そんな感覚にすらなる。
僕が大樹のエネルギーを感じていると、フーリンが森の奥から戻ってきた。僕たちは森林浴の余韻に浸りながら、ゆっくりと集落へ戻り、宿の前で別れた。
僕が宿の自室に戻ると、メス豚が床で眠っていた。部屋で休んでいると言っていたメネルに、夕食の誘いに部屋を訪ねると、メネルはサキと一緒にベッドで寝ていた。僕がこっそり部屋から出て行こうとすると、メネルが目を覚ました。
「あ、起こしちゃった?お取り込み中だったみたいで申し訳ない。夕食に誘おうと思ったんだけど…」
「む…メシか…すぐ行…!?なんでサキが俺の隣で寝ているのだっ!?」
どうやらサキはメネルが寝ている間に夜這いをかけようとしていたらしい。そのまま寝てしまうとはサキらしいが。
「お前かっ!?お前の仕業かエステルっ?!」
「いや、僕じゃないよw」
最近サキがやたら積極的になっていて面白い。
「とにかく、僕は部屋で待ってるから、事が済んだら呼びに来てね。」
「な…何もしないしっ!」
メネルは嫁ができてもこういう攻めには弱いらしい。僕は自室に戻り、購入してきた植物の種子についてきた、育成マニュアルのメモを読みながらメネルを待つことにした。
ーーーーーーーーー
【メネルドール視点】
このところサキの様子がおかしい。勝手にメイベルの影に入ってついてきた時も驚いたが、距離感がやたらと…近い。先程はベッドに潜り込んできたし、歩く距離も…んんんんん近いっ!!!
「サキ、少し離れてくれないか…歩きづらくて仕方ない。」
「…私じゃ…ダメなの…?」
サキは寂しそうな顔で、腕に抱きついてくる。
「何がっ?!」
俺が聞くとサキは離れて、メイベルの手をとり歩くようになった。メイベルは何故か誇らしげにニヤつきながら、フンフンと鼻息を荒げている。
「あ〜あメネル、サキが可哀想だよ。」
エステルはいつも俺を悪者に仕立てようとするな。
「なぜだ?!俺は何もしていないではないかっ!」
「何もしないからでしょう。」
またあれか、うやむやな態度が女性を傷つけるというやつか。過去にモテる男は辛いと宣う奴らを撲滅してやろうと思っていたが、常にこのような意味のわからない責苦を負うようなことを言っていたなら、なるほどそれも頷ける。
「今はそんなことを言っている場合ではないだろう、王都はもう目前なのだぞ。」
「確かに、そろそろ本格的に計画を練らないとね。」
エステルは急に真剣な顔になった。
グワイの森の集落の数少ない食事処に腰を落ち着けると、頼んでいないのに木の実のサラダが出てきた。その後も頼んでいない野菜の盛り合わせが絶え間なく運ばれてくる。
「え…頼んでないけど…」
「ここにはこのメニューしかないからコースは全部決まってるのよ。」
フーリンは黙々と野菜を頬張る。龍人族の国でもそうだったが、なんでこうも食事に偏りがあるのか。草食動物でもあるまいし、葉っぱ以外の物も口にしないと倒れてしまう。俺が亜空間から時間停止しておいたアラニオンミートポテトを取り出し食べ始めると、マナー違反だとフーリンに咎められた。知ったことか。
「フーリン、お前はこれからどうするのだ?目的は果たしたのだろう?アイスロック山脈に戻るのか?」
「そうね、王都までついて行こうとも考えたのだけれど、どう考えても私は足手まといよね。」
「そんなことはないよ、色々と勉強になってるし。」
エステルはすかさずフォローを入れる。
「エステルから計画を聞いたときには驚いたわ。そんなことできるわけないって。でもあなたたちと旅をして本気なんだってわかった。王政の改革については賛成よ。彼らは森を侵略し過ぎている。薬草の独占についても賛同できないわ。」
フーリンは考え込むように視線を落とした。というかエステルはいつの間に計画を話したのだ。
「だからこそ、戦力にならない私は、他の協力の仕方があると思うの。」
フーリンは翡翠色に輝く腕輪を取り出した。
「これは私が作った最高の回復アイテムよ。身につけている間は微量だけど常に回復し続ける。」
メイベルの心臓にくくりつけてあるアイテムと同じようなものか。自分で作ったというのは驚きだな。
「これをあなたにあげるわメネル。」
「いいのか?大切なものなんじゃないのか?」
「私だと思って身につけていて。私は戦場には行けないけど、王政が破綻した後の薬草の供給の整備を進めておこうと思うの。そのほうが適材適所だと思わない?」
「それもそうだね、フーリンには回復薬の製造と薬草の育成をお願いしようか。」エステルはコースの最後に出てきた、ものすごく苦いお茶を美味しそうに飲みながら応えた。戦力は多いに越したことはないが、王都陥落後のスムーズなライフライン復旧のことも考えておかないと、確かに民衆は混乱するだろうな。
「わかった、計画達成後のことはフーリンに任せよう。」
食事を済ませた後、集落を歩いて宿に帰る間、回想にふける。色々あったが、王都はもう目と鼻の先、俺たちの旅の終わりも近い。宿に着くとメイベルはエステルが作った新しい薬品の毒見役を買って出たらしく、エステルの部屋へと入っていった。ロビーには俺とサキが残された。
「サキ、一緒に寝るか?」
サキは今まで見せたことのないほどの満面の笑みで返事を返し、抱きついてきた。明日の出発は早いから、今夜は早く寝付けるといいのだが…。
ーーーーーーーーーーーーーー
【エステル視点】
朝、準備を済ませて宿を出ると、フーリンが見送りに来てくれていた。両手に持ちきれないほどのハイポーションを餞別に持ってきてくれたのだ。
「ありがとうフーリン、元気でね。」
「こちらこそ海で助けてくれてありがとう。帰りにここによってよね。」
「うん、約束するよ。」
僕たちが話していると、ようやくメネルがサキと一緒に宿から出てきた。サキは何かいい事があったようでとても機嫌がいい。メネルはやたらと疲れている様子だ。
「メネル、眠れなかったの?」
「うるさい…」
メネルは虫の居所が悪いようだ。大方サキに寝かせてもらえなかったのだろう。
「メネル、気をつけてね。」
フーリンは名残惜しそうにメネルの手を取った。
「あぁ…、後のことは頼んだぞ。」
メネルは目を合わせないが、言葉には確かな信頼を乗せてた。フーリンは集落の外れまで同行して、僕たちの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
木漏れ日の間を縫うように森を進み、東の森を目指す。東の森のその先に位置する小高い山を越えたら、王都が眼前に現れる。東の森にはエルフが小さな集落を形成している。そこが王都に向かう前の最後のオアシスとなる。王都に近づくにつれて、口に出さずとも各々緊張感が増して来ているのが伝わってくる。メス豚は次第に呼吸を荒げ、メネルはソワソワとあたりを見回し、サキは今までになく大人しい。僕の頭の中では薬草の調合レシピと、王をどのように料理するかで思考が渦巻いている。
なるべく王都の手が及んでいないルートを選んできたので、王の謀略による惨状を目にしてこなかったのは、幸いかもしれない。僕は正気を保っていられる気がしない。それに困っている人々を助けながら王都を目指していたのでは、何年経ってもたどり着けなかっただろう。今も苦しむ人々をおいて王都に向かうのは、少し心苦しくもあるが、原因を根絶やしにしない限り、この惨劇は終わらない。僕はフーリンに教えてもらった、薬草や回復薬の効能を向上させる魔法を、手持ちのエリクサーに何重にもかけながら歩き続けた。
「森森森…木木木…草…草…」
暇を持てましたメネルは独り言を呟き出した。森は木が多い以外は地面に背が低い植物しか生えていないので、比較的歩きやすい。それにしても森に入ってからというもの、人はおろか獣の1匹すら見ていない。不自然なほどに静かだ。何事もないに越したことはないのだが、何事もなさすぎて逆に薄気味悪い。嵐の前の静けさということだろうか。
「エステル、しりとりでもするか。」
「僕はしりとりほど不毛な遊びはないと思っている。もう少し面白い遊びを考えてくれないか?」
「り…り…リザードマンっ!…あ!」
言葉の手札を奪い追い込んでもいないのに、サキが初手で自滅した。
「はい、サキの負けで終わりね。」
正直サキの行動に助けられた。僕は身にならない遊戯は極力避けたい。
「それじゃあサキの罰ゲームでも考えるか。」
「それは非常に興味がある。」
楽しい遊びを考えついてくれた。さすがはメネル。
「何がいいかな、顔に落書き?」
メネルは生ぬるい。やはりサキに気があるのではないか?
「メネルの寝室に1ヶ月監禁。」
「それ俺の罰ゲームじゃないっ!?」
バレた。
「私はそれがいいっ!」
それじゃあ罰ゲームにならないな。
「メイベルはっ?!」
メネルが聞くと、メス豚は服の中から両性ナマコを取り出した。それで決定。
「そうだね、サキには後で両性ナマコフライを食べてもらおう。」
サキはものすごいしかめ面をして見せたが、レシピを考えながらならこの単調な森も退屈しなさそうだ。僕がナマコフライの添え物とソースを考えていると、あっという間に東の森まで来ていた。僕は魔王城に向かう際に一度ここを訪れている。この集落には友達も多い。
「宿屋はどこだ?」
グワイの森から半日も歩いていないのに、メネルは休養を催促する。
「この集落では友人が宿屋を営んでいるから、そこに泊めさせてもらおう。」
僕が先導して中央広場まで進むと、懐かしい声に呼び止められた。
「エステルっ!」
森の光に包まれたグラマラスなエルフが駆け寄ってきた。
「久しぶりだね、エルフィン。」
「本当、久しぶりね!私に会いに戻ってきてくれたの?」
「そうだね、また君の宿にお世話になってもいいかな?」
「もちろん、そちらの方々はお友達?」
「うん、今は一緒に旅をしている。エルフィン、あとで少し話せるかな?」
「えぇ、みんな森を歩いて疲れているでしょう、まずは宿でお茶でも淹れましょうか。」
「助かるよ。」
エルフィンは僕の手を引き宿へとみんなを案内した。メネルは疎ましげな目つきで僕を見ている。すでにたくさんの嫁がいるのに、嫉妬でもしているのだろうか。
僕たちは宿につき、それぞれ個室に割り当てられた。メネル達は部屋でしばらく休むようだ。僕はロビーの裏の談話室で、エルフィンとお茶を嗜みながら積もる話を交わした。今までのこと、そしてこれからのこと。
「えぇぇえ〜、エステルったら私を差し置いて結婚しちゃったの〜?それも龍人族の王女様と〜?」
エルフィンはあからさまに残念そうに肩を落とした。
「やっと帰ってきてくれたから、今夜こそ夜這いに行こうと思っていたのにぃ〜。」
「ごめんねエルフィン、君の想いはとても嬉しいよ。ところで今回ここに訪れた理由は…」
「えぇ、わかってるわ。エラノール様に会いたいのよね。」
「どうしてわかったの?」
「いつもの如く、予言でエステルがここに来ることはわかっていたわ。正確な日時まではわからなかったけどね。」
エラノールは僕にエステルという名前を与えてくれた預言者であり占い師だ。王都に向かう前に、エラノールの占いを聞いておきたい。良いことも悪いことも、できることは全て事前に対策を講じたい。
「明日、夜になったら私と一緒に行きましょう。明日は満月だから。」
「うん、わかった。ありがとうエルフィン。」
「だから今日はゆっくりしてね。なんなら私と一緒に…」
エルフィンが僕の腕をとる。
「だめだよエルフィン。」
「えぇ〜、ちょっと味見するだけでもダメぇ〜?」
「ダメ、諦めてっ。」
「そんな一途なあなただから、私はあなたが好き。」
好意を抱いてくれるのは嬉しいけど、なんだか心苦しい気持ちもある。僕は明日に備えて部屋で休むことにした。夕食時になって、またメネルが野菜だらけのコース料理に文句を言っていた。静かな森の夜更け時、上空をなぞる風が森の葉を撫で、サラサラと優しい旋律を奏でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます