第二章:天使は魔法に御執心

【エステル視点】


 僕が魔王城に滞在を許されてから、2週間は経過しただろうか。僕は魔王と結託し、王都に攻め入るための準備を着々と進めていた。まずは情報収集のために、僕は魔王から場内にある書庫の一角に、部屋を設けてもらった。


 予想以上に魔王メネルドールは話のわかる人物で、多少の人見知りはする様だが、王都陥落計画に関して話を持ちかけてからというもの、ノリノリ有頂天である。彼は本当にことの重大さを理解しているのだろうか。


 書庫に部屋を置いたのは、わずかばかりの帰還への希望を抱いて、少しでもそちらの情報も集めようとの思惑だったが、王の蛮行を放っては置けないのも確かだ。しかしこの世界について学べば学ぶほど興味をそそられる。


 メネルは本には全く興味を示さない様だが、この書庫には歴史書だけではなく魔導書も多く、その多くが非常に詳細に理論展開されている。以前いた世界では完全におとぎ話の領域の様にも思えるが、魔術や錬金術などと軽視されていた分野が、何やら科学的にも思えてくる。事実、この世界では科学や機械などに代わって、魔法で生活の利便性を向上させている。むしろ魔法は私生活において切ってもきれない存在ですらあるようだ。


 僕が魔導書に齧り付いていると、書庫の入り口からザドンがにやけ顔で入ってきた。ザドンはいつも1階層の玄関付近にいるハイオークで、この魔境初の薬草栽培の助手を買って出てくれた、心優しい魔物である。毒霧立ち込める外環境で、毒に適応させた品種改良と、結界を張った区画を設けて様々な種類の薬草の栽培を進めている。


「エステルぅ〜、畑耕し終わったよ〜。あとカルロも手伝ってくれるって!」


 ザドンは水を得た魚のように、活き活きと働いてくれる。聞くところによると、以前は相当暇を持て余していたようだ。


「あぁ、スケルトンのカルロか、後で彼にもお礼を伝えにいかないとね。ありがとうザドン。」


「他にやることはないかい〜?」


 ザドンは小刻みにジャンプを繰り返し、次なる仕事の催促をしてくる。心から仕事を楽しんでくれている様子だ。


「ん〜?たくさんあるよっ!昨日、毒の打ち消し呪文がわかったから、そこにあるタネにかけてみたんだ。後でそれを撒くのと、誰か結界魔法が得意な人を知らないかい?」


「俺も種まき手伝うっ!結界ならクロノスが得意だよっ!」


 ザドンはでかい体躯と凶悪な見た目にも関わらず、意外と無邪気なんだな。大の大人でも、対峙したら泣き叫んで逃げ惑うような雰囲気だというのに。


「わかった、それじゃあこのタネを持って、クロノスを呼んできてくれるかい?僕もすぐに行くから、1階層で落ち合おう。」


「わかった!」


 ザドンは僕からタネをもぎ取ると、軽快なスキップを刻みながら書庫を飛び出していった。環境は最適とは言い難いかもしれない。だけどここで必要十分な薬草の栽培に成功したら、他の国にも安価で流通させることができたなら、悪環境に強い薬草の育て方を確立できたなら、少しは今苦しんでいる人たちを救えるのかもしれない。僕は腕まくりをして、読み切った本を本棚に戻して回った。最後の本を戻し終えたちょうどその時、メネルが不審者の様な立ち居振る舞いで、棚の影からこちらを伺っているのを発見した。


「やぁメネル、お疲れ様。」


 メネルは何やらモゴモゴと呟いているが、聞こえない。


「これからザドンと薬草の種まきをするんだけど、一緒に来るかい?」


 ようやくメネルはモゾモゾと棚の影から這い出してきた。前から思っていたが、彼は独り言が多いな。聞こえないけど。


「俺は、いい。それよりわかったのか?」


「うん、おかげさまでかなり解明できたよ。その件はいつもの闘技場で実戦訓練中に説明するのでいいかな?八咫烏が4回なく頃でいいんだよね?」


「あぁ、構わない。」


「うんそれじゃあ僕はザドンとの約束があるから、1階層にいるね。」


 メネルは何か物言いたげな感じだったが、僕は1階層へと急いだ。


ーーーーーーーーーーーー


【メネルドール視点】


 奴が我が城に来てからどのくらい経っただろうか。心なしか城内が活気付いた様にも見える。先程も書庫に来る途中で、ザドンが鼻歌まじりにクロノスを探していた。


 楽しそうね。とそばに控えるサキも混じりたげにザドンを眺めていた。


「全くあいつはここへ来てから、書庫に篭りっきりではないか。」


「みんな書庫に通う様になったのは、エステルに遊んでもらうために行くのよね。」


 ここへ来てまだ日が浅いというのに、どれだけ城内の魔物たちと打ち解けてるんだ。俺なんて高校で3年間かけて、人との会話は片手で数えられる程度しかないというのに!なんなのだあいつのコミュ力はっ!けしからん!


「これ以上奴をのさばらせてはおけんな!」


「とか言ってメネル様もエステルに遊んで欲しくてここに来たんでしょう。」


「ぐっ、勘違いするなっ!あいつが引きこもっている時間をもっとレベル上げに当てた方が、早く王を倒しに行けるではないか!」


「レベル上げの時以外は他の魔物に取られて構ってもらえないもんね〜。」


「ぐぬぬ…。」


 レベル上げ自体は確かに自他共に慣れているので苦ではない。むしろエステルは容量がいいので、かなりの速さで経験値が上がっているのは、観ていて興味深いものでもある。


 エステルはどういうわけか、最上階まで無傷で到達したのにも関わらず、レベルメーターで計測した時にLv.5しかなかったのだ。信じ難いことに、エステルが最初に申告した通り、本当に回復魔法だけしか習得しておらず、一切の攻撃魔法をも知らなかったのだ。


 それだけに飽き足らず、俺とラーヴァナがエステルのレベル上げをしてMPが増えても、頑なに暴力は嫌いだからと攻撃魔法を覚えようとしない。武器庫で好きな武器を選ばせた時も、まさかのレベルメーターを選んでいた。それ武器じゃないしっ!それからというものレベルメーターを常に持ち歩いて、何やら書庫の部屋で作っている様だったが、後程闘技場で問いただしてやろう。

 

 しかし攻撃魔法を覚えないでどうやって王都を滅ぼそうというのだ、まさか汚れ仕事は全て俺になすりつけるつもりではあるまいな。それも問いただしてやる。


「ねぇねぇ、私も種蒔き行きたい。」


 サキは殺風景な魔境での無謀な栽培計画に興味津々だ。1階層に向かいたがって先ほどから俺の周りをウロウロしてるのが、なんだか悔しい。


「好きにするといい。俺は先に闘技場に行ってるぞ。」


「えぇ〜まだ全然早いじゃん、一緒に種蒔こうよ。」


「いいの!俺は忙しいの!」


「さっきまで暇だからエステルの様子見に行くかとか言ってたくせに。もう行っちゃうもんね〜。」


 サキは無意味なフェイントを織り交ぜながら走り出し、書庫を後にした。何やら取り残されたようで、先の自分の選択を心の底から後悔したが、グッと自分を正当化する理由を探して踏みとどまった。理由なんて無駄なプライド以外何もないけどな!


 変にお高くとまとうとするからこそ、人との交流がおぼつかなかったのは、長年の経験から自負しているし同時に周知の事実でもある。しかし自分でも説明のつかないこの地面を這いずり廻る自らの尊厳を守ることで、我がアイデンティティは保たれてきたのだ。


 今までの自分を捨て、無惨にも底辺に位置する我が尊厳を放棄した場合、みんなと楽しく遊べるのだろうか。エステルと本当に友達になれるのだろうか。


「種蒔き、行けばよかったな。」


 俺は独り、誰もいない闘技場へと向かった。


ーーーーーーーー


【エステル視点】


 1階層についた時には、ザドンだけでなくたくさんの魔物たちが、種蒔きの手伝いに集まってくれていた。城を出てすぐ左側を進むと、荊の森の手前に少しひらけたスペースがある。決して広くはないが、実験的に栽培を始めるには十分な広さだ。12畳ほどのその土地は、最初に見た時には、ただの荒地だったが、ザドンが丁寧に耕してくれたおかげで、立派な農地となっていた。端の方には積み上げられた小石や雑草が積み上げられている。


「ザドン、大活躍だね!素晴らしい畑だよ!」


 畑を前に誇らしげに構えていたザドンに感謝を伝えると、ザドンはより一層胸を張り、持っていた薬草の種を待ちきれない様子でシャカシャカ振り始めた。


「それじゃあみんな、一列ずつ等間隔に種を撒いてくれるかい?ザドン、その種をみんなに配って。」


 魔物たちは我先にとザドンの前に列を作り始めた。


「あ、クロノスは僕と来てくれ。」


 クロノスは仮に運転させたらバックミラーとサイドミラーしか見ずに走るのではと思うほど、後ろ向きな堕天使で非常に臆病でもある。呼ばれた途端にビクッと他の魔物の影に隠れたが、しばらくしたら出てきてくれた。


「どうして僕なんか呼んだの…」


 弱々しい堕天使は力なく問うた。


「君の力が必要だったからね、この畑の右側半分に毒耐性のある結界を張ってくれないかい?」


「…うん。」


 すぐに畑に魔法陣が現れて、右側半分の空間に半透明のベールがかかった。押してみるとラップをかけたような表面張力があるが、強く押すと通り抜けられる。中に入ってみると結界の内側は自然と浄化されているようだ。


「素晴らしい精度だ!ありがとうクロノス!」


 終始俯いているクロノスだったが、少しだけ口元が緩んだ様にも見えた。


「さあ、こっちの畑にはこの種を植えよう!クロノス、カルロ来てくれるかい?」


 陽気なスケルトンのカルロは、ようやくお呼ばれしたと上機嫌で手伝ってくれた。大方種を巻き終わった頃に、城のてっぺんで八咫烏が4回鳴く声が、魔境の荒地に反響した。


「あ、ごめん僕いかなきゃ!みんな後任せていいかい?」


 魔物たちは快く返事をし、和気藹々と談笑しながら後片付けを始めた。


「さて、気合を入れないとな。」


 そして僕はメネルの待つ闘技場へと向かった。


ーーーーーーーーーーー


【メネルドール視点】


「遅いぞ!」


「いやあごめんごめん、みんな手伝ってくれたんだけど、思いのほか時間がかかってしまって。」


 エステルの充実した笑顔を見ていると、自分との格差を感じて無性に腹が立つ。そして数時間前の自分自身の決断に激しく後悔の念を抱く。


「ったく、始めるぞ。」


 俺がラーヴァナを呼び出そうとすると、エステルは人差し指を立てて俺の召喚を止めた。


「その前に、一つ重要な話があるんだけど、聞いてくれるかい?」


 エステルがそれまでの笑顔から突然、真剣な面持ちになったので、俺はレベル上げを急ぐよりも話を聞いてやることにした。おそらくあまり多くの人に知られたくない内容なのだろう。


「なんなのだ、例の力の解明の話か?」


「そう、僕がなぜここまで来れたか、ラーヴァナ達との戦闘で無傷だったのかわかったんだ。百聞は一見にしかずっていうし、ちょっとナイフを貸してくれるかい?」


「ん?あぁ…。」


 俺は空間魔法で短剣を取り出し渡すと、徐にエステルは自分自身の手首を切りつけた。


「えっ!えっ?何やっての!?」


 思いっきりバッサリいっ…いってない!?今度はナイフを自分自身の腹に突き刺した。


「うわっ!ちょっ!おまっ!?」


「これが僕の力の秘密。特別何かしているわけではないんだけど、いくら傷つけても傷つかないんだ。」


 一体どういう状態なんだ、これが守護晴天の特殊能力だというのか、だとしたらどんな攻撃も効かないだなんてあまりにチート装備だ。ふざけている。


「ほう…な…なるほどな。」


「正確には、痛覚を感じるよりも早く、すごいスピードで回復し続けている感じかな。思い返してみると、突然光に包まれてこの羽が生える少し前に、僕は自分自身に回復魔法をかけていたんだ。どうやらそれが常に暴発しているようなんだ。」


「そんな、それ程の勢いで回復し続けたら、とっくにMPが枯渇しているではないか!」


「うん、だけど僕のMPは全く影響を受けていない。君のいう守護晴天の能力以外考えられないんだよ。」


「ふざけた装備だな。それに解除できないなんて。」


 この言葉にエステルは少しショックを受けたのか、僅かに俯いたような気がした。


「そうだね、だからラーヴァナとの戦闘や、君とのレベル上げの時も、僕は攻撃を避けていたのではなく、実際には全部当たっていたんだよ。」


「それでダメージ0とはな。」

 

 こいつは敵ではないからまだいいが、万一敵対した場合には何かしらの対策を講じないと、いくら眷属をつけようが俺でも倒せないということか。運営のお遊びもここまで度が過ぎると、腹立たしさを超えて呆れてくる。例の謎イベントを巻き起こしただけでなく、こんなゲームバランス崩壊要素を残していくとは。


「しかしその守護晴天の獲得にはいくつか条件があったはずだが。」


「あぁ、君がこのあいだ話してくれたフレンド登録ってやつのことかな?登録とかよくわからないけど、この城に来るまでの間にたくさん友達ができたんだ。えっと、みんなの名前を書いたんだけど。」


 エステルがポケットから取り出したトランプサイズのメモの束には、表面に小さな字で友人帳と書いてあり、開いたページを覗いてみると、ビッッッッッッシリと名前が書かれていた。


「シルビアは王都で初めてできた女の子のお友達、エルフィンは深森で寝床を貸してくれたエルフの娘、ビビアラはアイスロック山脈で一緒にBBQをした龍人族の王女、あそうそう、この水の都で出逢った自称水の女神に、飲める洗剤をもらったんだけど、道中それを飲んだ後に体調を崩して、自分に回復魔法をかけたんだよ!ははは」


 んんんんん全部女の子かよっ!男女間の友情なんて、今度とお化けぐらい見たことないよっ!そしてこいつは守護晴天取得条件の1000人フレンド登録を、ここにくるまでの1ヶ月で達成しただと!?俺はこの18年の人生で…んもう言いたくないっ!


「ハハハ、タノシソウダナ…。」


 俺が本物のリア充との差異を目の当たりにして、完全敗北の色を全面的に滲み出していると、エステルは1番最後のページの真ん中に滲んだ名前を指さした。


「メネルドールはここ、最後のページの真ん中、もうメモ買い足さないとね。」


 笑顔が眩しすぎて直視できない。


「か、勘違いしないでよねっ、手を組むとは言ったけど友達になるなんて言ってないんだからねっ!」


 完全に動揺して格好のつかない調子だった俺に、エステルは本当に天使のような笑顔で、何いってんだよ、僕たちもう友達だろ。とまっすぐ目を見て言ってくれたことを、俺はきっと一生忘れない。彼にとっては何千人の中の1人かもしれないが、俺にとっては生涯でたったの1人なのだから。


「そういえば、魔法についてわかったことがもう一つあるんだけど、聞いてくれるかい?」


「あ…あぁ、なんだ?」


「魔法原則に関してはもちろんメネルも知ってるよね、魔法がどうして発現するのか。」


「そんなもの知らん。魔導書は手をかざすだけで叡智が舞い降り、魔法を放てるようになるのだから、いちいち内容など読んでいない。あんな分厚い本よく読めるな。」


「初めての簡単なおまじないって、子供が読む本にも書いてあるんだけど…、簡単に説明すると、魔法というのは思考が具現化した状態なんだ。」


 確かに魔法を放つときには具体的なイメージを先行させて撃っている。コマンド入力のようなものか。


「物質はエネルギーだという法則があるのだけれど、思考もまたエネルギーで振動数が非常に高い波動なんだ。その波動が振動数を下げると光となり、さらに振動数を下げると電気信号となる。そしてさらに振動数を下げるとエーテル質のいわゆるオーラに作用して、もっと振動数の下がった、凍結した波動が物質なんだ。この思考→光→電気→オーラ→物質の法則を具現化したのが魔法の原則なんだけど…」


「ちょっと待て、考えたことが現実化する法則があるなら、なぜ前の世界では思ったことが現実にならなかったんだ?」


「そう、この世界では思考が具現化するスピードが異常に早いんだ。詰まるところ、前に僕らがいた世界よりも波動領域の高いところか、もしくは…」


「もしくはなんだ。」


「もしくは死後の世界である可能性が高い。」


 その言葉に俺は戦慄した。転生とは確かに死んで異世界へと旅立つことを意味するが、俺はいつ死んだのだ?ゲームからログアウトできなくなっただけで、最悪、空間転移を予想していたが、死んだとなると話は別だ。前の世界に未練があるわけではないが、トラクターに轢かれそうになったわけでもないのに何故!?


「エステルは海に飛び込んだと言っていたな。」


「うん、メネルはゲームのやりすぎで過労死したんじゃないかな?あくまで仮設だけど。」


 ゲームのやりすぎで過労死…なんとも間の抜けた死因に、唐突に自分が情けなくなった。望んでこの世界に来たはずなのに、これほど前世が自尊心をすり減らすとは思わなんだ。


「そしてここからが本題。」


 エステルはゴソゴソとポケットを漁り始めた。


ーーーーーーーーーーーー


【エステル視点】


「じゃ〜ん!」


 僕はメネルに借りていたレベルメーターを、守護晴天の円光に紐で括り付けた。唖然としているメネルにわかりやすく説明するために、僕は言葉を選びながら説明した。


「このレベルメーターは対象の波動の強さを、レンズを通して色や大きさで測るものだけど、実はそれだけじゃないんだ。全ての生命体は異なる波動領域が重なり合った、微細エネルギー場の集合体なんだけど、このレベルメーターは対象のエーテル体、アストラル体、メンタル体、さらにはコーザル体までをも可視化できるんだ。」


「チョットナニイッテルカワカラナイ。」


 メネルは放心状態だ。


「本来なら同じ波動領域のものは同時に存在できない。僕たちが物理的に接触しても融合しないようにね。だけどこの世界ではなぜか、不可視の高い周波数であれば同じ波動領域の魔法が同時に存在できる場合があるんだ。」


 メネルの頭の周りを、UFOが回っているのが見え始めたので、僕は詳しい説明を中断した。


「要するに君はもっと強くなれるってこと。」


「何をいうか、俺はレベルMAXだぞ、これ以上どうやって強くなるというのだ。」


「メネル、君の最強魔法が2倍の威力になると言ったら信じるかい?」


「なんだと!?」


「この世界では、魔法に魔法がかけられるんだ。同じ魔法を先行した魔法にかけると、波動の波が共鳴して、威力が倍増する場合がある。そしてそれは別の魔法同士にも応用できるようで、例えば回復魔法に氷結魔法を混ぜると、普通よりも火傷の治癒に効果的なんだ。」


「そんなことが…」


 メネルは混乱していたようだが、意味を理解すると自分自身のさらなる可能性に希望を見出したのか、目を輝かせ始めた。


「魔法を発動する時に呪文を唱える人は、魔法に声の波動を共鳴させて威力を上げてるからなんだよ。言霊みたいにね。」


 伝えたいことはたくさんあるが、そろそろメネルのキャパシティーを知識の洪水が決壊させそうなので、要点だけを伝えることにした。


「今日はメネルに基本の5大魔法を教えてもらいたくて、僕は攻撃に使うつもりはないけど、治癒に応用するためにたくさん魔法を覚えたいんだ。」


「それでそのレベルメーターを持ち歩いていたのか。」


「そう、これなら怪我や病気に対して、どんな回復魔法が効果的かすぐに見えるからね!唯一の難点はこの状態だと、歩き出したときにメーターが慣性で顔にぶつかることかな。」


「全く、貸してみろ。」メネルは僕からレベルメーターを取り上げると、レンズから生えている柄の部分を引っこ抜き、僕の顔の前に押し出した。


「動くな、利き目はどっちだ?」


「右目の方が良く見えるかな。」


「であれば左に固定するぞ。」


 メネルは僕の左目の前にレンズを向けると、空間魔法を発動して位置を固定してくれた。


「これで邪魔にはなるまい。」


 確かに急に振り向いても、下を向いても左目の前からレベルメーターが動くことは無くなった。その感動よりも、僕はある可能性に心を躍らせていた。


「ありがとうメネル、ところで君、空間魔法以外に時間魔法も使えたりする?」


「当たり前だ、俺を誰様だと思ってる。」


 淡い期待がある仮説を導き出し、僕は猫をも殺しかねない好奇心の奴隷と化した。


「メネル、面白いことができそうだよ。」

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